確定拠出年金での運用について考える~リスクをとるなら日本株、それとも外国株?:研究員の眼

10年、20年、30年間に亘って日本株に投資した場合に、どのような成果になるかを試算した。

以前、この研究員の眼で個人型確定拠出年金制度について書いた。

その際に制度のメリットが加入者の立場によって異なることや、運用の開始と終了のタイミングによって運用利回りが異なる可能性があることに触れた。後日、その文章を読んだ方から「日本株への投資はやめたほうが良いのか」という質問を頂いた。

筆者が運用に携わるようになってから40年近くなるが、この世界に絶対の解がないことを痛感している。ただ、過去の事例から学べることは多いと考えている。そこで、今回は二つの視点から頂いた質問について考えてみたい。

最初の視点は日本株への投資を異なる期間で評価した場合はどうかというものである。

前回、筆者が示したのは、15年間にわたって毎月一定の額を日本株のインデックスファンドに投資し、その終了時点における運用成果がどう推移するかを見たものであった。15年というのは日本で確定拠出年金がスタートしてからの期間に相当する。

使用したデータの関係から、分析の対象は1997年以降の事例に限られているが、例えば1997年6月から2012年5月末までの15年間では、運用資金に対して約30%の含み損が発生している。

このことから、筆者としては運用の開始および終了タイミングについても注意が必要だと考えた。しかし、1998年4月以降に運用を開始していれば、そのタイミングに係わらずプラスの成果があった。より多くの加入者にとってメリットがあったという判断も確かに可能である。

そこで今回は10年、20年、30年間に亘って日本株に投資した場合に、どのような成果になるかを試算した。

図表1が10年、図表2が20年、図表3が30年の結果を示している。

試算の方法は前回と大きく変わらないが、毎月の積立額を10,000円とし1969年末にスタートした指数(MSCI Japan 課税前配当再投資ベース)に沿って運用がなされたものと仮定している。図表1~3のそれぞれに引いた線(120万円、240万円、360万円)は損益の分岐点になる。

10年の例で見ると積立額120万円に対して、大きく分けて3回ほど含み損を抱える期間(運用の終了時期が1995年1月~1999年5月、2000年11月~2005年6月、2008年9月~2013年1月)があり、計算対象の約35%の時期で含み損を抱えている。

20年の場合もほぼ同様の結果で、計算対象の約31%で含み損を抱えている。さすがに30年になると安定感が増してくるが、それでも計算対象の約18%で含み損を抱えている。どうしてこのような結果になるのであろうか。

図表4は計算に使用した日本株指数の動きを示したものだ。

説明するまでもなく1980年代末期のバブル期にピーク(1989年12月に2460)をつけ、その後は1000~2000の間を往復している。運用がこの1000~2000の往復期間に行われていれば、その運用成果も横ばいの状態になるであろうことは予想できる。

図表1の10年から図表3の30年について運用結果を計算すると、横ばいになった期間の平均はそれぞれ124万円、252万円、398万円である。

毎月の積立額の累計はそれぞれ120万円、240万円、360万円であるから、その間は年率0.6~0.8%程度のリターンがあった運用商品への投資を継続した計算になる。

株式投資としては期待外れと言わざるを得ない。こうした実績から、日本株の運用で老後に備えようとするのであれば、運用の開始時期と終了時期について慎重な検討が必要だとの結論になると思われるが、どうであろうか。

では、これから確定拠出年金を始めるにあたってどうすればよいのだろうか。そこで外国株について同じような試算を行ってみた。これが二つ目の視点だ。

外国株への運用成果を計算するのにあたっても1969年末にスタートした指数(MSCI-Kokusai 課税後配当再投資・円ベース)を用いた。

日本株の指数が課税前配当再投資としているのに対して、外国株の場合には源泉課税の影響を無視できないために、課税後配当再投資ベースの値を使っている。

図表5はその推移を示したものだが、図表4の日本株とは大きく異なる様子がひと目で分かる。そして同じように10年~30年の運用期間毎の運用成果を表したのが図表6~図表8になる。図表6が10年、図表7が20年そして図表8が30年の結果を示している。

日本株の場合と比べると、(1)運用成果は日本株と比べてかなり高い水準にあり、終了時点で含み損を抱えるケースは10年の場合を除いて発生していない、(2)運用期間が長いほどその成果が比較的安定しているが、その水準は段階的に低下してきている、といった点を特徴として挙げることができる。

図表6の10年から図表8の30年について、最近の期間(丸囲み部分)の平均をみると、それぞれ164万円、449万円、1,492万円である。その間、年率6~8%程度の運用商品への投資を毎月継続したのと同じ計算になる。

段階的に下がってきているとはいえ、日本株の場合と比べれば高い水準にある。しかし、問題はこれが将来についても言えるかどうかである。

そこで行なったのは外国株指数のシンプルなモデル化だ。

図表9の青色の線は計算に用いた外国株指数の動きを示している。指数の開始時点から過去のピーク(2000年8月、2007年10月)及び現時点の三点を結ぶ3本のカーブは、単純な複利曲線の形状にすぎないのだが極めて指数の動きに近い。

一定の利率で運用される商品に毎月定額の投資を行った場合、その運用成果はタイミングに係りなく同じ値になるはずで、そのことが最もよく当てはまるのが運用期間30年の場合だ。

図表9にある中央の複利運用の曲線(カーブ2:緑色)は図表8の3000万円付近の水平線に対応し、右端の曲線(カーブ3:黒色)は1500万円付近の水平線(丸囲み部分)に対応する。

残念ながらカーブ1からカーブ2へ、カーブ2からカーブ3へ移行する毎に運用成果は下がっているが、貯蓄としての役割は果たしている。

仮にこれからも外国株の指数がカーブ3の曲線に沿って上昇すると仮定すれば、30年後には1,500万円程度(成長率年8%の場合)の成果を期待できることになる。しかし、さすがに指標に含まれる先進国の株価が将来もカーブ3の曲線に近い形で成長することを期待するのは難しいかもしれない。

仮定の成長率を6%にすると30年後は1,000万円、4%にすると700万円、2%でも500万円だ。いずれのケースでも図表3でみた日本株での運用(30年)よりは高い値となる。長い目で見ると外国株に軍配が上がる可能性がある。

世界的な景気減速が懸念される中、NYダウは最高値を記録した。その背景には金融政策を巡る思惑など短期的な要素もあると思われるが、米国経済の長期的な成長力に対する信頼感があればこその動きであろう。

指標として使ったMSCI-Kokusaiには日本を除く先進22か国の株式市場時価総額の85%程度が反映されている。中には日本と同様に高齢化による経済の停滞も懸念される国々も含まれるが、米国が6割弱を占めその他にも経済成長を期待できる国がある。

長く投資を続ける前提で考えると外国株に軍配が上がりそうだと述べた根拠はここにある。筆者が老後の備えを意識したのは今から20年ほど前のことだが、当時は確定拠出型年金もなければ外国株に対する投資機会も限られていた。

現在では確定拠出年金向けの運用商品にMSCI-Kokusaiをベンチマークとしたものが多数出てきていることは心強い。これから長い人生を歩む若いビジネスパーソンにとって外国株への投資は検討の価値がありそうだ。

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(2016年7月29日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

常務取締役 金融研究部 部長

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