(安倍政権の骨太の方針、成長戦略)
6月には例年、骨太の方針や成長戦略が閣議決定される。図表1は安倍政権がスタートしてからの骨太の方針と成長戦略のテーマだ。
骨太は、2013年は「デフレ脱却」、14年は「好循環」、15年は「財政再建よりも成長」、16年は「600兆円経済への道筋」と変遷、その時の経済状況や政策の力点をよく表している。
いまから見れば14年にはデフレ解消の道筋が見え、好循環にどう日本経済を導くのか、賃上げなどが大きな論点となった。
2015年の経済再生なくしてのフレーズは、安倍首相が2016年5月の伊勢志摩サミットで消費税引き上げの再延期を決定することを織り込んでいたのかもしれない。
2016年には、2020年のオリンピックに向けて経済が拡大するという政策を打ち出し、名目GDP600兆円という新たな目標が骨太で設定された。
成長戦略も2013年は「JAPAN is BACK」と日本を取り戻すというキャッチフレーズだったが、14年にはROEが重視された。
15年の「生産性革命」から16年の「第4次産業革命」へと、政府の方針=重点の置き所をより具体化してきている。第4次産業革命に盛り込まれた「AI」「IoT」、「ビッグデータ」「ロボット」は去年から大注目だ。
(今のところ静かな骨太の方針に向けた議論だが)
今年6月の骨太の方針では、18年度予算編成に向けた基本的な考えが示される。2020年度のプライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化という目標にとって今回の骨太の方針は重要だ。
2016年から2018年の3年間は、黒字化に向けた集中改革期間という位置づけだ。18年度はその改革期間最終年に当たる。この3年間の延長線上で2020年黒字化が可能なのか、その判断を迫られる重要な年だ。
また、来年度は「診療報酬」・「介護報酬」の同時改定、「薬価制度改革」、「待機児童対策の新プラン」など、私たちの生活にも影響の大きい改革が予算に反映される予定だ。この点、もっと議論が盛り上がってもおかしくないのだが、今のところ静かである。
2016年度と17年度の2回の予算編成では、社会保障の自然増を年5000億円、その他の前年比並みに押さえ込むことができた。「18年度についても同様でいい」という落としどころ感が、予算を切り詰める財務省にも、要求する各省庁にもあるのではないか。
ただし、ここにきて状況が少し変わってきている。安倍首相が2020年と時期を区切って憲法改正を行なうことを言明した。憲法改正の中では9条だけでなく教育無償化にも言及している。
高等教育までの無償化は、4兆円程度が必要となる。2018年度以降の予算編成で間違いなく大きな争点となる。その最初の18年の予算の方針が見える今回の骨太には、教育国債やこども保険といった制度設計を通じて色々な思惑が噴出しそうだ。
(成長戦略:生産性革命に人手不足対応が盛り込まれることに)
17年の成長戦略のテーマは「ソサエティー5.0」だ。安倍首相はBSジャパンとCNBCのインタビューで「21世紀の新しい概念としてインダストリー4.0という考え方もあるが、我々はソサエティー5.0だ。社会の課題の解決に力点を置き、人々の生活を豊かにする」と述べている。
AIやIoT、ビッグデータを使った生産性革命を実現し、今回の成長戦略には日本が抱える人手不足問題への解決策がかなり強調されるだろう。分野的には健康・医療介護、自動運転などの移動革命、フィンテックなどが項目立てされ、前面にでてくることになりそうだ。
ITを活用した金融サービス「フィンテック」の数値目標では現金を使わないカードやスマホでの決済比率を4割程度と今後10年で2倍に引き上げる方針だ。またフィンテックなどで、一時的に関連法案の適用を凍結し、規制が大幅に緩和された環境を作り迅速な実証実験が可能となるような新たな規制緩和の手法が導入される見込みだ。
自動走行では2020年には国内車両の20%に自動運転機能を搭載する目標が掲げられそうだ。また、人手不足関係・流通業などの省力化につながる高速道路での自動運転を2022年に商業化、また東京五輪の会場を含め、20年に無人走行による移動サービスを実現する目標が盛り込まれる見込みだ。
これだけのKPIを実現するためには、かなりの政策が投入されるはず。予算や規制緩和項目が集中してくることになるので、骨太の方針と合わせて成長戦略に対して市場の関心も高まってくるだろう。
【関連レポート】
(2017年5月19日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
経済研究部 研究理事 チーフエコノミスト