政府が「一億総活躍社会」を目指す背景には、わが国の急速な人口減少に対する強い危機意識がある。今年10月に総務省が公表した2015年の国勢調査の確定値では、わが国の総人口は1億2709万5千人と前回の2010年調査から96万3千人の減少となった。
都道府県別ではこの5年間に人口が増加したのは沖縄県、東京都、埼玉県、愛知県、神奈川県、福岡県、滋賀県、千葉県の8都県、残る39道府県では減少。全国1,719市町村をみても、全体の82.5%に当たる1,419市町村で人口が減少した。
65歳以上人口の割合である高齢化率は26.6%、15歳未満人口の割合は12.6%と、世界のなかでも少子高齢化の進展がきわめて目立つ。また、15歳から64歳の生産年齢人口は7,629万人と5年前に比べ474万人減少。
わが国の人口減少は、多数の生産年齢人口の減少を伴いながら著しい少子高齢化が進展する人口構造の変化であることがわかる。
その対策として、「一億総活躍社会」の実現に向けて「GDP600兆円」「希望出生率1.8」「介護離職ゼロ」が目指されているのだ。
「GDP600兆円」を達成するためには就業人口の確保が求められるが、経済成長は就業人口と労働生産性から規定されることから生産性の向上も重要だ。
『日本の生産性の動向2015年版』(日本生産性本部)によると、2014年の日本の労働生産性は「一人当たり」72,994ドル(768万円/購買力平価換算)、「時間当たり」41.3ドル(4,349円)で、いずれもOECD34カ国中21位、米国の約6割の水準である(*1)。
労働生産性の向上のためには、抜本的な「働き方改革」が必要だ。2016年8月の厚生労働省の懇談会の報告書『「働き方の未来2035」~一人ひとりが輝くために~』には、2035年に向けた「働き方改革」を示す興味深い提言がされている。
特に、AI(人工知能)を中心とした技術革新は、労働力人口減少の緩和や生産性の向上に寄与すると同時に、働く場所をはじめとした様々な制約を解消し、すべての人が自由で自律的な働き方ができるようになるチャンスだとしている。
今後、人々は長寿化により一層長い年数働くことが必要になり、時間や場所にしばられない柔軟な働き方が求められる。
『ライフシフト~100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、東洋経済、2016年11月)には、ロボットや人工知能が労働力人口の縮小を補い、生産性の水準を維持すると述べられている。
近年、長時間労働により貴重な命が奪われるという痛ましい事件が続く。
わが国は労働時間を延長して「一人当たり」の労働生産性を高めるのではなく、「時間当たり」の生産性を向上させる「働き方改革」を実現することで、人口減少時代を乗り越えなくてはならない。
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(*1) 日本の「一人当たり」労働生産性が米国並みに向上すれば、たとえ日本の就業者数が4割減っても生産量(名目付加価値額)は変わらない。また、「時間当たり」労働生産性が米国並みに向上すれば、現在の生産量を維持するための就業者の労働時間は4割減らせることになる。
(2016年11月8日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員