円安になりやすい時間帯は存在するか?(3)

約5~7年という期間にわたって、これらの主要通貨ペアにおいて、ある一定のトレンドを維持している時間帯が存在していたことは確かである。

円安に対する米ドル高の影響を検証してみる

「円安になりやすい時間帯は存在するか?-米ドル/円の「時間効果」を計測してみる」では、米ドル/円について円安になりやすい時間帯の有無について検証し、(1):7:00~11:00、(4):19:00~23:00、(6):3:00~7:00において他の時間帯よりも米ドル/円が相対的に円安になりやすいことを指摘した。

円安と米ドル高は表裏一体の関係であることから、米ドル高による円安への影響と他の対円通貨ペアの円高・円安傾向についても比較検証してみたい。

下の表1は、前回とほぼ同じのデータ期間である「2009年8月31日~2014年12月31日」の約5年間とリーマンショック時のボラタイルな動きを含む「2007年9月3日~2014年12月31日」の約7年間において、主要7通貨ペア(豪ドル/米ドル(AUDUSD)、ユーロ/米ドル(EURUSD)、ボンド/米ドル(GBPUSD)、豪ドル/円(AUD/JPY)、ユーロ/円(EURJPY)、英ポンド/円(GBPJPY)、米ドル/円(USDJPY))に関して、前回と同様の方法で4時間毎の終値の差分を足し上げたものである。

対米ドル通貨ペア(豪ドル/米ドル(AUDUSD)、ユーロ/米ドル(EURUSD)、英ポンド/米ドル(GBPUSD))と対円通貨ペア(豪ドル/円(AUDJPY)、ユーロ/円(EURJPY)、英ポンド/円(GBPJPY)、米ドル/円(USDJPY))の「時間効果」を比較しやすくするため、差分の総和をpips表示(*1)で示した。

対米ドル通貨ペアの結果がプラス(マイナス)の場合は米ドル安(米ドル高)、対円通貨ペアの結果がプラス(マイナス)の場合は円安(円高)に寄与していたことを示している。また、特にトレンドが強く出ていた通貨ペアの時間帯を黄色で塗りつぶした。

(1):7:00~11:00(GMT:22:00~2:00/EST:17:00~21:00(*3))

一般的に本邦の輸入業者の米ドル買い需要が強いと指摘される時間帯である。対米ドル通貨ペアを見ると米ドル/円に限らず、他の通貨ペアにおいて米ドル買いのトレンドが強く出ていたことを示している。この傾向はリーマンショック時のデータを含めても変わらない。

対円通貨ペアについては、全般的に対米ドル通貨ペアの他通貨売りの影響から円高方向に動いていた。しかし、対米ドル通貨ペアの米ドル高(他通貨安)の動きと米ドル/円の円安方向の動きが相殺する形になるため、強いトレンドを持つのが難しい状況であったものと考えられる。

(2):11:00~15:00(GMT:2:00~6:00/EST:21:00~1:00)

一般的に本邦の輸出業者や資産運用会社の米ドル売り需要が強いと指摘される時間帯である。米ドル/円の円高傾向が最も強い時間帯であったことを示しているが、対米ドル通貨ペアの結果から、米ドル売り需要が全般的に強い時間帯であると指摘することもできよう。

対円通貨ペアについては、米ドル/円の円高方向の動きに連動していて全般的に円高方向に寄与してきた。

しかし、リーマンショック時は米ドル/円の円高傾向のトレンドに連動する形で豪ドル/円と英ポンド/円にも強い円高トレンドが生じていたもの、それ以後は対米ドル通貨ペアの米ドル安(他通貨高)の動きと米ドル/円の円高の動きが相殺し合う形で対円通貨ペアに強いトレンドが生じにくい状況になったものと思われる。

(3):15:00~19:00(GMT:6:00~10:00/EST:1:00~5:00)

米ドル/円の円高傾向が強かった期間において最も円高に寄与していた時間帯であったことを前回指摘した。この時間帯からロンドン市場における取引が徐々に増えていくことになるが、通貨と市場という関係で見ると、英ポンドにとって売られる時間帯になっており、東京時間に円高方向のトレンドを持つ円とは反対の動きをしている。

(4):19:00~23:00(GMT:10:00~14:00/EST:5:00~9:00)

ロンドン市場における取引が中心となる時間帯であり、対米ドルでユーロと円が大きく売られる傾向にある。15:00~19:00において英ポンドが売られていた点を指摘したが、ユーロもロンドン市場で売られる傾向にあったことを示している。

豪ドルと英ポンドは対米ドルで売られていたわけではないことから、特別にユーロと円が弱い時間帯であったといえる。ユーロ/円を除けば、対円通貨ペアは円安方向に寄与しており、本邦投資家にとって外貨資産が増えやすい時間帯になっていた。

(5):23:00~3:00(GMT:14:00~18:00/EST:9:00~13:00)

ニューヨーク市場の取引が徐々に中心となっていく時間帯である。一般的にロンドン・フィキシングやニューヨーク・オプションカットといった為替市場において重要なイベントがあるが、対ドルの通貨ペアにとっても、対円通貨ペアにとっても、強いトレンドが出にくかった時間帯のようである。

(6):3:00~7:00(GMT:18:00~22:00/EST:13:00~17:00)

ニューヨーク市場から東京市場へ移行していく中で取引の流動性が薄くなり、過去に投機筋により流動性の薄い状況を狙った取引が行われたと指摘されている時間帯である。

リーマンショック時のボラタイルな市場環境下では米ドル/円が円高方向に動いていたものの、2009年9月以降のデータ期間ではこの時間帯において他通貨比で円が最も弱くなっており、対円通貨ペアに強いトレンドがあったことを示している。

つまり、この約5年間は本邦投資家にとって最も安定的に外貨資産が増えていた時間帯であった。

以上の各時間帯における各通貨ペアの傾向をまとめたのが、次の表2である。

これらの関係性について、今後も同様に続くのかどうかを断定するのは難しい。しかし、約5~7年という期間にわたって、これらの主要通貨ペアにおいて、ある一定のトレンドを維持している時間帯が存在していたことは確かである。

各時間帯で発表される経済指標や要人発言、市場のクラッシュ等の影響により逆方向へ動くことはあるものの、長い目で見れば、これらの検証結果は各時間帯における継続的な一方向の取引による影響が無視できないことを示唆している。

市場のクラッシュ等に起因する円高方向への急激な反転がなければ、リアルタイムに外貨資産の増加を実感するのに寝不足が避けられなくなってしまう状況は今後もしばらく続くのではないか。

*1 異なる為替レート間の比較を容易に行うために使用される単位であり、AUDUSD、EURUSD、GBPUSDについては0.01セントを1単位、AUDJPY、EURJPY、GBPJPY、USDJPYについては1銭を1単位とする。表1では、各時間帯の終値の差分の総和に対して、AUDUSD、EURUSD、GBPUSDについて10,000倍、AUDJPY、EURJPY、GBPJPY、USDJPYについて100倍している。

*2 「平均ゼロ」を帰無仮説として検定した結果、t値の絶対値が2を超えていたかどうかで判定している。

*3 GMTはグリニッジ標準時(ロンドン時間)、ESTはアメリカ東部標準時(ニューヨーク時間)を指す。ただし、本稿では各標準時における夏時間を考慮していない。

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(2015年1月13日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

金融研究部 研究員

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