BLOG
2018年01月12日 10時19分 JST | 更新 2018年01月12日 10時19分 JST

「はれのひ」問題の本質は、“賃金不払の犯罪”

最大の原因は、「はれのひ」が給与不払のまま事業を継続していたことにある。

突然閉店した振り袖の販売・レンタルや着付けを手掛ける「はれのひ」の実質上の本社が入っていた商業施設=10日、横浜市桜木町 
時事通信社
突然閉店した振り袖の販売・レンタルや着付けを手掛ける「はれのひ」の実質上の本社が入っていた商業施設=10日、横浜市桜木町 

日産自動車、神戸製鋼所など、日本を代表する企業の不祥事が相次いだ2017年が終わり、2018年の年明け早々、それらとは全く性格の異なる小規模企業が起こした「不祥事」が社会に大きな波紋を生じさせている。

晴れ着の販売・レンタルと当日の着付け等の事業を行っていた企業「はれのひ」が、1月8日の成人式の直前に突然営業を停止し、店舗が閉鎖されて連絡がとれなくなった。予約した晴れ着が届かず、着付けも行われず、多くの新成人が成人式に晴れ着で出席できない事態となった。

昨年相次いだ大企業の不祥事の多くが、実害を伴わない「形式的不正」であったのとは異なり、「はれのひ」の問題は、多くの消費者に重大な経済的、精神的損害を与えた。

この問題の本質と、責任追及の在り方を、コンプライアンスの視点から考えてみたい。

営業停止に至る経過

「はれのひ」の主要店舗は、横浜、八王子、つくば、福岡の4店。報道によると、1月6日に、本社から各店舗に営業停止の指示があり、このうち、1月7日が成人式だったつくば店と、1月8日が成人式だった福岡店は、店長の判断で営業を継続し、可能な限りの対応を行ったが、横浜店は、営業停止の指示があった時点で、従業員は既にすべて退職しており、アルバイト店員だけだったため営業ができず、八王子店も、詳しい状況は不明だが、営業停止の指示に従ったようだ。

その後の報道によると、「はれのひ」は、1年半前から6億円を超える債務超過で、最近4か月は、従業員に対する給与も支払っていなかったとのことだ。

今回の営業停止が事実上の「経営破綻」によるものであることは明白だ。

企業の経営破綻は、債権者や取引先に重大な損害を与える。取引先が一般消費者である「BtoC」の事業の企業が消費者に予測し難い損害を生じさせた最近の事例として、格安旅行会社「てるみくらぶ」のケースがある。

「てるみくらぶ」のケースでは、自己破産申請を行った日に、女性社長が記者会見を開き、涙ながらに謝罪を行い、少なくとも、自らが引き起こした事態に正面から向き合う姿勢は示した。一方、「はれのひ」の方は、多くの新成人・家族に予期しない重大な打撃、損害を与えておきながら、社長は行方をくらまし、営業停止した店舗の従業員も姿を現わしていない。つまり、問題を起こした当事者の企業の側が誰も姿を現わさず、どのような経緯でそのような事態になったのか説明もせず、謝罪すらしない。つまり、引き起こした事態に対して、会社側は誰も正面から向き合っていない。

「はれのひ」に対する「社会の要請」

コンプライアンスとは、「組織が社会の要請に応えること」であり、組織の不祥事とは、「社会の要請に反すること」である。

「はれのひ」という企業にとっての「社会の要請」は、「晴れの日」を祝う人々の幸せをサポートすることにあったはずだ。そういう企業にとって、祝福と喜びに包まれるはずの成人の日という「晴れの日」に、新成人や家族を大混乱と悲嘆に陥れるというのは、本来の「社会の要請」に最も極端な形で反してしまった重大な「不祥事」だ。

当初から反社会的活動を行うことを目的としている犯罪組織や暴力団でない限り、組織に働く者は、誰しも、組織の活動も自分の業務も、社会の要請に応えるものと考えて仕事をしているはずだ。「はれのひ」にも従業員がいて、もともとは「晴れの日」を祝う人々の幸せをサポートするという「社会の要請」に応えようと仕事をしていたはずだ。成人の日の直前までは、そのような従業員の仕事が続けられていた。そういう従業員にとって、「社会の要請」に正面から反し、自分達が直接相対していた顧客に重大な迷惑と損失を与える事態に至ることは、何とかして避けたいと思うのが当然だ。それは、組織に働く者としての最低限のコンプライアンスである。ところが、少なくとも、営業停止の直前まで多くの従業員が働いていた「はれのひ」では、その最悪の事態を引き起こすことを避けることができなかった。

「社会の要請」に応えられなかった原因としての「給与不払」

その最大の原因は、「はれのひ」が給与不払のまま事業を継続していたことにある。給与(賃金)を支払うことは、経営者の従業員に対する最も基本的な義務である。その義務すら果たせないまま事業を継続していたという異常な状況が、今回のように、企業としてのコンプライアンスに著しく反する事態を招いてしまった。

前記のとおり、同社は、4ヵ月にわたって従業員に対して給与を支払っていなかったようだ。給与が支払われないのであるから、従業員の退職が相次ぐのは当然であろう。問題の横浜店は、正社員不在の状態になり、そもそも成人の日の営業が不可能になっていた。八王子店は詳細は不明だが、実質的には同様の状態だったのであろう。それに対して、つくば店、福岡店が店長判断で営業を継続したのは、顧客に混乱と損害を与える事態を何とかして食い止めたいという使命感、責任感によるものであろう。しかし、一般的には、給料すら支払ってもらっていない従業員に、そのような対応を期待するのは酷だ。

顧客が、成人式の日に、「晴れの日」を祝う人々の幸せをサポートするというサービスを提供してくれるものと信頼したのは、「はれのひ」という企業のブランドでも、篠崎洋一郎社長個人に対する信用でもない。着物の販売・レンタルについての営業活動、事前の写真撮影、成人式当日の段取りの打ち合わせ等に対応してくれた同社の従業員達との間の「人と人との関係」があったからこそ、顧客は、大切な成人式の日の晴れ着のサービスを「はれのひ」に頼んだのである。従業員も、本来は、そのような信頼を裏切りたくはなかったはずだ。しかし、横浜店、つくば店では、給与不払の結果従業員は退職し、店舗自体が、信頼に応えることができない状態になってしまった。従業員の立場からすれば、最低限の権利である「給与支払いを受けること」すら期待できない状態であった以上、致し方ないことと言わざるを得ない。そのような状態で事業を継続したことに根本的な問題があるのであり、その責任は経営者にある。

篠崎社長の重大な責任と厳重処罰の必要性

ところが、その責任を負うべきは篠崎社長本人は、突然の営業停止で顧客に甚大な被害を与えておきながら行方をくらましている。社会的には「犯罪者」そのものである。篠崎社長は、今年に入ってから本社にも全く姿を見せていないとのことであり、ネット上で、中国上海に逃亡しているのではないかとの情報も寄せられている。

速やかに篠崎社長の身柄を確保し、厳正に処罰すべきというのが、世の中一般の考え方であろう。

問題は、具体的に、どのような罪名で、どのような刑事事件として立件すべきかである。

まず、考えられるのが詐欺罪だ。成人式で契約どおり晴れ着の提供や着付けのサービスを行えないことを認識した上で晴れ着の販売・レンタル契約で顧客から代金を受領したのであれば詐欺罪が成立する。「取り込み詐欺」と言われる形態の詐欺だ。しかし、破綻した企業の経営者の多くは、「経営は苦しかったが何とか契約を履行できると思っていた」と弁解するのが通常であり、顧客から代金を受領した段階で、そのような認識があったことの立証は容易ではない。倒産必至の状態でツアー募集を継続した「てるみくらぶ」の社長についても、逮捕された容疑は、「金融機関への虚偽の決算書提出による詐欺」であり「取り込み詐欺」ではない。

昨日から報道されているが、ネット上の出品サイトに、着物や小物が大量に出品され、しかも、出品者が個人ではなく法人であった可能性もあり、「はれのひ」との関連が疑われている。これが、「はれのひ」が客に販売した着物なのであれば業務上横領となる可能性が高い。しかし、販売した着物を管理していたのが従業員だったとすると、従業員側が、未払給料に充てる目的で会社にあった着物を出品して売却しようとした可能性も考えられる。それ以外でも、販売した着物が既に売却換金されていれば業務上横領に該当する可能性が高いが、どこかに保管され、顧客に引き渡すことが可能な状態になっていれば、引き渡しが遅れただけで、犯罪とは言えない。いずれにしても、着物の換金行為に社長自身が関与していなければ、社長の刑事責任を問うことはできない。

このように考えると、行方をくらましている篠崎社長について、詐欺、もしくは横領で逮捕状をとるのは容易ではなさそうだ。仮に、篠崎社長が中国に逃亡しているとすると、逮捕状をとった上、中国当局に逃亡犯罪人の身柄引き渡しを求めなければならないのであり、一層、そのハードルは高くなる。

篠崎社長に対してまず適用すべきは「賃金不払の罪」

ここで、改めて、「はれのひ」問題の本質に即して、篠崎社長に適用すべき罰則を考えてみる必要がある。

既に述べたように、今回の事態を引き起こした根本的な原因は、「はれのひ」が給与不払の状態のまま長期間にわたって事業を継続していたことである。それに対して、適用されるべき罰則として、労働法上の「賃金不払の罪」がある。

労働基準法24条は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めている。使用者が所定の支払期日に賃金を支払わなければ、120条1号の罰則が適用され「30万円以下の罰金」に処せられる。

実際に、労働基準監督署から賃金不払罪で送検されるケースは相当な件数がある(最近は、賃金不払に対しては、最低賃金法4条の「最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」との規定に基づき、同法40条の「50万円以下の罰金」の罰則が適用されているようだ。)。

一般的には、賃金不払と言っても、会社倒産によって、それまでの賃金が支払えなくなったというやむを得ない事由のものも多く、起訴猶予となるものも少なくない。しかし、「はれのひ」の賃金不払は、数か月にわたって、賃金を支払わないまま従業員を働かせていたというもので、それによって従業員が退職したために、成人の日に晴れ着と着付けを提供するという同社にとって極めて重要な契約上の義務が履行できない事態を生じさせ、顧客に重大な損害を与えたのであり、結果も極めて重大だ。「悪質極まりない賃金不払の犯罪」として、可能な限り厳しく処罰すべき事案である。

法定刑が30万円以下の罰金のみの犯罪については、「被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合」にしか逮捕できないが、少なくとも、国内外に逃亡中の篠崎社長については、逮捕することに問題はない(最低賃金法違反であれば「50万円以下の罰金」なので、逮捕に制約はない。)。

しかも、賃金不払で逮捕状をとれば、仮に、篠崎社長が中国に逃亡しているとしても、逃亡犯罪人の引き渡しを求めることが可能だと考えられる。外国への犯罪人の引き渡しの請求は、「双方可罰性(双罰性)の原則」(請求する国と、請求される国双方で犯罪とされていること)の要件を充たす必要があるが、中国では、肉体労働者への賃金未払いが大きな社会問題になったことを受け、2011年5月に、「悪意のある賃金未払い」が刑罰の対象とされたとのことであり、この双罰性もクリアできると考えられる。

篠崎社長の賃金不払事件の立件のためには、まず、その被害者である従業員達が、労基署、警察等に協力し、賃金不払の被害申告を行う必要がある。もちろん、最終的には、詐欺、横領等の事実についても徹底して罪状を明らかにしていくべきだが、まず、早急に身柄を確保することが必要であり、そのためには、賃金不払の罰則を適用するのが最も容易だと考えられる。

再発防止のための対策

今回の「はれのひ」問題は、労働行政と消費者行政に関して、大きな課題を残した。同種事案の再発防止は、以下の二つの観点から考える必要がある。

まず、労働行政の問題として、悪質な「賃金不払」のまま事業が継続されていたことについて、労働基準監督署による監督が機能しなかったことが問題として指摘できる。

「賃金不払が継続する」という、本来あってはならない状況で事業が継続されたことで、企業としての本来の責務を果たすことが妨げられ、重大な社会的影響を生じさせた。労働基準監督署は、大企業を含めた長時間残業の問題ばかりでなく、今回のような中小企業における給料の不払・遅配に対しても、労働者側が申告・情報提供しやすい環境整備を行い、適切な指導や処分で是正し、それに従えない企業には事業を停止させるべきであろう。

もう一つは、本件のように消費者に重大な損失を生じさせかねない事案を把握して適切な措置をとるということを、消費者行政の問題として検討する必要がある。報道によると東京商工リサーチ等の信用調査会社では、「はれのひ」の経営不振を早くから把握していたという。

企業の信用状況に関する情報収集は、企業間取引の事業であれば、企業の責任において行い、企業自身で取引継続の可否の判断を行えばよい。しかし、一般的に、消費者自身が、取引する企業の信用を調査することは困難である。「はれのひ」のように、企業と消費者の間で、単発だが高額の取引で、しかも、特定の日にその履行が行われないと消費者に重大な損害が生じるようなものについても、同様である。信用状況について行政当局で情報を収集し、不適切な事業が行われている可能性があれば、指導監督に乗り出し、必要に応じて消費者に注意喚起を行うべきであろう。法令上そのような権限が与えられていないのであれば、法改正や条例改正も検討すべきではなかろうか。

横浜市では、横浜市消費生活条例によって権限は与えられていたようで、本件でも、問題発生後に調査に入ったと報じられている。必要なことは、事前に何らかの措置を取ることができないかどうかだ。

コンプライアンスというと、これまで大企業の問題と考えがちであるが、「てるみくらぶ」に続いて、今回のように消費者に重大な損害を与える「不祥事」が発生したことを機に、中小企業のコンプライアンスについても、真剣に考えることが必要であろう。

(2018年1月11日「郷原信郎が斬る」より転載)