大島衆議院議長は、内閣不信任案「採決動議」にどう対応するのか

本会議での動議の取扱いを判断するのは、大島衆議院議長である。

安倍首相が、今日、臨時国会冒頭で行うことを明言した衆議院解散について、ジャーナリストのまさのあつこ氏が、【野党は臨時国会冒頭に、内閣不信任案を提出できるのか?】という大変興味深い分析を行っている。

まさの氏は、「臨時国会冒頭での内閣不信任案採決の動議」が出された場合の展開について、以下のように述べている

臨時国会冒頭に、天皇の書く「解散詔書」を内閣総務官が国会まで持ってくる。

それを菅義偉官房長官に渡し、官房長官がそれを向大野新治事務総長に渡し、事務総長がそれを大島理森衆議院議長に渡して、議長が読み上げると「解散」となる、という流れが予想される。

この読み上げの前に、野党が内閣不信任決議案を提出し、読み上げの最中に、「内閣不信任案を採決する」動議を出した場合、「議場内交渉」となり、議院運営委員会の場で議論される。

内閣不信任案が採決にかれば与党はそれを否決するしかなく、内閣が信任されれば解散はできなくなって困るので、与野党の交渉が難航したり、議場が騒然としたりしても、最終的には、与党側の「数の力」採決に至らない可能性が高い。

また、内閣不信任案を採決する動議が出され、それが採決されないまま、議長が衆議院解散の詔書を読み上げて解散になった場合は、そのことが、衆議院の議事録に残ることになる。

その上で、まさの氏は、以下の指摘を行っている。

今回の解散は、

1)憲法第53条(いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない)に基づいて6月22日から求められていた臨時国会を、安倍内閣が開こうとせず、

2)その安倍内閣総理大臣が、「森友学園への国有地売却の件、加計学園による獣医学部の新設、防衛省の日報問題など、様々な問題が指摘され、国民の皆様から大きな不信を招く結果」を「深く反省」すると8月3日に会見をして、

3)その脈略とは関係がない「仕事師内閣」というネーミングで内閣改造を行い、

4)3カ月も放置した臨時国会を開催するかと思えば、会見を開いて、「消費税の使い道」と「緊迫する北朝鮮情勢」という、本来は「解散」「選挙」を経ずに対応できることを理由に解散すると説明した。

5)しかも、所信表明演説の要求にも、予算委員会や党首討論の要求にも応じていない。

そのような経緯を辿った解散について、

議運や国会対策委員会が、所信表明の要求や内閣不信任案の提出を認めないのであれば、少なくとも、大島衆議院議長は、それらの動議の提出を受け止め、実現する度量を見せるべきではないか。

というのが、まさの氏の意見である。

臨時国会冒頭解散が既定方針とされている中で、内閣不信任案採決の動議がどの段階で、どのような形で出せるのか、仮に不信任案が採決に持ち込まれ否決された場合に、7条解散についても、「信任されれば解散できない」ということになるのか、など疑問な点はあるが、いずれにしても、7条によって不当極まりない解散が行われることへの対抗策として、意味のある方法だと思われる。

私は、直近のブログ記事(【"憲政史上最低・最悪の解散"を行おうとする「愚」~河野外相、野田総務相は閣議で賛成するのか】)で、今回、安倍首相が行おうとしていると報じられた解散は、本来、憲法69条に基づく場合にのみ認めるのが憲法の趣旨であるのに、7条の国事行為として行うことが既成事実化していることに乗じて、「大義」が存在しないどころか、国会での疑惑追及を回避し、野党側の選挙準備の遅れを衝いて国民の政治選択の機会を奪い、それによって、北朝鮮情勢緊迫化の下での政治的空白を生じさせるなど、まさに「不義のかたまり」というべき解散であり、憲法が内閣に認めている解散権を大きく逸脱した「最低・最悪の解散」だと批判した。

そして、9月25日の記者会見で安倍首相自身が明らかにした解散の理由は、「消費税増税の使途の変更」「北朝鮮問題への対応」ということだったが、2年も先の消費税増税について、今、国民に意見を聞いても、そもそも、最終的に消費税増税を判断するのは1年以上先であり、その時点で、そもそも消費税増税ができる経済状況かどうかもわからない(これまでも、安倍首相は、経済状況を理由に消費税増税延期を繰り返してきたこととも矛盾する。)。

北朝鮮への対応についても、国会での議論は全く行われていない。

今回安倍首相が挙げたような点は、まず、国会で議論を行い、その議論において対立があって、国民に信を問う必要がある場合に、初めて国民の意見を聞くことが問題になる話だ。

臨時国会の冒頭での解散というのは、そのような国会での議論をすべて回避して、直接国民に判断してもらおうという「直接民主制」のような考え方であり、議院内閣制をとる我が国において凡そ解散の理由になるものではない。

これに対する対抗策として、野党が内閣不信任案を提出するのであれば、「憲法の規定に反して、国会での疑惑追及を回避し、野党側の選挙準備の遅れを衝いて国民の政治選択の機会を奪い、それによって、北朝鮮情勢緊迫化の下での政治的空白を生じさせる解散を強行しようとしている内閣は信任できない」という理由にすべきであろう。

このような不信任案提出、臨時国会冒頭での解散詔書読み上げ時の不信任案採決の動議が出される事態になった場合、内閣不信任案が可決された場合の解散を明文で規定する「憲法69条による解散」と、「7条の国事行為による解散」のどちらが優先するかが問題になる。

戦後、既成事実化してきた「7条解散」については、「苫米地事件」で最高裁が意見審査を回避したこともあり、69条解散との関係に関する判断に直面することがなかったが、上記の事態になれば、採決を求める動議は、「69条による解散」に結びつく可能性のある内閣不信任案を棚上げにして、7条による解散を強行して良いのか、という憲法問題を提起することになる。

本会議での動議の取扱いを判断するのは、大島衆議院議長である。

安倍首相の何ら「大義」のない「最低・最悪の解散」による政治の混乱に乗じて、小池百合子東京都知事は、その解散表明直前に、それまで「小池新党の先兵」のように立ちまわっていた若狭勝、細野豪志両氏の面子を潰す形で、突然の「新党代表就任表明」を行い、与野党の国会議員は大混乱に陥っている。

崩壊寸前の民進党議員だけではなく、小池氏を中心に反自民勢力が結集した場合に、総選挙で戦死する恐れが現実化してきた与党議員にまで混乱は拡大し、国会全体が騒然とした状態になりつつある。

東京都知事として、豊洲市場への移転問題で都民に大きな損失を生じさせ、オリンピックの準備も停滞させるなど、「東京大改革」どころか、「都政大混乱」を生じさせただけの小池氏が、また空虚な「希望」イメージだけの新党代表宣言を行ったことで、国政までもが混乱状態に陥っている政治状況は、北朝鮮情勢が一層深刻化する中、国民にとって不幸なことである。

しかし、このような状況のきっかけを作ったのは、紛れもなく、「大義」もなく弊害だらけの身勝手な解散を仕掛けた安倍首相である。

「最低・最悪の衆議院解散」を、敢えて行って政権を維持しようとしたのが安倍首相であるが、「臨時国会冒頭での内閣不信任案採決の動議提出」という事態になった場合に、大島理森衆議院議長が、7条による解散詔書読み上げを強行すれば、憲法69条が定める解散の手続に違反する「違憲の解散」を強行した、「最低・最悪の衆議院議長」という汚名を、自ら憲政史に残すことになるのである。

一方、大島議長の判断で、不信任案採決の動議が議論されることになれば、現行憲法の枠組みに関する極めて重要な問題を国会で議論する決断をした衆議院議長として、「憲政史上初めて実質的に重要な判断をした議長」としての名を歴史に残すことになる。

衆議院議長は、参議院議長とともに立法府を司る三権の長であり、立法機関の長として内閣総理大臣(行政)、最高裁判所長官(司法)と並ぶ三権の長の一角である。

与党第一党議員から選出されるが、その地位は党派を超えたものでなければならないことから、会派を離脱し、無所属となって議長を務めるのが慣例となっている。

もし、野党から内閣不信任案が出された場合には、大島衆議院議長は、三権の長の一角として地位の重さを自覚し、適切な対応を行うべきである。

(2017年9月27日「郷原信郎が斬る」より転載)

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