2017年11月にインド南東部、ハイデラバード活動地域にあるアンドラ・プラデシュ州を訪ねました。プラン・インターナショナルが2016年7月から支援している「児童労働をなくす地域づくり」プロジェクト開始1年後の様子をお知らせします。
児童労働が続く背景
訪れた学校の教室で、席に座って私たちにまっすぐな眼差しをむけてくる子どもたち。皆、児童労働から救い出されたり、直前に食い止められた子どもたちです。インタビューに答えるため、緊張した面持ちで待っていてくれました。
2011年に実施した国の調査によると、アンドラ・プラデシュ州全体で31万5,000人以上の子どもたちが労働に従事しているそう。
とくに個人の家庭で「家事使用人」として働く子どもは、閉ざされた環境で目につきにくいため、搾取や虐待の犠牲になりやすい状況にあります。雇い主側は、児童労働が法律で禁止されているにも関わらず、生活に困っている家庭の子どもを雇ってあげている、という誤った意識をもっていることも問題です。実際に家事使用人として働かされていた子どもたちからは、最初に約束した仕事だけでなく、同じ報酬のまま別の仕事も強いられたという声も聞かれました。
復学へ導く支援
児童労働を生み出す主な背景の一つに、家庭の貧困があげられます。プランは、児童労働に従事する子どもの保護・救出、学校への復学支援のほかに、家族の生計向上支援、意識啓発活動などを行っています。
今回の視察では、プランの支援で補習教育プログラムを行う学習支援センターの開所式に立ち会うことができました。児童労働に従事するため途中で学校を辞めざるをえなかった子どもたちが復学する場合、辞めた時点の学年に戻ることはできず、年齢に応じた学年に編入しなければならないため適応するのが困難です。
この学習支援センターは、正規の学校に戻るための補習を行う施設で、以前は別の場所にあったものが、より子どもたちが通いやすいよう学校の敷地内へ移転されました。プランの支援により、同施設に通う34人の子どもたちは、新しい教材や通学に必要な学用品の支給を受けました。
学習支援センターの先生、コミュニティ・ボランティア、親など大人からの聞き取りの中では、児童労働に従事している子どもの発見の仕方、その親たちに対し行なっている、教育の重要性を伝える意識啓発プログラムの目的と仕組みについて説明がありました。
さまざまな関係者による地道な努力が、少しずつでも着実に成果につながっていることを実感することができました。
将来の夢
学習支援センターの床の敷物の上にみんなで座って、学んでいることや好きな教科について質問をしていくうちに、最初は緊張気味だった子どもたちがたちまち賑やかに。
壁にかかった世界地図で日本の位置を尋ねると、すぐに指を差して答えてくれました。私たちが訪ねる前に、みんなしっかりと予習してくれていたのです。
「将来は何になりたいですか?」と質問をしてみると、「医師」「教師」「警察官」「エンジニア」などの定番の回答に混じって、「ダンスの先生」「歌の先生」という女の子たちの夢や、低学年の男の子の「ヒーロー」という可愛らしい夢が聞かれたほか、「大きくなったら町をきれいにしたい」という頼もしい声もあがりました。いろいろ学んでいるなかで、好きなことが明確になってきているのだな、とうれしくなりました。
漁師町の家族
学習支援センターを出たあとに、周辺のスラムを歩いて近くの小さな市場を訪れました。
この地域では、多くの家庭が漁業で生計を立てています。
市場では、学習支援センターで出会った12歳の女の子の母親から話しを聞くことができました。
この女の子は、2年生のときに学校を辞めて家事使用人として4年間働いていたところを救出され、2017年の9月、6年生に復学しました。現在は、教育を受けていなかった期間を補うために学習支援センターにも通っています。復学して2カ月、彼女の好きな教科は算数だそうです。
一方、母親は、プランの生計向上支援プログラムを通じて受け取った資金で、6月から市場で魚売りの仕事を始めました。
つい数カ月前まで児童労働に従事していた子どもたち。学べる喜び、子どもを学校に通わせ安定して暮らせる喜び。同じような家族や子どもたちがもっと増えるよう、プランは地域に寄り添いながら活動を続けていきます。
鵜飼 香織 プラン・インターナショナル 企画管理部
埼玉県出身。民間企業、大学研究室勤務の後、2007年に公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパンに入局。広報を担当した後、2012年よりオペレーションサポート部(現企画管理部)に所属。人事・法務担当を経て、現在は人事・労務担当。採用業務から労働管理、人材育成・人事制度の立案などを行い、職員の能力開発と円滑な業務遂行を目指すことで、よりよい事業を展開できる組織の枠組みづくりに携わる。