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2018年06月04日 10時37分 JST | 更新 2018年06月04日 10時37分 JST

フェミニズムの本は売れない?(後半:男性が女性の苦境を語る困難を乗り越える――くまざわ書店ペリエ千葉本店磯前大地さん)

誰でも男女平等について気軽に話せる空気をつくろう

男性も女性も、大人も子どもも、フェミニズムに詳しい人もそうでない人も、皆が男女平等について、気軽に話せる空気をつくろう。
Iwasaki Shoten
男性も女性も、大人も子どもも、フェミニズムに詳しい人もそうでない人も、皆が男女平等について、気軽に話せる空気をつくろう。

前回のブログでは、埼玉県朝霞CHIENOWA BOOK STORE 塩澤広一店長からお話をうかがった。 後半では、6月上旬から、くまざわ書店ペリエ千葉本店他6店舗ではじまる「役割とは何か――女性、そして男性の自由を考える」フェアを企画された書店員の磯前大地さんにお話をうかがう。

Q1 なぜフェアをはじめようと思ったのでしょうか?

もともと、自分のなかで「男性が女性の苦境を語ることの困難」という問題意識がありました。 女性が、セックス(性)とジェンダー(社会的役割)の両面において被抑圧的な状況にあることは疑いようがない。そしてそれは、個々人のおかれた環境により無数に細分化され、それぞれが簡単には表現できないものとなっている。

そのように複雑な事情をふまえたときに、異性である自分が安易に女性の問題を語ることは、「よく理解していないままに、恣意的にわかりやすい言葉を語ってしまう」という意味で、とても良くないことであるように感じていました。どのような問題であっても、非常に複雑なことを十把一絡げに表象として表現する、という行為はとても乱暴であるといわざるをえません(全面的な肯定や批判に陥りやすい)。

まずそのような考えがあり、そうしたなかで自分はどのように問題に関与することができるのだろう語ることができるのだろう、と考えていました。いわば、「男性が、真剣に女性の問題にかかわるきっかけ」です。 そうした最中、はらだ有彩さんの『日本のヤバい女の子』(柏書房)との出会いがありました。

この本は、虫愛づる姫君、かぐや姫、乙姫、お菊......といった、国文学や伝承に登場する女性たちの従来の「読まれかた」を脱構築し、彼女たちを与えられた「役割」から解放するものです。そして、いまを生きる人々にも、あなたもレッテルに縛られることはない、自由なんだよ、と希望を与えてくれる。 はらださんの筆致力には、とにかく驚かされました。対象とする作品や人物に臨むすがたは真摯そのもの。

一方で、先にのべた古典にユーモラスな現代語をまぜる、くすりと笑ってしまうような漫画を挿入する、といった手法でいっきに読ませてしまう。それと同時に、読み手は、「そもそも『役割』ってなんだろう」と大きなところで疑問を抱くようになり、自分の身の回りにいる人や自分自身のことを考えることができるようになる。

この本と出会い、自分がのめりこんで話に触れたことで、「男性をまきこみ女性の問題を考える」ためのきっかけについて、多くのヒントをえることができました。その中でも最大のファクターは「役割」についてであり、これは、はじめに表象にのみ込まれないことへ重点をおく、今回のフェア(「役割とは何か――女性、そして男性の自由を考える」)の主題となりました。

こうして、『日本のヤバい女の子』を基調銘柄とした70点強のフェアをひらくことで、「役割」の疑問視という出発点から演繹的に、男性にもスムーズに女性のことへ関わってもらおう、そして同時に――性別の壁を超え――自分自身に貼りつけられたラベルについても向かい合ってもらおう、という切り口の転換に思い至りました。

Q2選書で留意した点は何ですか?

今回のフェアでは、前述の経緯をふまえ、選書の基準を以下のように定めました。 ・男女以前に、「役割」というところで問題を考える個人の主体化 ・自分の身近な人を想像できる=他者の想像と対話 ・哲学、社会学、絵本、漫画......など本のジャンルは問わない読者層を選ばない そして、そのうえで選書内容に幅をもたせるために、自分のほか5名の方に選書をお願いさせていただきました。 ・小林えみ(堀之内出版編集・よはく舎代表) ・竹田純(柏書房編集) ・辻内千織(岩波書店営業) ・はらだ有彩(テキストレーター・『日本のヤバい女の子』著者) ・渡部朝香(岩波書店編集) ※以上、50音順/敬称略 皆さん、女性のことについて日頃から真剣に考えていらっしゃる出版界の有志で、今回のフェアのために、小説、児童文学、コミック、哲学やアナーキズム......と、あらゆるジャンルの本をとり揃えてくださいました。

これらの本においては、魅力的で奥行きの深い人物が登場し、また読み手が自然と深く沈潜できるような内容に満ちているため、老若男女を問わない方がそれぞれの本を手にとってくださることと思います。

私自身の選書については、やはり「役割」を相対化/攪乱すること、そしてその先の対話について主眼をおきました。一方で、それに先立つ「事態の複雑さ」を感じていただくためのピックアップにも注力しています。「役割」とは、男/女という構図にのみ生じるものではありません。

たとえば、『バッド・フェミニスト』(亜紀書房)で著者のロクサーヌ・ゲイさんは、男性的な支配権力を批判しつつ、女性間で「フェミニスト」像が教科書のように定型化され、そこから逸脱することが悪徳とされがちなことも問題視します。自分はフェミニストだけれども、別にピンクが好きでもいいじゃないか、というように。

また、森崎和江さんの名著『第三の性』(河出書房新社)でも、男/女だけではなく、女/女においても分断された、容易には同意しえない状況があることが俎上に載せられています。そして、そのうえで森崎さんは対話を展開します。 こうした「対話」については、フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスの他者論に近い要素があるかもしれません。文化も違う、言葉も違う、生活のリズムも違う......まず前提に決定的な分断がある。では、どうするのか。その複雑さをそのまま引き受けそこから話をしよう、というのがレヴィナスの議論です。 女性、男性、クィアの方々......あらゆる関係のなかに、冒頭で述べたような「語ることの難しさ」があります。

しかし、そこで諦めてしまうのではなく、「語りえないのかもしれない。でもなんとか関わりたい」という姿勢をみせることが、他者の苦難を考えることで大切なことです。 女性のおかれた状況をよりよくすることは、男性の生きやすさにもつながります。 本フェアでは、『日本のヤバい女の子』を中心に、現状の複雑さをひきうけ、「役割」そのものについて考え、身近な人を思い浮かべ、そして対話ができるように選書をしました。

ぜひ、少しでも多くの方にご覧になっていただければ幸いです。 【選書一覧】 ・磯前大地(くまざわ書店ペリエ千葉本店) 『第三の性』『ジェンダー・トラブル』『ハイデガー哲学入門』『バッド・フェミニスト』 『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』『棄郷ノート』『東京プリズン』『白洲正子自伝』 『出口なお』『人形の家』『きりこについて』『母の発達』

・小林えみ(堀之内出版編集・よはく舎代表) 『よつばと!』『かげきしょうじょ』『クレヨン王国からきたおよめさん』『きりこについて』 『かもめ食堂』『貝のうた』『更科日記』『妖異金瓶梅』『自由と社会的抑圧』 『魔性の女挿絵集』『嵐が丘』『生理ちゃん』 ・竹田純(柏書房編集・『日本のヤバい女の子』担当) 『ぎゃんぷりん』『A子さんの恋人』『巨娘』『関根君の恋』『浪費図鑑』『食魔』 『パリのすてきなおじさん』『あたらしい無職』『乙女の密告』『おばちゃんたちのいるところ』 『『青鞜』の冒険』『ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン』 『一汁一菜でよいという提案』『ジェイコブズ対モーゼス』

・辻内千織(岩波書店営業) 『長くつ下のピッピ』『ねずみ女房』『世界を7で数えたら』『オンナらしさ入門〈笑〉』 『レイミー・ナイチンゲール』『かかとを失くして/三人関係/文字移植』『言い寄る』 『女神記』『おんなのことば』『ふしぎの国のバード』『自分だけの部屋』『女のからだ』 ・はらだ有彩(テキストレーター・『日本のヤバい女の子』著者) 『つるばらつるばら』『白馬のお嫁さん』『13月のゆうれい』『あたしとあなた』 『やっぱりおおかみ』『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』 『とりかへばや、男と女』『女の怪異学』『悪女の文化誌』『ちぐはぐな身体』 『「かわいい」論』『モードとエロスと資本』『「有名人になる」ということ』『エロイーズ』

・渡部朝香(岩波書店編集) 『村に火をつけ、白痴になれ』『何が私をこうさせたか』『わたしの「女工哀史」』 『裸足で逃げる』『いのちの女たちへ』『性食考』『中国が愛を知ったころ』『オーランドー』 『現代社会用語集』『キャリバンと魔女』『世紀のラブレター』『性のタブーのない日本』 ※以上、選者50音順/敬称略 長年フェミニストとして活動してきた人の言葉

このような動きを長年、フェミニストとして活動してきた人はどう思うのだろうか? 女性史研究家早田リツ子さんがこんな言葉をくださった。 「刊行されたばかりの本が届いた。『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』(岩崎書店)。 10歳の女の子エッバが、新聞で「G8ジェノバ・サミット」の写真を見て、居並ぶ権力者(日本は小泉首相)がどうして男性ばかりなの? と疑問をもつところから、本書は始まる。 懐かしい出だしだ。私の世代もそうだった。新しい憲法のもとで法的に男女平等を獲得し、選挙権も教育の機会均等も認められて成長しながら、私たちもエッバと同じ問いを持った。

そして戦後73年目の現在も、最も重要なものごとを決定する場にいる女性の数はとても少ない。つい先日も「政治分野における男女共同参画推進法」が成立したばかり。セクハラやDV、旧態依然の女性の「商品化」も無くならない。「セクハラ罪はない」という摩訶不思議な閣議決定がなされる?というありさまだ。 平等実現に長い時間がかかることは、先刻承知ではあるけれど......。

「わたしはわたし、ぼくはぼく」(本書)。今の子どもたちや若い世代は、ありのままの自分でいられるようになったのだろうか。 見渡せば世の中の雰囲気はそれとは逆行している。周囲の期待に合わせたり「ふつう」といわれているものに妥協したりする。特に「男らしさ」「女らしさ」というジェンダー規範が、ほとんど無傷で生きのびている状況は無力感でいっぱいになる。

エッバは男の子も一緒にこの疑問を解くために「フェミ・クラブ」を作って話し合う。するといろいろな「なぜ?」が浮かんでくる。それではこの「なぜ?」の状態はどこから来たのか? 同じ問いをもった人たちはどうしたのだろう。こうして歴史の学びが始まる。



日本のジェンダー学習の弱点は、私見ではあるが歴史的視点の不十分さだ。 「これはおかしい」「こうでなければならない」という「状況」と「正解」を提示するのではなく、どのようにして不平等が形成され、先行世代はどう対処してきたのかを学ぶことこそ、平等への道のりを次世代へとつないでゆく確かな方法。 これは子どもだけでなく、おとなの学習でも必須の視点だと思っている。 歴史を知っていれば、「ポップ・バンドで歌いたい女の子より、ハードロック・バンドで格好よく歌ってみたい女の子」や「重量挙げの選手になりたい男の子よりも、バレエをおどりたい男の子」が、努力や強い意志をもたなくてはならないというのはおかしい、というメッセージはすんなりと受け入れられるだろう。

なお、私は本書中に「権力って何だろう?」と「支配の手口」という章が入っているのに感心した。単一直線的な「男性による女性の支配」だけではなく、さまざまな「関係性」の中で歪んだ支配が生まれてくることへの目配りは重要だ。 そして最後のページ。3月8日の「国際女性の日」に参加したエッバたちのフェミ・クラブのスローガンは、〈わたしはわたし、ぼくはぼく。そのままの自分でいさせて〉。行進の横断幕には「国際人間の日」と書かれている――。

日本の学校でもこのレベルの副読本がほしいものだ。本書は子どもたちだけでなくむしろ今の親世代に読んでもらいたいとも思った。 日本のジェンダー状況は確かにひどいけれど、決してゼロ状態ではない気付いた人が気付いたところから、自分にできる方法で、過去の女性たちの希望をつないで次へ伝えてゆこう

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他にも、女性史やフェミニズムの本に注目する書店が出てきている。

下は湘南 蔦屋書店で行われている『世界を変えた50人の女性科学者たち』を中心としたフェアの様子。

誰でも男女平等について気軽に話せる空気をつくろう

インタビューを終え、自分がなぜ北欧の児童書を好きなのか思い出した。北欧の児童書作家は男女ともに絵画についての本の中でも、哲学についての本の中でも、金銭教育についての本の中でも、ジェンダーの問題(男女の比率は半々かなど)を常に意識し、それについて言及する。 『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』の作者のサッサ・ブーレグレーンさんがロシアの文化フェスティバルに招致され、話をした時、ロシアの人達はフェミニズムについて公の場で討論するのに慣れておらず、初め会場に緊張した空気が流れたらしい。今の日本の空気はそれに少し近いのかもしれない。

男性も女性も、大人も子どもも、フェミニズムに詳しい人もそうでない人も、皆が男女平等について、気軽に話せる空気をつくろう。

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