世界一周しながらリモートワーク!7年越しで夢を叶えた「灯台もと暮らし」編集長・伊佐知美さんのワークスタイル

これまで30カ国50都市程度を旅したけれど、訪れた国の中では、数か国を除いて、大体スムーズにネットがつながりましたよ

これからの暮らしを考えるWEBメディア「灯台もと暮らし」の編集長として、指揮を執る伊佐知美さん。彼女はこのメディアを運営する株式会社Waseiの社員であり、会社に籍を残し編集長の役職を担ったまま、今年4月、世界一周の旅をスタートさせました。

「世界を旅しながら、どうやって編集長の責務を果たすの?」「海外で問題なく仕事ができるの?」、この事実を聞いたとき、筆者の頭にはそんな疑問が湧きました。きっと同じ疑問を抱いた方も多いはず。そこで、伊佐さんご本人に現在のワークスタイルに至った経緯から、海外でのリモートワーク事情、今後の展望までを取材。「旅をしながらのワークスタイル」を模索している方、必見です!

伊佐 知美(Tomomi Isa)

脱サラの編集者・ライター。1986年生まれ、新潟県出身。『灯台もと暮らし』編集長、オンラインサロン「編集女子が"私らしく生きるため"のライティング作戦会議」主宰、ことりっぷWEB連載「伊佐知美の世界一周さんぽ」、「人生デザイン U-29(NHK)」出演など。2017年1月書籍『移住女子』を新潮社より出版予定。旅が好きすぎて2016年4月から世界一周へ。㈱Waseiに所属したままリモートワーク中。

会社や家族と話し合いの末、編集長を担ったまま夢だった世界一周へ

タイ・チェンマイのニマンヘミン通りの近くの小道

―伊佐さんは、元々「旅をしながら仕事をしたい」との思いを抱いていたんでしょうか?

伊佐知美さん:(以下敬称略):はい、幼い頃から旅が好きで、学生時代は「青春18きっぷ」を使って各地を旅したり、社会人になってからも世界各国へ一人旅をしたりしていました。

あとは昔から本が好きで、沢木耕太郎さんの「深夜特急」を読んでいる世代だし、旅をしながら働く=作家みたいなイメージが強かったんですよね。だから、私も作家のような仕事ができたらいいなと思っていて。実際に出版業界に身を置くようになってからは、旅への思いがますます高まっていきました。

インド・アグラのタージ・マハルにて。夏は気温が50℃近くなるため、行くなら早朝がオススメ

―世界一周に旅立つまでのワークスタイルを教えてください。

伊佐:私がこの業界に入ったキッカケは、出版社に派遣社員として入社したことでした。広告部のアシスタントをしていたんですが、1年ほどしてから旅関係のメディアを中心に、フリーライターの仕事を並行して請け負うようになりました。

1本500円だった報酬が5,000円、1万円と上がってきて、「いよいよフリーライター1本で生きていけるかもしれない。世界一周に出発しようか」と思ったタイミングで、現在所属しているWaseiの代表の鳥井から「新しいメディアを立ち上げたいので、編集長になってみませんか?」とお誘いがあったんです。

迷いましたが、編集長を引き受けることに。「旅はいつでも行けるから、延期しよう」と思いました。そうして2015年1月、「灯台もと暮らし」の編集長に就任。それからは全国各地に取材に行く機会がグンと増えました。

それ以外の時間はミーティングや原稿執筆がメイン。フリーライターとしての活動も続けていたので、この頃からリモートワークが中心でした。

―なるほど、そんな伊佐さんが「世界一周」の夢を叶えるに至った経緯が気になります。

伊佐:「これからの暮らしを考える」がコンセプトの灯台もと暮らしには、「自分の好きなことをして生きてほしい」という裏メッセージがあります。実際、全国各地の取材で自分らしく生きている人に大勢出会いました。

でも、日本の良さを伝えることと、「海外に行きたい」という気持ちが段々乖離していってしまって......。自分自身が心から求めていることを叶えてからじゃないと、誰かの好きなことにきちんと向き合えないし、編集長として説得力のある言葉を紡げないんじゃないか? と考えるようになりました。

その思いがMAXになり、悩んだ末、「今の仕事もWaseiのメンバーも好きだし、辞めたいわけではないけれど、どうしても長期間世界を旅したいので辞めるしかないと思います」と鳥井に伝えたんです。

そうしたら「その気持ちは知っていたので、一緒に働ける道を考えませんか?」と予想外の返答が......。結局、話し合いののち、仕事を海外リモートワークに適する形に整理して、編集長の責任は担ったまま出発できることになりました。

晴れたら「休み」気の向くまま、より自由なワークスタイルが叶う

ミャンマー・バガンの遺跡群の中で。夕焼けが最高にキレイです

―では、実際に世界に旅立ってからのワークスタイルをお聞きしたいです。

伊佐:編集長としては、週1の編集ミーティングにSkypeで参加して、あとは記事チェックや媒体方針の決定、スポンサード関係の調整などがおもな業務。並行して、海外取材、書籍やコラム執筆、オンラインサロン運営など個人で請け負った仕事もしていました。

実際に行ってみたら、対面の打ち合わせや国内取材以外は、全部海外でもできちゃう......とは言いつつ、細かい記事の修正作業は国内にいる同僚にお願いするなど、すごく助けてもらいましたね。

仕事場所は基本的に滞在したホテルかカフェ。7割ぐらいAirbnbも使いました。私はレンタルWi-Fiやシムカードを所有していないので、フリーWi-Fiを拾って仕事をしていたんです。宿泊先もWi-Fiがあるところを選んで。

インドネシア・バリ島のウブドの森の中にある、エコビレッジ。Wi-Fiはさくさくでした" width="570" />

インドネシア・バリ島のウブドの森の中にある、エコビレッジ。Wi-Fiはさくさくでした

伊佐:これまで30カ国50都市程度を旅したのですが、訪れた国の中では、数か国を除いて、大体スムーズにネットがつながりました。たとえばラオスとミャンマーはLINEなどのメッセージは送れても、画像処理は厳しかったですね。

逆にロンドンは、先進国すぎてカフェのフリーWi-Fiが混線してつながらなくて......。カフェを4つハシゴしてパスワード付きのWi-Fiがあるお店で、やっと音声通話がつながったなんてこともありました。もちろんすべての国に滞在したわけではないんですが、大体どこの国もカフェやホテルではWi-Fiが飛んでいましたね。

オーストリアに「ハルシュタット」という世界一湖畔が美しいと言われている街があって、その湖畔のロープウェイを登った山の上にあるカフェにもWi-Fiが通っているので、息を飲むような絶景を眺めながら仕事をしたことも。

オーストリア・ハルシュタットの頂上にて。現地の人にドイツ語を教えてもらって遊んでいました

伊佐:個人的に一番忘れられない景色は、クロアチアのドゥブロブニク旧市街です。ジブリ映画「魔女の宅急便」の舞台といわれる場所で、連なる赤い屋根が特徴。海辺の丘の上の雰囲気がいい家で原稿を書くのが憧れの作家スタイルだったので、まさにイメージ通り! 理想が目の前に広がっていて、「私、クロアチアまで来たんだなぁ」ってしみじみ思いました。

クロアチア・ドゥブロヴニクの展望台の、そのまた奥の岩の上が一番のお気に入りスポット

―ステキすぎる! こんなところで文章を書いたら、ものすごくいい原稿になりそう......。

伊佐:そうですね。現地の人とも仲良くなって、「君が打っている言語は何だ?」って聞かれて「ジャパニーズだよ」みたいなやり取りをしたり(笑)。あとは、パブで軽くお酒を飲みながらとか、見晴らしがいい場所に座ってとか、わりと自由に仕事をしていました。原稿を書くだけならWi-Fiがなくてもできますしね。

―旅人ならではのワークスタイルですね。タイムスケジュールはどうされていたんですか?

伊佐:日によってバラバラですね。1日ガッツリ仕事をする日もあれば、数時間だけという日も。トータルで見ると、仕事と自由時間の割合は半々ぐらいでした。

日中は、「晴れた日は観光、雨の日は仕事」みたいな感じで、お天気によってスケジュールを決めていました。晴れていると写真もキレイに撮れるので。あと、女性の一人旅は夜の外出が危険なので、自分でルールを決めて夜はあまり出歩かないようにしていました。

―日本にいるメンバーとのやり取りはどうでしたか?

伊佐:基本的に、Facebookのメッセンジャー、LINE、slack、チャットワーク、Gmail、Skype、ChatCastあたりを使っていました。音声通話はSkypeよりもLINEのほうが使いやすかったです。Wi-Fi環境が良くないときは動画をやめて音声に切り替えるなど、その都度調整して。

あとは、時差の問題もありました。1~2時間しか変わらないマレーシアやタイならとくに影響はないんですが、たとえばイギリスは8時間の時差があり、日本で13時から打ち合わせをしようとすると、イギリスは朝の5時。さすがに5時の打ち合わせは厳しいので3時間ほど遅らせて、日本は16時、イギリスは8時といった具合に調整してもらっていました。また、こちらから連絡をする場合は、深夜や早朝の時間帯にならないように気を付けていました。

―なるほど。海外でお仕事をするにあたって、一番困ったことは何でしょう?

伊佐:本音を言うと、もっと遊びたかったです(笑)。目の前に未知の世界が広がっているのに、仕事をしているのがもったいなくて。絶対に行きたかった場所には足を運びましたが、「もっと行けるかも」というせめぎ合いは、どこの国でもありました。

一番のトラブルは、チェコでスマートフォンを盗まれたことですかね。カフェで話しかけられフッと気を取られた一瞬のうちに、テーブルに置いていたスマホがなくなっていました。油断しないよう気を付けていたからこそショックで......。ただ、それ以外はほぼトラブルはありませんでした。

好きが100%になると自分を律するのが困難、安心できる拠点は必要

タイ・チェンマイのワット・プラ・タート・ドイ・ステープ。坂がなかなかキツイ" width="570" />

タイ・チェンマイのワット・プラ・タート・ドイ・ステープ。坂がなかなかキツイ[/caption]

―世界を旅してきた伊佐さんが考える「リモートワークのメリット・デメリット」をお聞きしたいです。

伊佐:働く場所やタイムスケジュールを自分で決められるので、ライフスタイルを組み立てやすいのが一番のメリットかなと。出版社の前は金融業界で営業職に就いていたのですが、会社員の頃は、週5で毎朝同じ道を通って7時50分に会社に行って、飲み会が週4であって......、みたいな生活をしていました。「本当に働き方ってこれしかないのかな?」と疑問があって辛かった。けど世界に出てみて、リモートワークでもいろんなことができるんだとわかりました。

インド・アグラのタージ・マハルで仲良くなった家族と一緒に

伊佐:一方でデメリットは、「Wi-Fi」や「電源」など環境に縛られること。そして私のように世界を旅しながらだと、どうしても移動費や滞在費がかかります。ただ、アジアだと贅沢をしても1泊1,800円、外食は1回300円ぐらいで済むなど物価自体は安いので、案外低予算で実行できるかもしれません。

もうひとつ個人的なことを言えば、私のワークスタイルだと周りに好きなことしかなくて、「好きが100%」になるとしんどいなと思いました。ワガママな悩みかもしれませんが、プライベートと仕事の境目がなくなってしまうと、自分で自分を律さなきゃいけなくなる。意外にそれが難しい。私は自堕落な人間なので(笑)。

だから、自由はほしいけど拠点は必要なんだなって。家族にしても会社にしても、何かしら決まった安定や縛りって大事なんだと痛感しました。

―伊佐さんがリモートワークをするときに、気を付けていることは何でしょう?

伊佐:働く場所は離れていても会社に所属しているので、会社のメンバーとのコミュニケーションにはものすごく気を遣っていました。やっぱり文字だけのやり取りと会話をするのとでは全然違うので、こまめに音声通話をしながら、報告もしっかりするようにして。あとは、単純にいい仕事をすること。これも大事ですよね。

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