「連合エコライフ21」 新たなる大作戦!?その2~労働組合が「環境」に取り組む今日的意義

「経営トップが、サステナビリティ経営にコミットしなければならなくなりました」

社会貢献から本業に関わる経営戦略へ 推進のカギは、パートナーシップ

アンケートでは、「なぜ労働組合が環境問題に取り組むのか、背景や意義をわかりやすく伝える必要がある」との声が多数寄せられた。そこで、「環境」をめぐる最新の情勢、企業や労働組合に期待される役割について、この問題に詳しい藤田香さんにお話を伺った。

藤田 香|ふじた・かおり|

日経ESGシニアエディター 兼 日経ESG経営フォーラム プロデューサー

日経エレクトロニクス記者、ナショナルジオグラフィック日本版副編集長、日経エコロジー編集委員を経て現職。専門分野は生物多様性と自然資本、ESG投資、地方創生。富山大学客員教授、環境省のSDGsステークホルダーズ会合委員や環境成長エンジン研究会委員などを務める。著書に『SDGsとESG時代の生物多様性・自然資本経営』(日経BP社)など。

企業とNGO・消費者のつなぎ役として

─ご自身が環境問題に関心を持たれるきっかけは?

社会人になって、誘われて登山を始めたんです。一人でも山に登るようになって、自然の美しさ、麓の里山の風景やそこに暮らす人々の知恵に魅せられました。

仕事としても、技術系専門誌を経てナショナルジオグラフィック日本版の編集部に配属され、環境問題に深く関わるようになり、さらに日経ESGの前身誌の日経エコロジーを担当することになりました。いずれも「環境」をテーマとする雑誌ですが、その視点には大きな違いがありました。ナショナルジオグラフィックの読者は、一般の市民で、取材先である研究者や環境保護団体は、ストレートに豊かな自然や生物多様性を守ろうと訴えていた。一方、日経エコロジーの主な読者は企業担当者。関心があるのは環境規制や国際的動向、そして他社の事例で目線が違っていた。私自身は、両方の雑誌を経験して、行政も企業もN‌GOも消費者も、一緒になって取り組まなければ解決できない問題がたくさんあると気付かされました。日経ESGを通じて、それぞれのパートナーシップを深める「つなぎ役」も果たしていければと思っています。

大きく変化する企業に求められる役割

─今では環境問題への対策は経営基盤強化に欠かせませんが、企業との関わりはどう変わってきたでしょうか。

近年、世界中で拡大しているESG投資やSDGs(国連持続可能な開発目標)を背景に、企業経営においても、「環境(E)」だけでなく、労働や人権に関わる「社会(S)」や 「ガバナンス(G)」も含めたESGへの取り組みが欠かせなくなってきました。日経B‌P社では、1999年に日経エコロジーを創刊し、企業が環境に配慮しながら事業活動を行う「環境経営」をテーマに情報を発信してきましたが、ESGをトータルに考えていこうと2018年に誌名を日経ESGに変更しました。日経エコロジーは、企業の環境CSR担当者が主な読者でしたが、ESGとなると、経営企画や財務、原材料調達などの部門でも関わりが出てきますし、経営トップの責任も大きくなります。経営トップが、長期的視点に立って、ESGを全方位でにらみながら、サステナビリティ経営にコミットしなければならなくなりました。

─社会やガバナンスについても対応が求められているということですが、最近の特徴的な動きについて教えてください。

最も重要な動きは、企業のESGへの取り組みを投資家が評価して投資に生かすようになったことです。企業の情報開示もこれまで以上に求められるようになりました。

例えば温暖化対策については、2016年に発効した「パリ協定」によって、地球の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃未満に抑える目標を達成するため、企業には温室効果ガス削減がいっそう求められていますが、その取り組みの情報開示への要請も厳しくなっています。昨年、主要25カ国・地域の中央銀行等が参加する金融安定理事会が立ち上げた「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が、企業に気候変動に伴う財務的なリスクの情報開示を求める提言を出しました。つまり企業は2℃シナリオが導入された際に、自社の業績や財務計画がどう変わるかを、報告書で開示することが求められるようになったのです。環境の情報を財務的に開示し、それを投資家が評価する時代がやってきています。生物多様性も同様です。

企業の生物多様性を守る取り組みは、かつては野生動植物の保全活動を行うNGOへの寄付など社会貢献活動が中心でしたが、最近は本業で取り組むべき活動に変わってきました。企業はさまざまな自然資源を原材料として利用しながら事業を展開しています。サプライチェーンの上流や下流で起きている生物多様性上の問題にも責任を持たなければ、事業は持続できません。対応の遅れは経営上のリスクになる。そういう意味で、生物多様性への対応は、本業で取り組むべき経営課題です。2010年の生物多様性条約第10回締約国会議を経て、2012年の「リオ+20」(国連持続可能な開発会議)では、水や大気を含めた地球の「自然資本」への負荷を低減しようという考え方が提起され、企業には、サプライチェーン全体で配慮する「自然資本経営」が求められるようになりました。リオ+20の会議には投資家や金融機関が多数参加し、自然資本の保全を投融資の際の判断基準にするという「自然資本宣言」を発表しました。ここでも自然資本への対応が投資家に評価される時代がきているのです。

原材料の調達にも目を向けていく

─そういう国際的な潮流は、私たちの生活にどう関係しているのでしょうか。

一つの製品について、サプライチェーンを上流までさかのぼると、いろいろな問題が見えてきます。身近な製品の原材料をたどると、資源収奪的な採取や採掘、低賃金労働・児童労働、森林破壊などが起きていて、生態系の破壊や貧困が進行している地域もある。企業も消費者も、その現実に目を向け、自ら行動して解決をはからなければ、やがて自分たちの企業活動や日々の生活が脅かされるのではないでしょうか。

例えば、オフィス用紙のムダをなくそうという取り組みは、多くの職場で定着していますが、その原料を調達する森林に目を向けていく。製紙メーカーは、持続可能な森林資源の調達を行う。それを使う企業や消費者は、森林認証を得た用紙や持続可能性が担保された用紙を使用する。その両方の行動が、地球規模の環境を守ることにつながります。

─連合も認証用紙を使用しています。他にはどのような取り組みがあるのでしょうか。

最近、注目を集めているのは、パーム油です。植物油脂として多くの食品に使われるほか、洗剤の原料にもなっています。パーム(アブラヤシ)の木は、9割近くがマレーシアやインドネシアで栽培されていますが、需要の高まりを受けて、熱帯雨林を伐採して大規模農園がつくられるようになりました。その結果、例えばボルネオ島では、オランウータンやボルネオゾウなどの希少種が住み処を追われ、個体数が激減しました。パーム農園の開発が、生物多様性に深刻な影響を与えているのです。そこで、パーム関連の企業と環境NGOや農家が一緒になって、パーム油の認証制度であるRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証をつくり、企業は認証を取得したパーム油の調達を進めるようになりました。

現在、先進的な企業の経営トップは、「森林破壊ゼロ宣言」を発表し、認証パーム油を調達したり、2次、3次サプライヤーにいたるまで調達先を調査して、問題があれば、それを改善する取り組みを始めています。NGOからの抗議をきっかけに、自社の調達方針を見直し、売上の一部を生物多様性の保全活動にあてる仕組みを素早くつくった日本企業もあります。

現在、評価されている企業の中には、苦い経験を経て、環境問題は経営基盤を揺るがす重要課題と認識し、積極的な取り組みを行うようになったところも少なくありません。

─まだ、環境の取り組みが進んでいない企業もありますが、取り組みが進まない要因は産業の特性、それともリーダーの資質や意識の違いによるものなのでしょうか。

業種による差異は若干あります。生物多様性の分野では、木材やパーム油などを調達する製紙や住宅、化学の産業でまず取り組みが進み、そうした製品を販売する小売業の対応も進みました。自動車や電気電子産業では「紛争鉱物規制」が始まりました。コンゴ民主共和国と周辺国で採掘された希少金属がテロリストの資金源になっていたり、労働者の人権侵害や森林破壊を引き起こしていることから、こうした「紛争鉱物」を規制する動きがアメリカやヨーロッパで始まり、日本の企業も対応が求められています。このように産業による違いはありますが、やはり大きいのはリーダーの意識だと思います。進んでいる企業は、リーダーがいち早く経営リスクととらえて取り組みをしています。

視点を変えた新しいアプローチ

─連合の組合員は、消費者・生活者であると同時に企業の環境活動の実行者でもあります。そういう両面を踏まえて、労働組合に期待されることは?

労働組合は経営側との対話の場を持っています。企業の事例をみると、NGOからの指摘や投資家とのエンゲージメントがきっかけで問題に気付くケースがあります。ただ、今も短期的利益を優先する経営者は少なくありませんので、労働組合が「持続可能な経営」を求めて経営側と対話を行い、働きかければ、トップの意識を変える大きなきっかけになると思います。

もう一つ、環境問題では「連合エコライフ21」のような一人ひとりの積み重ねの行動がとても大事なのですが、運動を次のステップに高めるには、何か積極的な動機づけが必要になっているように思います。そのために活用してほしいのは、SDGsです。SDGsには「水の保全」、「気候変動対策」、「海洋保全」、「陸の生態系保全」という環境そのものの目標もありますが、目標12「持続可能な生産と消費」や目標17「パートナーシップ」も掲げられています。とりわけ目標12の達成にはさまざまなステークホルダーのパートナーシップが重要です。世界中で、いろいろな人たちがパートナーシップを組み、課題を解決する新しい仕組みをつくり、そこから新しいビジネスを生み出しています。それこそSDGsが真に求める「変革」、すなわち生産と消費の在り方の変革やライフスタイルの変革につながると考えています。

もう一つ運動を広げるきっかけにしたいのが、2020東京オリンピック・パラリンピックです。組織委員会はすでに「持続可能性に配慮した調達コード」を発表していて、企業はそれを意識した取り組みを始めています。

連合の強みは縦横の連携です。いろいろな業種の労働組合が情報交換し、パートナーシップを組んでいけば、きっと新しい社会の動きをつくり出すことができると思います。

─まさに社会対話とパートナーシップによって新たな価値を創造していくということですね。ありがとうございました。

[聞き手]小熊 栄 連合社会政策局長

※この記事は、連合が企画・編集する「月刊連合10月号」の記事をWEB用に再編集したものです。

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