「性都」として知られている広東省の東莞市で性風俗の取り締まりが行われ、いろいろ思うところがあったので、これについて少し。
1 きっかけ
最初に経過を説明しておくと、東莞市は香港に近いことから急成長を遂げた都市です。2003年には同じ広東省の珠海市で日本人の集団売春事件を契機に反日運動も盛り上がったことがあります。
これらの都市に共通して言えることは、改革開放経済以降急成長を遂げたことで、結果急激にビジネスマンなどが訪れるようになり、彼らを目的に性風俗に従事する女性が増えたというパターンで、ある意味かつての江戸と共通するところがあります。
ところがこうした風俗店の様子が中央電子台で報道され、それを積極的に取り締まらない公安の姿勢が批判的に報道されたことから、大きな問題となり、関係者が停職処分となるなど、省を挙げた取り締まりが行われる様になったという事案です。
2 権力争い?
今回の摘発については、上に書いたとおり、最初にいきなり全国放送で問題が批判的に放送され、地方政府が後追いで処罰を開始するという形になっており、結果地方政府のメンツが丸つぶれという形になっております。
こうしたことを受けて「広東省トップの胡春華・共産党委員会書記は、改革志向の共産主義青年団(共青団)出身。次期最高指導者の有力候補であるため、習氏が、共青団の影響力を排除しようとしている」との報道もなされています(『夕刊フジ』「中国『性の都』摘発劇、裏に権力闘争か... 習氏がライバルの牙城"狙い撃ち"」)。
確かに中国の場合こうした派閥争いについては、これまでも何度か言われてきておりますが(中国の高速道路無料化と派閥争い)、日本の自民党を見ていてもわかるとおり、どこにでもある話ですし、流動的な面もあるので、私自身はあまりに重要視するのはどうかと思っております。
3 摘発
中国では建前としては売買春は違法とされておりますが、実際いたるところで行われているという建前が幅をきかせています(中国の援助交際(売春)と建前)。
その一方で、中国はコネ(関係)がものをいう社会なので、公安でも誰を捕まえるかはかなり裁量があり、日本人だからという理由で売春容疑で捕まる可能性も全く否定できない社会です(日本人売春容疑で逮捕?)。
裏を返せば、公安等とコネがあれば逮捕されないという話で、公安や人民解放軍とコネをつくって摘発を受けない様にしているところがあるというのは公然の秘密の様です(レーダー照射と中国の文民統制について)。
ただ、今回はメンツをつぶされた省の書記が本気で取り締まりに当たっており、結果公安担当者が停職処分になるくらいとなると、建前である売買春は違法が前面に出てくるという話です。
4 摘発2
中国での摘発を見ていると本当に思うのが、犯罪者を晒しものにするという発想で、いまでこそ殆どなくなりましたが、犯罪者を市中引き回しのうえ、処罰するということが本当に行われていました(容疑者51人を見せしめのために引き回し、公開裁判も)。
今回の摘発でもカメラが逮捕現場に入っており、男女を問わずかなり恥ずかしい場面が撮られて放送されてしまった人がいる様です。
人権という観点でどうかと思うのですが、中国では、こうした摘発にはこういう映像がつきものとなっており、何度もこういう映像が放送されているとあまり違和感や疑問を感じないのかもしれません。
5 最後に
確かに、犯罪行為を行ってきた人たちが悪いと言われてしまえばそれまで、私も別に彼(女)たちを積極的に擁護するつもりはありませんが、いきなりこれはないだろうというところです。
どこまで確証のある話かわかりませんが、もしかすると、その裏には全く彼(女)たちとは関係のない権力争いやメンツがあるとすれば、そのために生活をダメにされる人が数多く存在しているという話で、なおさらだと思った次第です。
(2014年2月16日「政治学に関係するものらしきもの」より転載)