大阪地震で起きたヘイトデマに注意――ヘイトクライム、ジェノサイドを防ぐために

私たち一般市民ができることは、差別を見つけた際、通報し、また記録することである。
時事通信社

6月18日、大阪を中心として大きな地震が発生した。被災された皆様には心よりお見舞い申し上げたい。1日も早く普段通りの生活が戻ってくることを祈っている。

さて、今回の地震でTwitterを中心に外国人と犯罪を結びつける差別的なデマが飛び交っている。これは非常に危険な状況である。災害などの緊急時には、小さなデマも深刻な差別的暴力事件に発展する可能性があるからだ。

まず、どのようなデマが発生していたのか見ていこう。

これは地震発生直後に投稿されたものである[1]。「スリーパーセル」とは今年2月に三浦瑠麗氏がテレビ番組で行なった発言[2]を受けて、知られるようになった。インターネット上で頻発している表現であり、「北朝鮮のテロリスト分子」を指す言葉として使われている。

もう一つご覧いただこう。

この投稿では「スリーパーセル」に加えて「不逞鮮人」という言葉が使われている上に、三浦氏の名前に触れながら、「スリーパーセル」という表現を使っている[3]。これら二つは、災害に乗じて在日コリアンや外国人が暴動を起こす可能性があるとのデマを流し、人々の恐怖と暴力を煽る極めて卑劣で、危険な投稿である。

確かに災害時には人々の不安感の中でデマが飛び交うことが多い。今回の地震でも「シマウマが脱走した」などのデマが飛び交い、「救助・復旧現場が混乱する」という理由でこれらのデマへの注意喚起がなされている。

しかし、先ほどの2つのデマはこれとは根本的に異なっている。それは、特定の人種や民族に対するデマであり、彼ら彼女らへの攻撃・攻撃の煽動を行なっている点である。放置すれば深刻なヘイトクライム(差別的動機による犯罪)に繋がる可能性を秘めているのだ。

実は同様のデマは2016年の熊本地震の際にも発生している。地震発生直後からTwitter上では「朝鮮人が井戸に毒を入れた」とのデマが飛び交っていた[4]。これはご存知の通り1923年の関東大震災における虐殺事件の引き金となったデマを模倣したものである。この事件では6000人あまりが虐殺されたとも言われている[5]

歴史から明らかなように、こういった非常事態におけるヘイトデマはジェノサイドに容易に結びつく極めて危険なものである。

では、こういったデマに対してどのような対策が必要なのだろうか?

第一には、政府や自治体など公的機関、政治家などの公人がこのような差別的なデマを否定するコメントを公式に発表することである。例えば、大西一史熊本市長が、デマを否定しデマツイートを控えるよう呼びかけている[6]

【デマにご注意】熊本地震時の経験から、情報の発信元にはみなさん十分注意して信頼できる情報なのかどうか?今一度十分に確認をして下さい。未確認の情報をむやみにリツイートせず、情報の真偽を確かめてから責任をもってツイートして下さい。

— 熊本市長 大西一史 (@K_Onishi) June 18, 2018

政治家は一般人とは異なり、大きな社会的影響力を持つ。公職にある人間が、こういったデマを否定するコメントを発表することで、デマの煽動効果を一定押さえ込み、ジェノサイドに結びつく可能性を低下させることができる。震災で甚大な被害を受けた大阪を中心とする関係自治体や、政府トップである安倍首相には、ぜひこうしたデマを否定するコメントを発表してもらいたい。これはさらなる犠牲者を出さないために、絶対にやらなければいけないことである。

また三浦瑠麗氏は国立大学である東京大学所属の研究者として、このような状況に対してコメントを発表するべきである。「スリーパーセル」発言について、三浦氏は「私は番組中、在日コリアンがテロリストだなんて言っていません。逆にそういう見方を思いついてしまう人こそ差別主義者だと思います」と説明している。

であるからこそ、改めてスリーパーセルと在日コリアンを結びつける言説に警鐘を鳴らし、ヘイトデマを打ち消す役割を担って欲しい。

ちなみに、政治家がこのデマを擁護するのは、最悪である。

熊本震災の際には、福岡県行橋市の小坪慎也市議がインターネットメディアにおいて、デマに関する記事を書いた。

「「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが飛び交うことに対しては仕方がないという立場である。」、「治安に不安がある場合は、自警団も組むべきだろう。(中略)しかし、疑心暗鬼から罪なき者を処断する・リンチしてしまうリスクも存在する。そうはなって欲しくないが、災害発生時の極限状況ゆえ、どう転ぶかはわからない。」

などといった記述が見られる[7]

記事では、地方議員や行政職員の奮闘について触れ、一見したところ、デマではなく地方議員が発信する「安心安全のための情報」を拡散するよう呼びかけているようにも読める。

しかしこの記事を震災の真っ最中に公表するということは、上記のようにところどころに散りばめられている表現からして本人の意図がどうであれ、震災で混乱している社会に対し、在日コリアンをはじめとする人種・民族的マイノリティを差別し虐殺しても仕方ないとのメッセージを発信することに繋がらないだろうか。

事実、関東大震災時も、民衆の間で単にデマが流されたことにより虐殺が発生したのではない。当時の内務省が「朝鮮人が井戸に毒を入れた/暴動を起こそうとしている」とのデマを公認し、戒厳令の口実とした。いわばお墨付きを与えたのだ。それは官憲を通じて伝播していったが、一般民衆にとってはまさに「殺しても良い」という号令になったのである[8]

第二に、こうした投稿をTwitter社などSNS各社や、法務省をはじめとした関係機関が調査し、削除することである。SNSのサービスを提供する運営会社は、ヘイトスピーチをきちんと規制する義務が存在する。しかるべき人員・コストを割いて対処しなければならない課題であろう。また日本政府は、こうしたインターネット上のヘイトデマがどの程度流布されているのかを統計調査し、SNS各社に削除するよう指導することが必要である。

今回の地震で流れたヘイトデマは、良識的な人々によってネット上でTwitter社に規約違反の投稿として通報されているが、一向に削除されておらず、野放し状態になってしまっている。繰り返しになるが、これは非常に危険である。想像がつかないかもしれないが、ジェノサイドは実際に起こりうる。約100年前、関東大震災時には、数千人が本当に殺されたのだ。

このようなヘイトデマへの対策として、私たち一般市民ができることは、上述のように差別を見つけた際、通報し、また記録することである。私が代表を務めるNGO、反レイシズム情報センターでも差別のリポートを受け付けている。記録があれば関係各所の専門家と連携を取りながら対処していくことが可能である。ぜひこちらのフォームから(https://antiracism-info.com/contact/)リポートいただきたい。

[1] https://twitter.com/UsbNoh/status/1008513208859090944

[2] 三浦氏は番組内で「スリーパーセル」が日本国内で活動していると発言し、「今ちょっと大阪やばいって言われていて」と発言している。これは人種差別撤廃条約第1条にいう人種的差別に該当するものであるが、今回じっさいに同「スリーパーセル」発言が本記事に引用したように差別煽動の重要なツール(しかも東大の先生という権威に裏打ちされた)として活用されていることが明らかになった。https://www.huffingtonpost.jp/2018/02/12/ruri-miura_a_23359021/

[3] この投稿を行ったアカウントは現在削除されており、閲覧することはできない。6月18日23時32分時点でARICのヘイトウォッチチームが画像保存を行った。

[4]https://togetter.com/li/962668参照。他にもインターネット上で検索すると複数の差別的投稿の記録がヒットする。なお、この件に関しては私が代表を務める団体でもキャンペーンを行った。詳しくはこちらをご覧いただきたい。https://antiracism-info.com/campaign/kumamotoeq_kotsubo

[5] 関東大震災における虐殺事件は、当時の日本政府が隠蔽や資料の改ざんを行ったため正確な人数は今尚明らかになっていない。とはいえ実際に虐殺を行った民衆の日記等多くの資料が存在する。姜徳相『関東大震災・虐殺の記憶』(青丘文化社 2003年)参照。

[6] https://twitter.com/K_Onishi/status/1008514998253977600

[8] 関東大震災時のジェノサイドのメカニズムについては拙著『日本型ヘイトスピーチとは何かー社会を破壊するレイシズムの登場―』(影書房 2016年)の第3章をぜひ参照いただきたい。http://www.kageshobo.com/main/books/nihongatahatespeech.html

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