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2018年05月16日 11時30分 JST | 更新 2018年05月16日 11時30分 JST

裁判員制度「市民からの提言2018」<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと

裁判員制度は、5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えます。

裁判員制度は、5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えます。裁判員ネットでは、これまでに345人の市民モニターとともに650件の裁判員裁判モニタリングを行うなど活動を重ねてきました。この「市民からの提言」は、裁判員制度の現場を見た市民からの提案です。裁判制度の現状と課題を整理し、具体的に変えるべきと考える点をまとめました。今回は、提言②を紹介します。

<提言②>

無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと

1 現状と課題

(1)刑事裁判の最大の使命は冤罪を防ぐこと

裁判員制度が施行された2009年5月以降に明らかになった主な冤罪事件だけでも、足利事件、東電OL殺人事件、袴田事件、東住吉事件があげられます。いずれも職業裁判官時代の裁判でしたが、裁判員裁判においても、冤罪が生み出される危険性が皆無とは言えません。

刑事裁判の最大の使命は、冤罪を防ぐことです。冤罪の怖さは、無実の人が身に覚えのない罪で逮捕され、裁判で有罪となり刑罰を受け、人生を奪われることにあります。一方で、冤罪が起きれば、結果として真犯人は野放しになってしまいます。冤罪は、被害者や遺族にとっても許されるものではありません。裁判員制度では、重大な刑事事件の裁判には市民が裁判員として参加します。そのため裁判員となる市民には冤罪を防ぐ役割を担うことが求められているのです。

(2)裁判員によって異なる説示の経験

ある裁判員経験者は、「無罪推定の原則」と「証拠主義」という刑事裁判の鉄則を裁判官から丁寧に教えられたと述べています。裁判員ネットの模擬評議で使用している資料は、ある裁判所の説明をもとに作成したものです。一方で、別の裁判員経験者は、刑事裁判の理念については、十分な説明がなかったと話しています。現在、刑事裁判の理念に関する裁判所の説明は、公開の法廷では行われていません。そのため、どのような説明がなされているのかを知ることができません。裁判官によって、説明の内容が異なるかどうかを確認することもできません。また、公開の法廷で行われてないために、刑事裁判の理念を遵守しなければならないという裁判員の意識が希薄になる懸念もあります。裁判員経験者の中には無罪推定の原則が分かりにくかったという率直な声もあり、このような現状のままでは市民が冤罪を防ぐ役割を担うことは難しいと言わざるを得ません。

2 裁判員経験者の声(裁判員経験者意見交換会議事録より)

一般の人としてはやっぱりなかなか普通の生活の中では、いかにも怪しくても、でも絶対証明できないものは無罪なんだというやり取りで生活はしてないと思うんですよ、皆さん。そこが違うんだということが,まず大前提にあったりということも素人にはちょっと分かりにくい(中略)基本的な考え方のレクチャーがあってもいい(中略)事前に何かちょっと少しの時間でもあるといいのかなとは思いました(東京地方裁判所平成25年6月13日)

裁判官の方に初めに,裁判は有罪は本当の黒で,黒がかったグレーは無罪だからっていうお話を伺ったんですね。(中略)少しでもグレーがかっていたら,やっぱり有罪じゃないのかなというのを最後に感じましたけどね。ちょっとそこの線引きが難しかったんです(東京地方裁判所平成25年6月13日)

3 具体的な提案

司法への市民参加の歴史の長い米国・英国では、裁判官による法の解説である「説示」がモデル化されています。裁判員制度のもとで、適正な刑事裁判を行うためには、司法に参加する市民が守るべき共通のルールが必要です。冤罪を防ぎ、適正な刑事裁判を行うために、刑事裁判の理念が明確に共有され、市民が裁判に臨むことが必要です。

私たちは、遵守すべき刑事裁判の理念を共有するために、公開の法廷で「説示」を行うことを提案します。

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裁判員制度「市民からの提言2018」

1.市民の司法リテラシーの向上に関する提言

<提言①>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を理解できるような法教育を行うこと

<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと

2.裁判所の情報提供に関する提言

<提言③>裁判員裁判及びその控訴審・上告審の実施日程を各地方裁判所の窓口及びインターネットで公表すること

<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

3.裁判員候補者に関する提言

<提言⑤>裁判員候補者であることの公表禁止を見直すこと

<提言⑥>裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること

<提言⑦>裁判員候補者のうち希望する人に「裁判員事前ガイダンス」を実施すること

<提言⑧>思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること

4.裁判員・裁判員経験者に関する提言

<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること

<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること

<提言⑪>守秘義務を緩和すること

5.裁判員制度をより公正なものにするための提言

<提言⑫>裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること

<提言⑬>裁判員裁判の控訴審にも市民参加する「控訴審裁判員」の仕組みを導入すること

<提言⑭>市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと