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2018年05月29日 10時42分 JST | 更新 2018年05月29日 10時42分 JST

裁判員制度「市民からの提言2018」<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること

裁判員の心理的負担は大きいものがあります。

裁判員制度は5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えます。裁判員ネットでは、これまでに345人の市民モニターとともに650件の裁判員裁判モニタリングや裁判員経験者へのヒアリングも実施し、裁判員裁判の現場の声を集める活動を行ってきました。この「市民からの提言」は、裁判員制度の現場を見た市民からの提案です。裁判制度の現状と課題を整理し、具体的に変えるべきと考える点をまとめました。今回は提言⑩を紹介します。

<提言⑩>

裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること

1 現状と課題

(1)裁判員の心理的負担

2013年5月、死刑判決を言い渡した裁判で裁判員を務め、証拠調べで殺害現場や遺体の傷口のカラー画像を見たことなどが原因で急性ストレス障害となった女性が、国に損害賠償を求める訴訟を起こしました。この裁判の判決では裁判員を務めたことによって急性ストレス障害になったことが認定され、裁判員の心理的負担の問題に注目が集まりました。しかし、この事件に限らず、裁判員の心理的負担は大きいものがあります。

裁判員経験者ネットワークで実施したアンケートでは、回答した裁判員経験者42人のうち30人が心の負担を感じたと回答しました。心の負担を感じた時期について尋ねたところ(複数回答可)、審理前18人、審理中22人、審理直後21人、審理後しばらく経過してから11人となっており、各段階で心の負担を感じていることがわかりました。※1

裁判員を経験することで市民が感じる心理的負担には、①遺体の写真や凶器などのせい惨な証拠を見ることにより生じるものと、②被告人や事件に関わった多くの人々のその後の人生に影響を及ぼす判断を担うことにより生じるものとがあると考えられます。裁判員の心理的負担の軽減あるいは生じた負担を和らげるための体制づくりは、裁判員制度が抱えている大きな課題の一つです。

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(2)裁判所の取り組み

2013年8月、東京地裁の裁判官が遺体などの写真を証拠として提示する際、裁判員の心理的負担に一層配慮するよう申し合わせたこと、またその報告を受けた最高裁判所が、全国の高裁を通じて東京地裁の取り組みを参考にするよう通知したことが報じられました。

また、最高裁でも、職業裁判官を対象に臨床心理士を講師に招いて各地で勉強会を開くなどの対策を始めています。しかし、裁判官自身は心理の専門家ではないことから、その場で十分な対応ができないおそれもあります。今後は、裁判所と臨床心理士等の心理の専門家がより連携を深めることが必要です。

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2 裁判員経験者の声(裁判員意見交換会議事録より)

実際にその傷口を見たときは、その日は眠れなくて辛かったです。今でも時々フラッシュバックというか、傷口を思い出します(東京地方裁判所平成24年3月12日)

供述調書が非常に具体的なので、それを朗読を聞いてる中で気分が悪くなってですね、二、三日ちょっと眠れなかった(東京地方裁判所立川支部平成27年1月13日)

判決によって被告人の一生が変わるという責任というか、そういうことを感じて苦しんだ部分もあった(東京地方裁判所平成24年3月12日)

判決を言い渡す前日からちょっとじんましんが出まして、年明けて3月ぐらいまでちょっと薬飲んだりというのもあったんで、その辺も人が人を裁く、まして自分たちはそういうことに関しては素人なので、その辺のストレスというのもちょっと大きいのかなというのは身を持って感じた部分がありました(東京地方裁判所平成24年6月12日)

裁判員を経験してから、割と自分が無口になったかなと思います(東京地方裁判所立川支部平成25年7月11日)

このメンタルヘルスをもうちょっと、どんなことでも言ってくださいとかって、資料だけじゃなくて更にもっと言っていただいたほうがいいのかなとは思いました(東京地方裁判所立川支部平成27年1月13日)

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3 具体的な提案

重大な刑事事件を対象とする裁判員裁判に、市民が責任をもって参加するためには、裁判員及び裁判員経験者の心理的負担について十分に配慮する体制をつくる必要があります。裁判所と臨床心理士等の連携を強めて、裁判員を務めている間も臨床心理士等に相談できる環境を整備すべきです。

具体的には、裁判員裁判を実施している各裁判所に臨床心理士等の心理の専門家を配置し、裁判員が随時直接相談できるようにすることを提言します。

また、利用率が極めて低い「裁判員メンタルヘルスサポート窓口」については裁判所への臨床心理士配置と合わせて抜本的な見直しを行うことが必要です。特に、裁判員経験者が、心理的にも物理的にもこの窓口を利用しやすくするために、面接回数の制限をなくすこと、相談に際しては守秘義務が解除されることを明示することが必要だと考えます。

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※1 濱田邦夫他「裁判員裁判における裁判員の家族にも話せない苦痛の実態と軽減策」明治安田こころの健康財団研究助成論文集通巻第50号(2014年度)

裁判員制度「市民からの提言2018」

1.市民の司法リテラシーの向上に関する提言

<提言①>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を理解できるような法教育を行うこと

<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと

2.裁判所の情報提供に関する提言

<提言③>裁判員裁判及びその控訴審・上告審の実施日程を各地方裁判所の窓口及びインターネットで公表すること

<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと

3.裁判員候補者に関する提言

<提言⑤>裁判員候補者であることの公表禁止を見直すこと

<提言⑥>裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること

<提言⑦>裁判員候補者のうち希望する人に「裁判員事前ガイダンス」を実施すること

<提言⑧>思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること

4.裁判員・裁判員経験者に関する提言

<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること

<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること

<提言⑪>守秘義務を緩和すること

5.裁判員制度をより公正なものにするための提言

<提言⑫>裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること

<提言⑬>裁判員裁判の控訴審にも市民参加する「控訴審裁判員」の仕組みを導入すること

<提言⑭>市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと