外洋の深海堆積物に酸素と生命圏を発見

外洋深海底の表層から玄武岩の海洋地殻の上まですべての堆積物に酸素が存在していることを、海洋研究開発機構高知コア研究所の稲垣史生上席研究員、諸野祐樹主任研究員らが初めて実証した。

深い外洋の深海堆積物にも意外な生命圏があった。外洋深海底の表層から玄武岩の海洋地殻の上まですべての堆積物に酸素が存在していることを、海洋研究開発機構高知コア研究所(高知県南国市)の稲垣史生(いながき ふみお)上席研究員、諸野祐樹(もろの ゆうき)主任研究員らが初めて実証した。

それらの酸素に富む堆積物に、代謝活性が極めて低い好気性の微生物が生息する超低栄養生命圏が存在することを発見した。地球内部の生命圏と元素循環に新しいパラダイムをつくるような発見といえる。東京大学、広島大学、静岡県立大学、筑波大学を含む12カ国の研究機関が参加する大規模な国際共同研究で、3月17日付の英科学誌ネイチャージオサイエンスのオンライン版に発表した。

統合国際深海掘削計画(IODP)の第329次研究航海「南太平洋環流域生命探査」(共同首席研究者:スティーブン・ドーント米ロードアイランド大学教授、稲垣史生上席研究員)で、地球上で海水中の有機物が最も少なく、透明度が最も高い南太平洋環流域の海底を米科学掘削船「ジョイデス・レゾリューション号」で2010年10~12月に掘削した。その際に採取されたコア試料を詳しく分析した結果で、海洋と地球内部での元素循環や生命圏が、これまで考えられてきたよりも広がりをもつことを示した。

過去10年以上にわたる科学海洋掘削で、地球全体の海洋下に約2.9×1029細胞の微生物が生息する海底下生命圏の存在がわかってきた。深海底は地球に残された最後の生命圏フロンティアで、その謎が次々と解明されている。一方、海水中の基礎生産量が極めて小さく、有機物をほとんど含まない外洋の堆積物については、生命が存在するかどうか、よく知られていなかった。特に、厚さが100m以上に及ぶ海洋地殻(玄武岩)上に積もった外洋の海底堆積物には、どのような生命圏が広がっているかは深い謎だった。

国際研究チームはこの課題に挑戦した。南太平洋環流域の中心域を含む7カ所の掘削地点(水深3740~5695m、1.1~10.6℃)で、海底表層から玄武岩直上までのすべての堆積物(厚さ最大131m)のコア試料を採取した。掘削されたコア試料は、船上に回収後直ちに冷蔵実験室で、溶存酸素濃度や間隙水中の成分、堆積物の地質学的な特徴などを分析した。また、無菌環境下でコア試料に含まれる微生物細胞の数を高精度・高感度細胞計数法で測定した。

分析の結果、南太平洋環流域の掘削サイトすべてで、海底表層から約1億2000万年前(白亜紀)に形成された玄武岩直上までのすべての堆積物の間隙水に酸素が溶存していた。微生物活性が高い大陸沿岸の堆積物では、海水から供給される酸素は海底下数mm~数mで完全に消費され、嫌気・無酸素状態になる。一方、南太平洋環流域のような栄養源に乏しい外洋環境では、堆積物中の微生物の代謝活性が著しく低いために、海水からゆっくり拡散・浸透する酸素が完全に消費されず、玄武岩にまで到達していることが実証された。

これまでの科学海洋掘削調査で得られた世界各地のデータと統合したところ、地球の全海洋の最大37%で、海水から堆積物へと供給された比較的豊富な酸素が、玄武岩の海洋地殻に供給されていると算出できた。さらに、南太平洋環流域の深海底堆積物には、栄養源の有機物の濃度が0.25%~0.002%(検出限界)以下と極めて少ないにもかかわらず、堆積物1cmあたり約10~10細胞程度の微生物が生息していることを見いだした。この微生物細胞が1年間に消費する酸素の量はごく微量で、南太平洋環流域のような冷たい広大な深海底堆積物に、地球上で最も代謝活性の低い超低栄養生命圏が存在することがわかった。

稲垣史生上席研究員らの国際研究チームは「外洋の広い範囲の海底堆積物で、海底表層から玄武岩直上までのすべての空間に酸素と生命が存在することは、外洋堆積物環境には生命圏の限界がないことを意味している。また、海水から広い範囲で海洋地殻に供給される酸素は、地球環境に影響を与えている可能性がある。今後、日本の『ちきゅう』による海洋掘削などで、海底下における生命進化や生存戦略、地球規模の元素循環について、多くの発見や新しいパラダイムが創出されることが期待される」と指摘している。

関連リンク

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