層状と鎖状の2種類の磁気格子からなる分子磁性体(分子磁石)を組み合わせて、それぞれの構造と磁気的な特徴を併せ持つ、新しい3次元格子の分子磁石を創製することに、東北大学金属材料研究所の宮坂等(みやさか ひとし)教授と大学院生の福永大樹(ふくなが ひろき)さんが成功した。この3次元格子は、冷却すると磁石になる磁気相転移温度が絶対温度82度(-191℃)と比較的高い分子磁石になった。分子磁石などの新しい機能物質の開発に道を開く手法といえる。11月20日付のドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に発表、Very Important Paper (VIP)に選ばれた。
磁石を"分子で創る"ことはナノサイズ制御などの多くの利点があるため、幅広く活発に研究されている。しかし、1次元や2次元の格子の磁気相転移温度は絶対温度数度と非常に低く、格子同士の相互作用で磁石の性質が消えてしまうという課題も残り、限界があった。磁気相転移温度の高い分子磁石を創るには、一度に組み上がるジャングルジムのような等方的な3次元格子を創製することが近道だと理解されてきた。
研究グループは、構成ユニットが類似の層状磁性体と磁性鎖に着目した。両者の構造的な特徴である層と鎖(柱)を組み合わせた"ピラードレイヤー構造"(層が柱でつながれたビルのような骨格構造)を自己組織化で構築して、層内の磁気秩序と層間をつなぐ常磁性の柱を介した層間のスピンの連結をうまく制御する設計を考案した。
この設計にしたがって、カルボン酸架橋水車型ルテニウム2核金属錯体とTCNQ誘導体からなる層状磁性体と、柱状格子を持つ電荷移動磁性体を組み合わせて、両物質の特徴をそのまま加えた"πスタック型ピラードレイヤー構造"の有望な分子磁石を構築した。構成分子を組成比の割合で混ぜ合わせると、自然に会合して3次元構造を形成した。その中でスピンが残り、設計通りの磁石になった。常圧で絶対温度82度だった新物質の磁気相転移温度は、化合物に等方的な圧力をかけると、線形的に上昇し、簡単に絶対温度100度を超えて上がった。
宮坂等教授は「低次元格子の構造と磁気秩序をそのまま組織化して3次元的な磁気経路を構築する設計は、分子からくみ上げるボトムアップ手法として極めて有望だ。この方法は類似の化合物群にも適用でき、他の機能性(光応答性、伝導性、多孔性を利用した分子吸着能など)の付加も含めて、多様な物質の設計に使える。今後は、相転移温度が高い分子磁石を探索するとともに、多重機能磁性材料の開発を進めていきたい」と話している。
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・東北大学 プレスリリース