地下水のくみ上げで新技術が生まれた。1本の井戸内に、膨潤性を持つ素材を空気で膨らませた空気パッカーを設け、その仕切りで隔てられた複数の深度にポンプを設置して、それぞれのポンプから独立に地下水をくみ上げる二重揚水技術を、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)農村工学研究所の石田聡(いしだ さとし)上席研究員らが開発した。
地中に良好な水質と、水質が悪化している地下水が混在する場合、揚水の際に混合してしまう。今回開発した新技術では、別々に揚水して混合を抑える。帯水層下部に塩水が浸入している沿岸や、津波で表層近くの地下水が塩水化している地域などでも、良好な水質の地下水が利用できるようになると期待される。農研機構農村工学研究所が3月24日に発表した。
井戸水は、水をとおしやすく、水質が良好な帯水層からくみ上げる。しかし、帯水層の一部に水質が悪い地下水がときに存在する。沿岸域では帯水層の上部は淡水だが、下部には海から浸入した重い塩水が分布する。また、大津波の被災地域では上部に塩水が分布したりする。水質が良好な層からくみ上げると、その層の圧力が低下するため、水質が良くない層から地下水が流れ込んで混合し、水質が徐々に悪化していく。この問題を解決するため、水質が良い地下水だけを安定的に上げる技術が求められていた。
新しい装置は、1本の井戸の内部に独立して任意の深度に設置できる2つのポンプ、ポンプの間の仕切りとなる空気パッカー、地下水圧・水質を測定するセンサー、これらをつり下げる昇降機、揚水量の制御装置などで構成される。井戸の深度別の地下水質をあらかじめ測定し、水質の良い深さにポンプの1つを、水質の悪い深さにもう1つのポンプを、その中間に空気パッカーを設置し、空気を送って膨らませ、井戸内の地下水の流れを遮断して、2つのポンプを同時に動かす。水質の良い深さに設置されたポンプでくみ上げた地下水は利用し、もう1つのポンプで上げた地下水は廃棄する。
2つの異なる深度から同時に揚水すると、水質の良い層と水質が悪い層の間に圧力差が生じず、双方の混合を抑えることができる。ポンプ近くに設けられたセンサーで圧力と水質を監視し、それぞれの深度からの揚水量を調整する。実際に、農村工学研究所に設けられた口径10㎝の井戸で実施した試作機の試験で、2つのポンプを同時に動かしても、双方の地下水が混合しないことを確かめた。ただ、井戸内に空気パッカーを設けるため、止水が確実になるよう内壁が滑らかな金属や塩化ビニールなどの管井(かんせい)が対象になる。
石田聡上席研究員は「離島などでは地下の深い所に塩水が浸入している場合が多く、淡水だけをくみ上げることが課題になっている。浅い層からくみ上げる井戸と深いところからくみ上げる井戸を2本掘る技術は従来あったが、われわれの新技術では、1本の井戸で選別して揚水できる。しかも、水質の良い深さと、水質の悪い深さの境界が移動しても、仕切りとポンプの位置を自由にずらせるので、使いやすい。空気パッカーを増やしたり、ポンプ同士の距離を調節したりして、改良も進めたい。塩水や汚染などに悩まされている地域で広く使ってほしい」と話している。
関連リンク
・農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構) プレスリリース