「男性社員は全員育休取得」は正しいのか? (後藤和也 大学教員/キャリアコンサルタント)

安易な方法で男性の取得率を上げようとしても効果的ではないだろう。
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人材確保策の一環として、3歳未満の子を持つ男性社員全員に必ず1か月以上の育休を取得させるというニュースが報じられた。

積水ハウスは26日、3歳未満の子どもがいる男性社員全員が1か月以上の育児休業を必ず取る制度を導入すると発表した。(中略)子育て支援に積極的な姿勢をアピールすることで、優秀な人材の確保につなげる狙いがある。

男性の育休1か月「必須」...積水ハウス ヨミウリオンライン ヨミドクター 2018/07/27

記事によれば「最初の1か月は有給(これまでは4日間)とし、分割での取得も可能。当事者と上司に研修を実施するなど、休暇を取得しやすい社内環境の整備にも努める」という。

■育児休業「みんなで取れば怖くない」?

昨今の売り手市場を意識した採用PR戦略といえばそれまでだが、筆者は違和感を禁じえなかった。気になったのが以下の点だ。

第1に、この制度が運用されれば、子どもを授かった男性社員は、皆最低1か月は職場を離れることになる。まじめな社員や多忙な社員ほど「今とても仕事を離れられない......」と考え、妊娠や出産を避けてしまうことにはならないか。以前、保育園で保育士たちに妊娠の順番が割り振られている、というニュースが報じられたことがあるが、暗にそのような状況が起きないだろうか。

第2に、会社による子育て支援やワークライフバランス支援は「中・長期の育休取得」だけだろうか。普段から家事や育児をしている男性ならばともかく、そうした経験がない夫が突然家にいても、妻は余計なストレスを抱えるだけではないだろうか。なぜ「1か月以上の育休取得義務化」なのか。「1年間残業を免除する」等の施策ではダメなのか。

第3に、本件育休取得は男性社員のリスクとはならないのか。「1か月は有給、社内環境整備も行う」というが、例えば退職金やボーナスの計算から育休の期間が除算されたり、インフォーマルなものも含む考課上不利益を被ったりすることはないのか。

第4に、育休の取得というのは本来当該社員や家族の選択・戦略であるべきではないか。男性の育休取得率向上は国策ではあり、一斉に取得させることはその呼び水とはなり得るが、「育休を取得しない権利」についてはどう考えるのか。

もちろん筆者も育児当事者であり、本件を頭ごなしに否定する意図はない。ただ、組織からの命令で「皆が一斉に」育休を取得する、ということに、どうしても違和感を覚えてしまうのだ。

■本制度に付け加えるとするならば。

冒頭で述べたように本件は採用就活におけるPRのための企業戦略なのかもしれない。もしそうであるならば、現役育児中の働く父親として、もっと効果的だと思われる施策を提案してみたい。

まずは、育休にこだわらないカフェテリア方式の導入だ。例えば「向こう1年間の残業・出張の免除」「年間30日間の子どもの看護休暇の取得」などのメニューから、好きなものを一つ選べる、といった内容はどうか。

筆者の経験則とはなるが、子どもの成長を時系列で考えれば、生まれた当初1か月間家にいるよりは、その後1年間定時で帰宅する方が家事が効率的に回ることが多い。また、特に保育園に入園すると子どもは頻繁に病気になる。その都度有給休暇を使用すると、有給が無くなってしまう。このような豊富なメニューがあれば、若い世代への格好のPR材料となるが、どうだろうか。

もう一つが育休の取得とセットで確実な代替人員の確保(ワークシェアリング)である。妊娠から出産まではおよそ10ヶ月あるのだから、その間同僚で分担したり派遣社員とペアを組ませたりして、担当業務について徹底的にシェアを行う。いざ育休に入るときには、当該社員がいなくても担当業務が滞りなく進む体制が整っていれば罪悪感は相当軽減されるはずだ。

もちろん「俺がいなくても会社は回るのか...」と愕然としてしまうかもしれないが、今後昇進していくに従って他人を使って業務を回すことになるのだから、早めのマネジメントの練習と割り切りたいところだ。

先に述べたような給与処遇上の不利益が全く起こらない制度の改正や、上司への徹底した評価者研修の実施は必須だろう。これらの施策と合わせて育休を推進すれば、本気度は会社内外に伝わり納得感が担保できるのではないか。

■終わりに

働く女性に比べ男性の育休取得率の低さは確かに問題である。行き過ぎた不均衡は何かしらの啓発を行い是正していく必要があるだろう。

しかし、取得率の不均衡については(それの良し悪しは別として)ある種の必然性があるのではないか。すなわち、現状は何かしらの要因で、女性側が育休を取得する方がうまく回ってしまうのではないか。それについては本来丁寧な分析が必要であり、安易な方法で男性の取得率を上げようとしても効果的ではないだろう。

一方、企業が社員の人生を支援し、併せて当該支援策を採用活動の材料にしたいという意図は理解できる。どうせ行うのであればより効果的に社員のニーズに即した制度を導入する方がお互いハッピーなのではないだろうか。

【参考記事】

後藤和也 大学教員 キャリアコンサルタント

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