森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。10月号の「時評」では、京都学園大学教授・京都大学名誉教授の森本幸裕さんが、コンパクトな品種が使われ始めた街路樹について考察しています。
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街路並木の起源は古代エジプトの紀元前15世紀、第18王朝ハトチェプストのデル・エル・バハリの神殿に遡る。暑く乾燥した気候のエジプトのテーベでは、緑陰をもたらす街路樹の価値は相当なものだったろう。ヒートアイランドが激化傾向の現代都市でも、歩行者に最も近い自然として、また都市美観の点からも、その意義は大きい。
だが、大きな街路樹が果たす大きな役割が期待される一方で、その管理コスト縮減の観点から、サイズをコンパクトなものに変える動きがある。
昨年、名古屋市は「街路樹再生指針」を取りまとめ、今後5年間で約10万4000本の街路樹のうち約5000本を植え替える。
その理由は、高度経済成長の都市膨張の時代に大量に植栽された街路樹が老齢化して、更新時期を迎えているためだ。かつては早期の環境保全・改善を目的に、アオギリ、ナンキンハゼ、トウカエデなど、成長の早い中国原産の落葉広葉樹を主に導入した。
ところが、近年は幹に空洞ができて強風時に倒木するケースがあったり、根が歩道の舗装を押し上げて歩行の障害になったりして、10年間で55件の事故(物損46件、人身9件)が発生した。こうした事故防止のパトロールと対策コストが増加しているので、計画的に更新、撤去や樹高抑制、間伐を行う予定だという。
●烏丸通に「道路の森づくり」として寄付植栽された小型直立品種のケヤキ
つまり、街路樹はどんどんコンパクトにしようということなのだが、この傾向は名古屋市に限らない。近年、街路樹の大幅な拡充に力を入れている京都市もその一つだ。新しく植栽される街路樹は大きくならないアメリカハナミズキが多い。確かに春は華やかで、市長にも市民にも評判がいいらしい。
だが驚いたのはケヤキだ。
京都商工会議所は創立130周年を記念して、京都駅から伸びる目抜き通りである烏丸通の「道路の森づくり」事業へ、中央分離帯に植栽するケヤキを寄付した。この話を聞いて、京都市中心部も仙台市の青葉通のような緑のトンネルになるかなと期待したが、それは見果てぬ夢のようだ。よくよく見ると、これがケヤキだろうか、というほどの小型で、枝が広がらずに直立する品種が植栽されたのだ。
おそらく中央分離帯の限られた植栽スペースとともに、落枝事故防止の観点からとられた選択と思われるが、小さな街路樹は魅力や機能も小さいことは否めない。車両通行が可能な舗装下に根系を伸長させる、ストラクチュラル・ソイルという技術は確立しているのだから、スペースの不足は言い訳にならない。
大きく茂った枝葉で交通信号が見えにくいというクレームには、適正な剪定と、信号機の移設で対応できる。
厄介なのは、落枝や倒木による事故だ。これを未然に防止するには、健全な土壌環境で街路樹を健全に育てることと、衰弱した個体の発見と処理が基本だ。1本ずつICタグをつけてデータベースを作り、現場の監視は住民や事業者に貢献してもらえないだろうか。
街路樹の里親になってもらうアドプト制度だ。そうすれば、家の前の道は自分で掃除するという「京の門掃(かどはき)」文化の継承にも貢献するだろう。
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【森林文化協会より】
枝が広がらずに直立する樹木の品種は、狭い空間での利用に適するという理由で、最近は人気が高まっているようです。認知度を上げようと新しい品種をPRする動きも出ており、たまたまですが、ケヤキとイロハモミジについて、展示的に植栽されている例を見ることができましたので、紹介しておきます。
こんな木ばかりが目立つようになると、森本さんの思いと同様にちょっと寂しい気がいたしますが、都市部の緑化における一つのトレンドであるのは確かなのでしょう。
◎ムサシノケヤキ(ケヤキの品種)
埼玉県花と緑の振興センターが1971年、枝張りが狭いケヤキを日高市内で発見し、苗木を増やしたものに由来するそうです。同センターのHPには、この「省管理街路樹」のメリットとして、
①道路標識や信号、電線の障害になりにくい、
②限られたスペースを有効に利用できる、
③剪定の省力化など管理費の軽減が図れる、
とあります。烏丸通に植えられているケヤキも、これなのでしょうか?
◎司シルエット(イロハモミジの品種)
東京都国分寺市の植木生産業者の圃場で、イロハモミジの実生から発見されました。一般的なモミジのように枝が広がらず、細い枝が縦に伸びて、美しい立ち姿になります。
春の新緑や秋の紅葉の美しさは普通のイロハモミジと変わらず、10年余り前から増殖を始めたところ、管理に手がかからないために、街路樹や庭木としての需要が高まっているとのこと。国分寺ブランドの第1号認定品だそうです。