企業と同じくお寺においてもマーケティングで大事なのは、いかにして受け手側の視点に立つかということ。これまでお寺の世界ではここが欠けていたからこそ、せっかく教えのモノが良くても、受け手にその価値を感じてもらうことが難しかったのだと思います。

松本紹圭です。

『お寺の教科書〜未来の住職塾が開く、これからのお寺の100年』おかげさまで、売れ行き好調です。仏教書でもなく、経営書でもない、「お寺づくり」をテーマにした今までまったく存在しなかった種類の本なので、そこを知りたかった方には現時点で唯一無二の本なのだと思います。お寺の未来が明るくなる内容ですので、ぜひ皆さんお手に取ってみてくださいね。

このところ、わたしたち一般社団法人お寺の未来は、非常に忙しくなっています。自分も含めてフルタイム職員は3名しかいないのでこれまでも全員野球でやってきましたが、最近は守備範囲が広範になり、常に駆け回っている状態です。中小企業の社長さんの苦労がやっと分かってきました。

さて、未来の住職塾で全国を回りながら、お寺のマーケティングを教えています。企業と同じくお寺においてもマーケティングで大事なのは、いかにして受け手側の視点に立つかということ。これまでお寺の世界ではここが欠けていたからこそ、せっかく教えのモノが良くても、受け手にその価値を感じてもらうことが難しかったのだと思います。

お寺におけるマーケティングは、相手の人生に寄り添うような仕方でそのお寺独自の価値を提供し続けることだと思いますが、それは広い意味でまさにお寺の布教伝道活動と重なります。これまで、未来を拓くやる気と可能性に満ちたお寺をパートナーとしてさまざまなかたちで支援することが、私たちの法人「お寺の未来」の基本的な使命であると考えてきましたが、それをもっと突き詰めて言えば、私たちは、未来を拓くやる気と可能性に満ちたお寺の布教伝道パートナーであるということです。

布教伝道パートナーとして、何に力を入れるべきか。もちろん、未来の住職塾にご参加のお寺を中心にその布教伝道活動を支援すること、たとえば寺報づくりを支援すること(こちらの具体的な支援方法は近日中にリリースできます)などの活動を熱心に行うことも大切です。しかし、それだけでなく同時に重要なのは、私も講義で何度も繰り返し言っているように、徹底的に受け手側の視点に立つことです。

ところで、ここで最近感じているのは、私のこれまでのお寺マーケティングは少々詰めが甘かったのではないかということ。徹底的に受け手側の視点に立つと言いながら、「仏教とは人にとってどのような価値を持つか」というかなり仏教側寄りな問いの立て方をしていたように思います。しかし、徹底的に受け手側の視点に立つならば、はじめから「仏教とは」というテーマ設定をすることは適当ではありません。なぜなら、今どきのほとんどの日本人にとって、いきなり「仏教」がテーマとなっていることはまずないからです。日々、どんなことに悩んでいるのか。宗教に関してどのような意識を持っているか。その辺りから始めるのが妥当でしょう。

そうすると、今後大切なこととしては、現代日本人が共有している、鈴木大拙博士が言うところの日本的霊性のあり様を探求するため、思想的な旅に出る必要がありそうです。まだまだ、修行を重ねていきたいと思います。

(2013年9月2日「Everything But Nirvana 」より転載)

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