「性に悩みがない子でも読んでほしい」LGBTを切り口に「ふつう」を問いなおす本が発売

そもそも「ふつう」とは何なのか。
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「男の子は女の子を好きになることがふつうだ」。「ふつう女の子は男の子の格好はしないよ」。この"ふつう"という言葉に苦しめられたLGBTは多い。

そもそも「ふつう」とは何なのか。そんな疑問から始まる書籍『「ふつう」ってなんだ?LGBTについて知る本』が、今年2月に発売された。

性について悩む子どもや、その周りの友人や大人たちへ向けたこの本を制作したのは学研プラス。監修は、LGBTの子どもや若者を支援するNPO法人ReBitが担当した。

キラキラした表紙が目を引くこの書籍は、どのような思いで作られたのか。発売を記念して開催されたイベント「編集後記:本に書ききれなかった、大切なこと」で、関わった担当者がそれぞれの思いを語った。

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性に悩みがない子にも読んでほしい

本書は5つの章で構成されている。そもそも性別とは何か。LGBTに関する基礎知識。LGBTが特に困りやすいところとは。カミングアウトするときや、受けるときの注意点。LGBTを取り巻く世の中の変化など、幅広いテーマをイラストや漫画を使ってわかりやすく説明している。

各章の前に短い漫画が差し込まれ、読みやすい工夫がなされている。
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各章の前に短い漫画が差し込まれ、読みやすい工夫がなされている。

企画・編集を担当した学研プラスの宮崎さんは「自分自身に性の悩みがない子にも読んでほしい」と話す。

「性について悩んでいる子が『誰にも相談できないな』と感じてしまう場合、その理由はマス、つまり性への悩みを抱えていない大多数の子たちが作る空気感にあるのではないかと思います」。

(本を作るにあたって)性に悩む子が読んで安心できるようなものにすることはもちろん、性に悩みがない子でも『面白そう』と、偶然出合ってもらえるようなものを目指しました。『ふつうってなんだ?』という疑問は、多くの子どもたちの心にひっかかってくれるのではと思い、このタイトルにしました」。

企画・編集を担当した学研プラス、小中学生事業部の宮崎純さん。
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企画・編集を担当した学研プラス、小中学生事業部の宮崎純さん。

本に背中を押された

登壇者のひとり、古堂さんは、ゲイの当事者としてこの本に登場している。

「本が出来上がったときに、思わず『わあ』と声が出るほどでした。自分のセクシュアリティについて気づいたときに情報源が全然なくて悶々としていた記憶があります。今まさに、学校でセクシュアリティに悩んでいる子に届いたらいいなと思っています」

登壇者の古堂達也さん。
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登壇者の古堂達也さん。

古堂さんがゲイだと気づいたのは中学1年生の頃。友人や親戚から「彼女いないの?」と聞かれる中、男性を好きになるということは言わない方が良いと感じていた。

「高校に入って、自分のセクシュアリティと向き合ったとき、将来どう生きていったら良いのかと悶々としていました。その転機になったのが、一冊の本との出会いでした。

当時、NHKの番組でゲイをオープンにしている現豊島区議会議員の石川大我さんの存在を知りました。その人が本を書いているということだったので、近所の本屋に行ってみたら一冊だけ置いてあったんです。でも、その本のタイトルが『ボクの彼氏はどこにいる?』でした。これをレジに持って行ったらきっとゲイだとバレてしまうと、30分くらいウロウロしたのですが、結局勇気を出して買いました。

本を読んでみて、『自分はこれで良いんだ』と思うことができて、それ以降、自分も悩んでいるひとのサポートができればと思うようになりました。本にはすごく背中を押されたと思っています」。

NPO法人ReBit代表理事の藥師実芳さん。(写真右)
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NPO法人ReBit代表理事の藥師実芳さん。(写真右)

「私は現在28歳ですが、トランスジェンダーだと思ったのは小学校高学年のときでした。当時、学校の図書室を探してもLGBTの本なんてなかった時代。インターネットで探しても嘘か本当かわからない情報にたどり着くことが当たり前で。やっぱり学校とか図書館にLGBTについての本があるというのは、(当事者にとって)すごく自己肯定感につながると思い、ご依頼を受けてとても嬉しく思いました」。

「ふつう」はひとりひとり違う

学研プラスの宮崎さんは、この本を企画・制作している最中に子どもが生まれた。

「親としても、すごく考えさせられました。自分の子どもが性について悩むかもしれないし、悩まなかったとしても、誰かを傷付けてしまう側にまわってしまうかもしれない。

性の話に限らずですが、もし自分の子どもが『ふつうはこうだよ』とか『あの子って変だよね』などと言い出したら、ちゃんと話ができる親でありたいと思いますね。『君のふつうはそうかもしれないけど、別にそれは全員のふつうじゃない。ひとりひとり違うんだよ』ということを家庭で教えていきたいです。そういった各家庭での教えが積み重なることで、多様性を認め合う社会が実現されていくのかなと思っています」。

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第1章の1「ふつうってなに?」というページにはこう書かれている。

「このように『ふつう』という言葉は、時代によって、あるいは、住んでいる国や地域によって基準が変わってくるようです。だから、いまあなたが『ふつう』と思っていることも、ほかのだれかからすると『ふつうじゃない』ことかもしれませんね。いまは『ふつうじゃない』と言われていることも、時がたてば『ふつう』になるかもしれません。そう考えると『これがふつうだよ』『それってふつうじゃないよ』なんて言いきれないと思いませんか」。

また、NPO法人ReBitでは、LGBTに関する出張授業を継続的に届けるため「にじいろバトン」と称した継続寄付の募集を開始している。「にじいろバトン」の詳細はこちら

(5月3日fairより転載)