入国管理施設 不服申し立て398件 うち受理は2件 2003~2012年 情報公開請求で明らかに

法務省入国管理施設に収容されている外国人が、職員の対応や医療などの処遇について2003年から2012年の間に行った398件の不服申し立てのうち、入管側が認めたのは2件で、それ以外は不受理とされていた。

取材・執筆・撮影:村上友里/インフォグラフィック:角野雅美

法務省入国管理施設に収容されている外国人が、職員の対応や医療などの処遇について2003年から2012年の間に行った398件の不服申し立てのうち、入管側が認めたのは2件で、それ以外は不受理とされていた。Jスクール学生取材班の情報公開請求で明らかになった。退けられた不服申し立てのうち126件は、その結果を不服として法務大臣に対し異議を申し立てたが、それも認められたのは2件だ。ほとんどの不服申し立てが退けられていることについて法務省入国管理局は「施設内の職員が適切な処遇に努めている結果だ」と説明するが、被収容者の支援団体は、「不服申し立ての制度が機能していない。あってないような制度」と制度の運用そのものを問題視している。

=トップの写真は不服申し立て実施状況とその申し立て内容についての文書。文書はほとんど黒塗りされて読めない。

入国管理施設の不服申し立て制度とは

法務省入国管理局の入国管理収容施設に収容されているのは、不法入国や超過滞在などで入管法に違反した外国人だ。中には難民申請者もいる。収容施設は全国に18ヶ所あり、2012年末の収容者数は1028人。収容者の国籍はフィリピン、中国、タイの順に多い。

入管施設をめぐっては1997年に東京入管職員による被収容者の女性へのセクハラが発覚したことがきっかけとなり、翌年98年に法務省は被収容者から処遇に関する意見を聴く制度を設けた。その後も被収容者の死亡、傷害事件が相次ぎ、01年に収容施設の密室性を改善する目的で、現在の不服申し立て制度を新設した。不服申し立ての手続きの流れは下図の通りだ。不服申し立ては、被収容者から施設の所長に対して行われ、異議申し立ては法務大臣に対して行われる。

【図:不服申立の流れ(クリックで拡大)】


「理由あり」受理されたのは2件

学生取材班の記者は、法務省に情報公開請求をし、2003年から2012年の同制度の実施状況をしめす関係文書を入手した。同制度が導入された01年と02年については、法務省はすでに廃棄したとし、資料はなかったが、2003年5月30日付の朝日新聞の記事「外国人処遇に不服68件、救済ゼロ」が年ごとの不服申立件数と受理件数を明らかにしていた。今回の入手文書と朝日新聞の記事を総合すると、01年に同制度が導入されてから451件の不服申し立てがされているにもかかわらず、入管側がそれを認め、処遇の改善をしたのは09年、12年の2件にとどまっている。

具体的にどのようなケースで不服申し立てがあったかについて、学生取材班が法務省入国管理局に取材をしたところ、入国管理局は「どんなケースで不服申し立てがあったのかは、統計がないため答えることができない」と回答した。さらに、「実際にあったかは別として例を挙げるならば、被収容者が収容時に持ち込みたい物品を持ち込めなかった場合、申し立てを行うことがある」と慎重な表現で説明した。

受理に関する文書はほとんどが黒塗り

03年の異議、09年の不服、11年の異議、12年の不服の4件は、申し立てが受理されている。その内容を探るため、4件の事案に関する文書を情報公開請求した。入手した合計220ページにわたる文書は、ほとんどが黒塗りだ。03年の異議申し立てに関する文書には、「■■■■の隔離収容について」「隔離となった■■■■の官給食について」「拒食発言の状況」という文言がある。収容施設で出される給食と、何らかの対応として被収容者を隔離収容したことが問題となっていることが分かる。

12年の不服申し立てに関する文書では、調査の段階で入国警備官が投薬簿と看守勤務日誌を提出していた。不服が申し立てられた西日本入国管理センター所長は、今後の措置として「職員に対して、人権意識の啓発を行うとともに入国警備官服務心得に沿った職務遂行を行うよう職員研修を実施する予定」と述べている。

入国管理局「適切な処遇の結果」

法務省入国管理局は、「理由ありとして認められる件数が全体の1%に満たない状況は、収容施設の職員が被収容者の人権に配慮して適切な処遇につとめている結果だと受け止めている」と説明する。また、同省は収容施設内に設けている意見箱による意見聴取や、収容施設への視察及び被収容者との面会を行う入国者収容所等視察委員への直接の訴えなど、他の制度と合わせて、被収容者の不服には対応できていると強調した。

「あってないような制度。収容所内には不満が沢山ある」

一方で、入国管理施設に収容された経験を持つ外国籍の人は、施設での生活について「どん底よりも底」「人権が全く配慮されていない」と、そのひどさを語る=別にインタビュー記事を掲載。

東日本入国管理センターで被収容者との面会活動を20年間行ってきた市民団体「牛久入管収容所問題を考える会」の代表、田中喜美子さんは「多くの被収容者が所長に対して不服を申し立てているがほとんど認められていない。あってないような制度。機能しているとは言えない」と話す。田中さんによると不服申し立ての内容は、長期収容者による仮放免の要求、病院に連れて行ってもらえないなどの医療制度に関する不満、警備員の被収容者に対する処遇の改善など。田中さんは被収容者が不服申立制度だけではなく、ハンガーストライキなどの直接的な抗議行動によって不服を訴えている現状を指摘した。「収容所内には不満が沢山ある。(抗議行動は)今までもそしてこれからも何回も行われるでしょう」と田中さんは強く言った。

(2014年6月21日「Spork!」より転載)

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