先日、大手の小売事業者のデジタルの担当者の方々が集まる勉強会で講演をさせていただく機会がありました。
いつもは「デジタル産業革命」「オープンイノベーション」というキーワードでお話をさせていただくことが多いのですが、今回は「小売しばり」ということで、普段我々がリテール、Eコマース周辺での投資に関して考えているキーワードを20個紹介させてもらいました。
初めて講演をする内容でしたが、プロの方々から非常に好意的なフィードバックをいただきましたので、講演スライドをSlideshareに公開をして、今回は講演で紹介した20のキーワードのうちいくつかをピックアップしてポストしたいと思います。
①AI PB
一つ目のキーワードは「AI PB」。
AI(人工知能)を使って作るPB(プライベートブランド)です。
これは我々の投資先も含めて、Eコマース系のプレイヤーでは非常に一般的になっているトレンドです。
先日発表されたMary MeekerのレポートでもStitch Fixの事例が取り上げられていました。
以前の「「購買」データから「利用」データへ。「コネクテッドアパレル」への期待。」というポストでも書きましたが、「ファッションのデータ化」は大きな流れとなっています。
上の図からもわかる通り、StitchFixでは、単に「商品ID」と「顧客の購買データ」を結びつけるだけでなく、商品のデザイン、例えば、「レースがついている」「袖なし」「シルエット」など様々なAttributionをデータ化することで、そこから「確実に売れるPB商品」の開発に繋げているわけです。
こちらは、Forbesの記者が実際にStitchFixのサービスを試した動画です。Amazonが今度スタートするファッションコマースサービス、Prime Wardrobeが思いっきり参考にしたと思われるStitchFixのサービスの詳細、倉庫の中、CEOのデータに関する考えなどがカバーされており、なかなか貴重なインタビューだと思います。
② Digital Store
二つ目のキーワードは「Digital Store」。
従来のリアル店舗が急速に閉鎖に追い込まれて行く中で、増え続けている「オンラインプレイヤーによるリアル店舗」参入。
下のグラフにある通り、2017年はまだ半分が終わったところですが、米国でのリアル店舗の閉鎖数は過去20年で最大になっています。
東京の状況からは想像が難しいかもしれませんが、私の近所でも、あまりにお店が潰れすぎて、週末にぶらっと行く場所が、車で15分圏内にほとんどないという状況です。リアル店舗のニーズがなくなっているわけではなく、オンラインとの熾烈な競争の中で、生き残れるビジネス構造を持っているリアル店舗が少ないという状況です。
Digital Storeの代表例としてよく紹介されるのが、先日Amazonによるオーガニック食料品チェーンWhole Foodsの買収と同じ日に、Walmartによる買収($300M)が発表されたBonobosのリアル店舗です。
この店舗には「予約制」「データ接客」「無在庫」という特徴があります。
Bonobosのお店に行く際は、Apple StoreのGenious Barと同様に予約をしてから向かいます。店舗の側はいつ誰が来るのかがわかっているため、その顧客のデータをタブレットに準備をした上で、過去の購買履歴やサイト閲覧履歴などの様々なデータから、来店時にオススメすべき商品を把握をしながら接客ができます。
これまでの勘に頼っていたリアル店舗での接客とは違い、データに基づいてレコメンデーションをすることができるため、ユーザとしても慣れ親しんだネットと同等の質の接客が受けられることになります。
またオンラインを基軸にしているため、各店舗はあくまで「試着の場」と位置付けられています。各店舗には在庫はなく、オンラインでの注文と同様、商品は物流センターから直接自宅に届きます。
>③On-Demand Print
三つ目のキーワードは「On-Demand Print」。
商品をお店に在庫するのではなく、「注文されてから製造する/印刷する」というトレンドです。
Amazonが、商品を「3Dプリントしながら届ける特許」を持っていることは有名な話です。3Dプリンタではありませんが、弊社のプロダクトハンターが日経さんで紹介をしている「焼きながら届けるピザ」という事例もあります。
UBERやInstacartが切り開いたオンデマンドというトレンドですが、「注文をオンデマンド」にするという段階から、「製造をオンデマンド」にするという段階へと進化を遂げつつあります。
一方で、3Dプリンタの技術自体の進化もめざましく、最近は様々な素材を使って非常にクオリティの高い最終製品を作ることが可能となっています。
ここで紹介する動画は、Adidasが、3DプリンタスタートアップCarbon3Dと組んで発表した Futurecraftという新しい製品です。
自分のサイズにあったスニーカーを選んで買うのではなく、ソールの部分を完全カスタマイズで一から3Dプリントするというものです。しかも一部のマニア向けではなく、来年から一般に販売するとしています。「工場」「在庫」という概念がなくなり、「注文されてから作る」という時代はもうきているのかもしれません。
④Pickup Store
四つ目のキーワードは 「Pickup Store」。
最近急増している「受け取り専用のお店」です。
非常に便利なEコマースですが、自宅に不在で受け取れないなどの不便もあり、店舗などでの受け取りオプションを設けているお店も増えてきました。
Walmartは、こうしたニーズに応え、Amazonとの差別化を図るべく、最近「食料品受け取り用の自動販売機店舗」のテストをスタートしています。
事前にオンラインで注文すると、店員が商品をピックアップして、冷蔵機能付きの巨大自動販売機にセットしておいてくれて、ユーザは単にピックアップするだけという仕掛けのようです。
一方のAmazonも、「食料品の受け取り専用店舗」Amazon Fresh Pickupをシアトルでテストしています。
スマホなどで事前に注文してお店に向かうと、車のナンバーを自動で認識をして、駐車をするとすぐに店員がやってきて、トランクに注文した品物をいれてくれるという仕掛けです。まだテスト段階ですが、日本でも地方などではこのモデルは様々なカテゴリーでありそうだなと思っています。
⑤Robot Delivery
五つ目のキーワードは「Robot Delivery」。
人ではなく「ロボットが荷物を届けてくれる」という新しい物流の仕組みです。
一時期、Amazonなどを中心に、ドローンを使った物流が注目を浴びましたが、規制や安全性の問題で実用化は進んでいません。一方で注目を集めているのが、ロボットデリバリーです。
この動画は、いくつかあるロボットデリバリースタートアップのうち、もっとも技術的にも進んでいる会社の一つStarship Technologiesのデモです。
元Skypeのメンバーが立ち上げたスタートアップで、Mercedez Benzと共同で開発を進めています。
- ある地点まではMercedezのバン(現在は有人)で移動する。
- そこから自動運転機能を持った小型のStarshipのロボットが各家庭に配送を行う。
- 配送が終わったロボットはバンに戻り、次の荷物に自動で積み替えて、次の家庭に配送を行う。
という仕掛けです。
現在開発が進んでいる自動運転トラックの実用化が進めば、物流センターから各家庭までの配送が全て自動化、無人化できることになります。
以上、五つだけご紹介しましたが、その他にも、「Echo Shopping(Amazon Echoのユーザの3割はショッピングに利用している)」、「Return(Eコマースの鍵の一つである「返品」に特化した様々な新サービス)」「Size DB(オンラインサイズ測定のトレンド)」などなどご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。
最後に宣伝ですが、小売関連のスタートアップ280社をまとめたリテールレポートも出しております。こちらもぜひご利用ください。
お店に人が来なくなりつつあるリアル店舗の方々からすると、大きな脅威がやってきていると感じられているかもしれませんが、新たなテクノロジーが引き起こす消費者のショッピングスタイルの変化は大きなチャンスでもあります。
人々が商品やブランドとどのようにして出会い、購入し、それを消費していくのかは、我々にとっても大きな興味分野、投資分野の一つです。また機会があれば、色々な方々とディスカッションさせていただきたいと思います。