LookとShow。新製品から見えるAmazonの3つの戦略。

消費者はどう反応するのか、そして「Look」と「Echo」の裏側にはAmazonのどんな深謀遠慮があるのか。

4月のFacebook F8(ブログ:「AIの進化で実現したスマホARのオープン化」)に始まった大手テック企業の開発者会議シリーズ。先週は、シアトルでMicrosoftのBuildが開催されました。

昨年は、HoloLensの開発キットの出荷開始や直前にBotがいきなり人種差別的発言をするなど大いに注目を集めていたため『「ヒトラー礼讃Bot」の先にある「ナイトライダー」の世界 : Microsoft「Build 2016」』というエントリを書きました。実際にこの後にFacebookも続き、Bot / 会話型UIはエコシステムを形成し、非常に大きな存在となってきています(Scrum Venturesでも、Snapchat初のアクセラレータにも選ばれているBot解析プラットフォームの Dashbotに出資しています)。

今回も、VRヘッドセットの発売開始($299というインパクトのあるプライス)、Cortana搭載スピーカーの発表(Echo競合 / Skypeで通話可能)、動画編集ソフトの発表( AIによる自動編集 + 3Dモデルのクラウドソース)などがあったのですが、今ひとつインパクトに欠ける内容でした。

一方で、4/26に「Echo Look」、5/9に「Echo Show」と、Amazonから注目に値する新コンセプトのハードウェア製品が次々と発表されました。

今回のエントリでは、その2つの新製品の紹介とその裏側にみえるAmazonの3つの戦略について書きたいと思います。

Echo Look:女性向けファッション支援カメラ

まず一つ目の新製品は「Echo Look」です。その名の通り、カメラがついた「見る」Echoです。

Echo Lookは、主に若い女性をターゲットにしたAmazon Echoの新ラインです。

価格は$200ですが、まだ招待オンリーで、出荷なども未定という状況です。

主な機能は以下の通りです。

  • ファッションチェック
  • ファッションセルフィー
  • スタイル提案
  • 洋服記録
  • Echo基本機能

通常のEchoと同様に、声で操作ができるので、スマホの自撮りのように無理に手を伸ばすことなく、かっこよくポーズを決めて写真を撮ることができます。動画を撮ることもできるので、自分の後ろ姿がどうなっているかというチェックにも使うことができます(「ファッションチェック」)。

LEDフラッシュと深度センサー、AIが搭載されているので、背景だけ綺麗にぼかしたInstagram用の写真を簡単に撮ることもできます「ファッションセルフィー」)。

また、自分の着こなしの写真を二種類アップすると、AIによる分析とスタイリストによって、色、デザインなどを瞬時に解析し、トレンドなどをベースにオススメを提案してくれる機能もある様です(「スタイル提案」)

よく女性誌に「丸の内OLの一週間着こなし」というような特集がありますが、Lookで撮影した写真は、カレンダー的に毎日保存することもできます「洋服記録」)。「同じ洋服で同じ人に会う」というということが避けられる、というような利用シーンかと思います(おそらく)。

基本は、「カメラ付きEcho」なのですが、結構いろんな機能が提供されているようです。

プロダクトハンターAkaneが以前書いているように、ブランドや小売店が同様のカメラ付きミラーを店舗においているケースは増えて来ていますが、「家の中に置くファッション支援カメラ」と言うコンセプトは新しいと思います。

自分の部屋に常時ネットに繋がったカメラがあると言うとプライバシーを気にする方もいそうですが、Instagram世代の若い女性には受け入れられるのでしょうか?

Echo Show : モニター付きEcho

もう一つが「Echo Show」です。こちらは、モニターがついた「見せる」Echoです。

Echo Showは、より一般向けのEcho新ラインで、Echoラインで初めて「モニター」がつきました

価格は$230で、米国では6/28に出荷予定です。

主な機能は以下の通りです。

  • 動画視聴
  • ビデオチャット
  • スマートホームモニター
  • Echo基本機能

Echo Showの最大の特徴は7インチのモニターがついたことです。

これまではちょっとした会話から検索をしても、その結果を音声で聞くことしかできませんでしたが、これからはすぐに映像で見ることができます(「動画視聴」)。Amazon Videoだけでなく、YouTubeや映画の予告編なども見ることができます

「Alexa、明日近所でどんな映画やってる?」と検索して、その結果の予告編を見ると言うのは、ありそうな利用シーンですよね。そしてチケット予約大手Fandangoのスキルを使えば、チケットをその場で予約することもできます。

そして一番の新機能は、コミュニケーション機能です。「Alexa、おばあちゃんにかけて」と言うだけで、Echo Showを持っている家族や友達につなぐことができます(「ビデオチャット」)。相手側にShowがない場合は、スマホのアプリと会話することもできます。

また、Alexa対応している様々なデバイスとの連携も可能です。これまでは「ライトのON/OFF」「温度の設定」などしかできませんでしたが、モニターがついているShowでは、赤ちゃんの鳴き声がしたら「赤ちゃんカメラを表示する」、外で物音がしたら「セキュリティカメラを表示する」と言ったことが可能となります(「スマートホームモニター」)。

さて、私も早速注文したEcho Showですが、Echo Lookとは違い、こちらは決して新しいコンセプトの製品ではありません

しかも、Amazonが昨年出資をしたあるスタートアップの製品と瓜二つと言うことで物議を醸しています。

こちらがその会社Nucleusの製品です。昨年10月の勉強会Tackle!でも、注目の新製品として取り上げています。

Nucleusは、2014年にNYで設立されたスタートアップで、家庭用のインターコムのアップグレード版として、自宅の部屋同士、または別の家に住む親戚と、そしてスマホとも簡単にビデオ通話ができる壁掛け型のNucleusを発売しています(動画)。

2016年の8月から出荷しており、全米の500のホームセンター Lowe'sの店舗で販売されています。価格は$249。二つ目以降は$199で、平均で3〜4つのデバイスが同時に購入されているそうです。

どうやらNucleusがAmazonに買収された訳でもなく、提携したと言う訳でもなく、創業者は寝耳に水だったようです。Amazonは「Nucleousに出資する前からコミュニケーション機能の開発はとっくに開始していた」とコメントしているようですが、あまりいい話ではないですね。

さて、Echo LookとEcho Show。いずれもまだ発売されていませんが、この新コンセプト商品でAmazonは何を狙っているのでしょうか?

公式動画やスペックから見えてくるのは、以下の3つの戦略です。

1:ファッションライフサイクル全取り

ファッションのイメージがあまりないAmazonですが、昨年ブログ(「全米で最も「洋服」を売っている小売はどこでしょうか?」)でも取り上げた通り、実ではすでにリアル店舗も含めて全米最大のファッション小売になっています。

また、独自ブランドの立ち上げ生放送のショッピングチャンネルの立ち上げ、靴サイズ測定技術の開発など様々な形でファッション分野の強化に力を入れています

そんなAmazonにとって、Echo Lookは、どのブランド、小売も実現できていない、「ファッションライフサイクル全取り」という野望の実現の第一歩になりそうです。

AmazonやECサイトは、従来の小売が把握していなかった「誰が何を買ったのか」という基本的なCRM情報を把握した店づくり、レコメンドを実現して、売上の向上、ユーザの満足度の向上を実現しました。

しかしながら、ECサイトでも、「誰が何を買ったのか」は把握できても、「何回それを着たのか」「何のアイテムと組み合わせて着たのか」ということはInstagramにアップされる写真などから推測することはできても、詳細に把握することはできていません

Echo Lookは、これを全て把握できる可能性を秘めたハードでありサービスです。

もちろんプライバシーの懸念などもありEcho Lookがどれだけ消費者に受け入れられるかは未知数ですが、仮に動画の通りの利用シーンが普及すれば、日々のファッションチェックや洋服記録をAIで解析することで、全ての洋服にSKU単位でのタグをつけ、利用レベルでのトレンド分析、クロスセルのレコメンドなど、これまでとは全く異なるデータの収集、販売機会の創出が可能となります。

「ファッション提案EC」のStitchFixの売上が$730Mに達しているというニュースが最近ありましたが、多くの消費者は「プロやデータにより洋服を提案して欲しい」というニーズを持っており、それを的確に実現できるためのデータを貯めることができるようになれば、Amazonのファッション分野での強みはさらに強固なものになりそうです。

2:コミュニケーション分野への参入

昨日IPOからちょうど20年がたち、米国の全EC市場の43%ものシェアをもつ圧倒的なNo.1であり、時価総額では世界最大の小売企業であるWalmartの約2倍というもはや無敵にも見えるAmazon。

大手テック企業の収穫逓増のビジネスモデルの源泉である「データ」という点でも、「ショッピング」に加え、「エンタメ( Prime Music / Prime Video)」、「音声(Alexa)」そして「ホーム(Echo)」とどんどんとそのリーチを広げています

着実にリーチできるデータを増やし続けるAmazon

そのAmazonが持っていないと言えるのが、「検索」と「コミュニケーション/ソーシャル」です。

ただ「検索」に関しては、特に若い世代はAmazonでいきなり検索する人口も増えつつあるということと、Alexa自体が新しい時代の検索エンジンへと成長する可能性もあり、課題は解決されつつあるのかもしれません。

Echo Showは、AmazonにとってのMissing Pieceである「コミュニケーション分野」での足場作りとなるかもしれません

現在はAmazonで買い物をして、それを友人や家族に知らせたくてもその手段はメールや他のソーシャルメディアです。

Echo Showが普及すれば、「ショッピング」と「コミュニケーション」が連動したさらに強固なプラットフォームになる可能性を秘めています。

3:家庭内画像の収集

12月にAmazon Goに関するポスト(「Amazon Goの仕組み。「カメラとマイク」で実現するレジなしスーパー。」)で書いた通り、家庭内に複数設置された常時ONのAmazon Echoのマイクは、その音声認識技術により「朝から夜まで家族の誰が家の中のどこで何をしているのか」というこれまでには存在しなかったデータを日々蓄積しつつあります

ファミリーをターゲットにして作ったゲームが、実は深夜にお父さんが一人でひたすら遊ぶことがほとんどだったり、ペットに餌をあげる役割はほとんどの家庭で二番目の子供の役割だったり、などなど、どんなにマーケターが調査やアンケートをしてもわからなかった「家庭の情報」がAmazonには日々溜まり続けています。

ただ、Echoに足りなかったもの、それは「画像」です

Echo LookそしてEcho Showにはカメラが付いています。

セキュリティカメラが安価になり、「家の外」に向けてカメラを置いている家庭は増え続けています。ただ、この二つのデバイスにより「家の中」に向けて史上初めて大量のカメラが置かれようとしています

前回のFacebookの開発者会議F8のポスト「AIの進化で実現したスマホARのオープン化 :Facebook f8 2017」で書いた通り、AI中でも画像認識技術は飛躍的な進歩を遂げています。

仮にEcho LookやEcho Showが普及して、Amazonが家庭内の画像を収集することに成功すれば、リコメンド、PB開発、在庫最適化、などなど無限にあるでしょう。

プライバシーのことを無視して考えれば、冷蔵庫にAlexaやAmazon Freshが連動しなくても、画像からハンドソープが切れそうなことがわかれば自動に注文して届ける「AI Dashボタン」なんてこともできるかもしれません

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と色々と書きましたが、いずれの製品も発売前です。

消費者はどう反応するのか、そしてこれらの製品の裏側にはAmazonのどんな深謀遠慮があるのか。

まずは1カ月後のEcho Showの到着を待つこととしましょう。

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