いま中国で起きていることは「山一破綻」のようなバランスシートの問題であって、たんなる「景気、悪いよねぇ」という問題ではありません。
誤解しないように断っておくと、僕は中国が山一のように破綻すると言いたいのではありません。僕はアルマゲドン論者じゃないし、チャイナ・ヘイターでもないです。
中国は嫌いじゃないけど、愚かな金融政策は大嫌い。それが僕のスタンスです。
それではその愚策とは何か?と言えば、リーマンショック直後に中国政府が打ち出した財投や信用拡大に頼った景気維持策......あれは(その当時から言ってきたことだけど)馬鹿げた措置だった気がします。
どうして?
それは、一言でいえば、オーバーキャパシティの問題を、もっとハコモノを追加することで解消しようとしたからです。
それが不可能である事に気がついた中国政府は、後になって銀行の融資総量を規制する方針を打ち出しました。
しかし借金の借り換えが必要となった業者たちは、理財商品というオフ・バランスシート(=簿外)の手法を援用することで、破たんを回避してきました。(この部分は、山一を彷彿とさせます)
そういう奇抜な借金テクのノウハウのひとつとして、人民元ではなく米ドルで借りるという横着なやり方も編み出されました。
でもそんなやりくりは、全て回り回って中国へ帰ってくる循環取引のようなものです。
そのような策は、いくら弄しても究極的にはペケです。
まず「アンタが建てたこのビル、入居者ないですよね? 家賃収入、計画より大幅に少なくありません?キャッシュフロー、無いでしょ?」ということを問い、そして「そうなんです、駄目です」ということを認めるところから本当の意味での再生が始まるわけです。
これは時間をかけてほぐしてゆかなければいけない、しんどいプロセスです。
このように、これまでホイホイお金を出してきた貸し手が「ドン引き」してしまう状況のことを経済学ではミンスキー・モーメント(Minsky moment)と言います。最近では2007年頃にアメリカでサブプライム・バブルが弾けたのがその例です。
ミンスキー・モーメントとは、借金を拡大することで捻りだした成長は、投資先から得られるリターンの漸減を必ず招き、それはいずれお金の出し手が「あなたのお金の使途は、ぜんぜんリターンを生んでないじゃないですか?」と追加融資に対して難色を示されてしまう局面のことを指します。
借り換えが出来ない!
そうなるとお金を借りている主体は、しぶしぶ損を出しながらその資産(不動産や株)を売却しなければいけません。売りは売りを呼び、資産価格は急落します。これがミンスキー・モーメントです。
要するに僕が言いたい事は、現在中国で起きていることは、信用という膨らんだ風船から「しゅーっ」と空気が抜けてきているような状態であり、それはデフレ・リスクを伴う現象だということです。
人民元の切下げは(ちょうどアベノミクスで演出しようとしているインフレと全く同じ理屈になるけれど)デフレ克服の意味合いもあるのです。
借金に絡んだ調整は、普通、長引きます。つまり「旦那、この問題は、時間かかりますぜ」ということ。
だから(あと何日すれば、事態が好転するか?)というように指折り数えて中国が出直る瞬間を待つのは、愚かなことだということです。
(もっとも日本でバブルが弾けた1990年から1991年にかけては、そういう底入れの瞬間を今かイマかと待ち続けた、さむい投資家がいっぱい居ましたが。)
(2015年8月12日「Market Hack」より転載)