エドワード・スノードンは、米国の電子諜報機関・国家安全保障局(NSA)が世界中の携帯電話やメールの傍受、盗聴を行っていることを2013年に欧米のメディアを通じて暴露した。
彼は米国から香港に逃亡した後、モスクワのトランジット区域に到着。ここから多くの国々に亡命を申請したが、拒否された。亡命を受け入れる意向を示したのは、反米傾向が強いボリビアとベネズエラだけだった。
しかし米国政府がスノードンのパスポートを無効にしたため、彼は国外に移動できなくなった。ロシアのプーチン大統領は、「米国の利益に反する活動を行わない」という条件で、亡命を受け入れる意向を表明。スノードンは2017年7月末までロシアへの滞在を許されている。
だがスノードンが置かれた状況は厳しくなりつつある。その理由は、ロシアと米国・欧州諸国の間で新たな「東西冷戦」が起きているからだ。ロシアが去年3月にクリミア半島を併合し、ウクライナ東部での内戦に介入して以来、同国は欧州と米国との対決色を深めているからだ。
ウクライナ危機は、ベルリンの壁が崩壊して以来、欧州で最も深刻な安全保障上の危機である。以前ソ連に併合されていたバルト三国や、ポーランドではロシアの変貌について不安が高まりつつあり、米国を盟主とする軍事同盟・北大西洋条約機構(NATO)は、東欧に戦闘部隊を常駐させることを検討しているほか、欧州連合(EU)も独自の軍隊を持つべきだという意見が出ている。
私は、ロシアのスパイ組織である対外情報庁(CBP)や連邦保安庁(FSB)が今後スノードンにNSAやCIAに関する情報を提供し、米国の諜報機関に対するサイバー攻撃に協力するよう、圧力をかけると考えている。
もしもスノードンが拒否した場合、ロシアは彼を国外退去させるだろう。プーチン大統領は、ソ連時代の諜報機関KGBの出身である。彼の辞書に「人道主義」という言葉はない。
一方、米国政府は、反逆者に対しては苛酷だ。世界中の大半の国は、米国との間に犯罪人引渡し協定に調印している。スノードンが米国に逮捕された場合、終身刑に処せられる可能性がある。
東西関係が緊張の一途をたどる中、第二次世界大戦後最も重要な告発者(ホイッスル・ブロワー)の身に大きな危険が迫りつつある。
(ミュンヘン在住 熊谷 徹)
筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de
保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載