トップを走る企業には、必ず理由があります。アパレル業界においてもそう。
世界トップクラスのデニムメーカーとして知られる「カイハラ」にも、王者たる所以がたっぷりと詰まっています。
■取引先には国内外の大手企業がズラリ
カイハラの創業は1893年。本社の隣に貝原歴史資料館が併設されているように、アカデミックな観点から見ても意義のある歩みを遂げてきた会社です。
現在では、国内におけるプレミアムジーンズの2本に1本はカイハラの生地が使用されており、取引先にはエドウィンやリーバイス、ユニクロなどの大手企業がズラリ。海外のハイブランドからの信頼も厚く、世界20ヵ国以上に生地を輸出しています。
カイハラはあくまでもデニムメーカーであり、自社製品はつくっていません。理由は大きく2つ。まずは製品を開発した場合、どこに流通させるのか、売れ残ったらどうするのかなど、様々な問題が生じます。利益が増える可能性もありますが、反面、デニムメーカーとしての足元が揺らいでしまうリスクにもなり兼ねません。
そしてもう1つが、多数のブランドと取引することで、「次に何が流行るのか」を知っていることです。流行を踏まえて自社製品をつくるのはアンフェアではないか。カイハラはそんな生地屋として宿命を背負い、仁義を守り続けるために、BtoBに特化し続けています。
■デニムの一貫生産体制を国内で初めて確立
続いて、製造工程に目を移しましょう。1991年、「紡績→染色→織布→整理加工」という製造の主要工程を垂直統合させ、デニムの一貫生産体制を国内で初めて確立させました。
工程の中で私が着目したのが、滑車を使用した「ロープ染色」。デニムを藍に染める際、緑色の染液に白い糸をくぐらせ、空気接触で酸化させるという手法を取ります。
通常、糸を染液にくぐらせるのは1回だけですが、カイハラは何と6回。滑車を使い、6回にわたって藍を重ねています。染液は粒子が大きいため、1回では糸に中々色が浸透しません。ジーンズには使い込むほどに白くなる「アタリ」が発生しますが、6回藍を重ねることで色落ちのスピードを遅らせることができます。
■「非効率=いいもの」と言えるのか
染液はペーハという値でコントロールされており、職人さんがベロでなめて調節するのが一般的です。しかし、染液は置いておくとペーハの成分が変化するため、土日は稼働しない工場だと、月曜日に再び調節を図る必要があります。
ベロでなめて確かめるという作業は職人的ではありますが、その一方で明確な基準が設けられていないのも事実。カイハラは独自の技術によってペーハの数値を定め、品質を同じレベルに保っています。
「手作業」と聞くと、手間暇をかけていいものをつくっているというイメージがあるかもしれませんが、そうとは限りません。属人的な分、生み出されるものに差異が生じることもあるでしょう。
カイハラが多くのブランドから支持を得ている理由は、高品質のプロダクトを効率的かつ安定的にアウトプットするという誠意を貫いているところにあります。
■世襲企業だからこその強み
「ロープ染色」をはじめ、カイハラは独自の技術を多数保持していますが、特許申請は行うものの、敢えて取得はしていません。なぜなら、取得すると技術を公開する義務が生ずるため、企業秘密の流出につながってしまう可能性があるからです。
世襲企業であるカイハラは、1世紀以上にわたる伝統を一族で代々守り続けており、株式公開も行っていませんが、だからこその強みもあります。バンコクに工場を開設した際には200億円を投資しましたが、この大胆な意思決定は一般企業では中々難しいでしょう。
「守る」という部分で言うと、地元・広島県三和市での採用活動に力を入れているように、地元での雇用確保にも積極的。現在の平均年齢は40歳以下というように、次世代を担う若者たちも育っています。どこを取っても、隙がないカイハラ。天下はしばらく続きそうです。