「Bamboo Flute Orchestra」としてメジャーデビューした、尺八奏者の辻本好美さん
「あの尺八奏者は誰!?」。いま、世界中のSNSで、一人の日本人アーティストが話題です。それもそのはず、マイケル・ジャクソンやレディー・ガガの楽曲を、まさかの尺八でカバー。和楽器と洋楽という組み合わせの妙もあって、「カッコ良すぎ!」と絶賛されているのです。
女性ソロ初のメジャーデビュー
鮮やかなブルーの着物と、ラインストーンをあしらった和柄のネイル。尺八と聞いて真っ先に思い浮かべる「渋さ」より、「華やかさ」をまとった彼女は、「Bamboo Flute Orchestra」というソロプロジェクト名で活動する辻本好美さん(28)です。9月末、尺八の女性ソロ奏者として初めてメジャーデビューしました。
辻本さんが一躍注目されたのは、2015年2月のテレビ出演。NHKの海外向け番組で、マイケル・ジャクソンの「Smooth Criminal」をカバーしたのがきっかけです。
尺八の魅力といえば、たゆたうような長音の響きと、音間の余韻。♪ぷぉぉぉ~おぉおぉぉ~~ん......(「......」がミソ)といった音色が〝らしさ〟ですが、彼女の演奏はファンキーでスリリング。
スウェーデン人の人気DJ、Aviciiの「Wake Me Up」をカバーしたYouTube動画は、公開半年で再生回数が12万回以上に。デビュー直後からテレビ出演も相次ぎ、その名がネットの急上昇ワードにも挙がりました。
父の影響で尺八の道へ
和歌山県出身の辻本さんは、お父さんも尺八奏者。そのため、幼い頃から自然と尺八に触れ、「気づいたときには吹いていた」といいます。
「最初に音を出したのがいつか覚えていないんですけど、よく芸事を6歳の6月6日に始めると上達が早いって言いますよね。そのときに尺八を持ってる写真があるんです。たぶん小学生くらいから、父親に遊んでもらいたくて邪魔するような形で吹いたり、2人で遊びがてら吹いたりしていたんだと思います」
高1で入った邦楽部で、本格的に演奏をスタート。東京芸大音楽学部に在籍している時から、国内外で公演を重ねてきました。海外での公演は、イタリア、フランス、中国、韓国、キューバ、ブラジル、アルゼンチン......と、11カ国25公演に上ります。
「わたしは特に南米で公演することが多いんですけど、向こうの方はノリノリで。たとえば(琴や三味線を交えない)ソロの古典本曲はわびさび感が強くて、日本ではまず『イェイ!』っていう反応はあり得ないんですよ。でも、それこそ『ブラボー!』『イェーイ!』みたいな、『本当に?』って思うくらいの盛り上がり方をしてくださるんです」
「美人すぎる尺八奏者」
それまでも洋邦問わずカバーをすることはありましたが、"和洋折衷"の大きなきっかけとなったのはやはり、くだんのテレビ出演だったといいます。
ちなみに、辻本さんはテレビやネットで「美人過ぎる尺八奏者」と紹介されることが多い......というか、わたし自身、羨望(せんぼう)のまなざしで見ちゃってますが、それって......?
「ネガティブなものは抱いていないですね。興味をもってもらう場も輪も広がると思うので。素直に言うと、すごく気恥ずかしいというか、ありがとうございますっていう感じです。ふふふ」
プロジェクト名に込めた覚悟
「尺八はメジャーではない楽器なので、特に若い世代はあまり聞く機会もないと思いますし、知らないって言う方も多いですよね。尺八や和楽器の魅力を本当にいろんな方々に知ってもらいたいと思っているので、わたし自身がアピールできる存在になれたらいいなと思います」。日本語で「尺八楽団」という意味のプロジェクト名には、そんな思いが込められています。
9月末に発売したデビューアルバム「SHAKUHACHI」には、MJやガガ様の代表曲のほか、テイラー・スウィフト、ビートルズ、映画「アナと雪の女王」の「Let it go」など、誰もが知る10曲がズラリ。うち2曲では、リオ五輪閉会式での楽曲使用が話題になった技巧派ジャズピアノトリオ「H ZETTRIO」との異色コラボにも挑戦しています。
「古くさい」「とっつきにくい」といった伝統楽器のイメージを、今どきのカッコ良さで突破する。4年後のスポーツの祭典を前に、アニメともゲームとも違う、そんなクールジャパンにも期待したいです。
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