世界銀行と世界保健機関(WHO)が新たに発表した報告書によると、基礎的保健サービスを受けられずにいる人の数は世界人口の半数にのぼる。また、毎年多くの世帯が、医療費の自己負担が原因で貧困に陥っている。
現在、自らや病気の子供、家族のための医療費が家計の少なくとも10%を占める人口は、8億人に上る。また、そうした支出のために、1億人近くが1日わずか1.90ドル未満での生活を余儀なくされるという極度の貧困状態に追いやられている。こうしたデータは、12月13日に発表された「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に焦点を当てる:グローバル・モニタリング報告書」によるもので、同時に医学誌のランセット・グローバル・ヘルスでも発表されている。
希望の持てるデータもある。同報告書は、21世紀に入り、予防接種や家族計画などの主要な保健サービスを受けられる人の数や、HIVの抗レトロウィルス治療、マラリア対策としての殺虫剤処理済みの蚊帳を利用できる人の数が増えたとしている。さらに、21世紀初頭と比べ、極度の貧困に陥る人の数も減少している。
とは言え、進捗状況には大きなばらつきが見られる。
サブサハラ・アフリカと南アジアでは、サービスの提供状況に大きな格差が存在する。その他の地域では、家族計画や乳幼児の予防接種など基礎的な保健医療サービスが受けやすくなってきているが、経済的な補助が受けられない事により、そうしたサービスにかかる費用を自己負担しなければならない家庭にとっては負担が膨らむことになる。この点は、東アジア、ラテンアメリカ、ヨーロッパなどの、より所得レベルの高い地域でも顕著な問題となっており、医療費の自己負担額が家計の10%以上を占める人口が増えている。保健サービスの状況は、国による差異だけでなく、同じ国の中でも違いがある。その国の平均を見るだけでは、保健サービスが不利な立場にある人々にまで届いているかどうかは分かりにくい。例えば、低所得国や低位中所得国の所得の下位20%では、基礎的な母子保健サービス7種の内6種以上を受けた母子の割合はわずか17%にとどまっているが、この割合は所得の上位20%では74%に上る。
同報告書は、東京で開催された国際会議「UHCフォーラム2017」において議論の重要なポイントとなった。日本国内、さらにはグローバルなUHC実現を率先して支援してきた日本政府が呼びかけて開かれた同フォーラムは、世界銀行、WHO、国連児童基金(UNICEF)、国際協力機構(JICA)、ならびにUHCをグローバルに推奨するUHC2030が共催している。日本の安倍晋三内閣総理大臣、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、世界銀行グループのキム総裁、WHOのテドロス事務局長、UNICEFのアンソニー・レーク事務局長の他、30カ国以上の国家元首や閣僚が参加した。
UHCの必要性を強調した2016年のG7伊勢志摩サミット、第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)を踏まえ、今回東京で開催されたUHCフォーラムは、2030年までにUHCを達成するという、持続可能な開発目標(SDGs)の要でもある目標に向け進捗を加速する一つの節目と位置付けられており、この機運は2019年に開催される国連総会UHCハイレベル会合に受け継がれる。
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