IPCC1.5度報告書発表:気温上昇1.5度における影響と達成の道筋

気温上昇が1.5度と2度とでは、豪雨、異常高温、干ばつ、海面上昇などの度合いが違ってくることが予想される。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第48回総会において採択された1.5度特別報告書が、2018年10月8日に韓国仁川にて公表されました。これは、世界の平均気温が産業革命前に比べて1.5度上昇した場合の影響や、1.5度を達成する排出シナリオを示したものです。195の政府が承認したこの報告書は、パリ協定の長期目標の努力目標である1.5度以下を検討する重要な科学的根拠となります。この報告書では、はじめて1.5度上がった場合の影響が示され、1.5度が2度よりもさまざまな面においてより安全であることが明らかになりました。またどのようにすれば1.5度を達成できるのか、いくつかの排出経路(グローバル)が示され、具体的な方策が示されました。

1.5度と2度の場合に、温暖化の影響は大きく異なる

今回発表された報告書では、人間活動によって、産業革命前に比べて約1度気温が上昇しており、現状のまま温室効果ガスの排出量が増加するならば、2030年から2052年の間に1.5度に達する見込みが示されました。

これまで研究が進んでいなかった1.5度上昇の場合と、2度上昇の場合との影響の違いも、今回の報告書で初めて示されました。 気候モデルは、1度上昇の現状と1.5度、そして2度との間に、大きな違い(robust difference)があることを示しています。 これは、たとえば都市などの居住地における異常高温、激しい降雨、干ばつのレベルの差に見られます。

台風に関連する豪雨も、2度の場合には1.5度よりも多くなることが予測されています。 また、2100年の海面上昇を比較すると、2度の場合は1.5度よりも約0.1m高くなると予測されています。これは海面上昇に関連するリスクにさらされる人口を1,000万人まで増加させるレベルです。

影響を受ける昆虫や植物、脊椎動物も1.5度と2度を比較すると、2倍以上異なる予測です。 さらに人の健康に対する影響にも差があり、2度の場合は、1.5度の場合と比べて、熱中症に関連する罹患率および死亡率も高くなり、マラリアやデング熱などリスクも高まります。 この報告書はこういった影響に対する備え「適応」のオプションをも示しています。

WWF JAPAN
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1.5度を達成するには2030年までに温室効果ガスを半減すること

今回はまた、1.5度を達成する排出経路(達成のための手段)についても、新しい研究成果が示されました。 ほとんどオーバーシュート(いったん1.5度を超えてから戻ること)しないモデル排出経路(with no or limited overshoot)では、2030年に2010年比で約45%温室効果ガスを削減し、2050年ごろには実質ゼロにする必要があると示しました。 ちなみに2度未満に抑える排出経路は、2030年に約20%、2075年ごろに実質ゼロと示されています。

異なる緩和戦略によって、1.5度を達成する4つの説明的な経路が示されており、中でもP1と呼ばれるモデル排出経路は、大気中からCO2を除去する技術(CDR)やCCS(炭素回収貯留)も使わないで達成する道筋となっています。 これらは、今後10年単位の早期の対策の強化がカギであることが指摘されています。 対してP4排出経路は、経済成長とグローバリゼーションが高炭素ライフスタイルを継続させるシナリオ(今のような石油や石炭に依存した生活の延長)で、大量にBECCS(バイオエネルギー+CCS)など空気中から炭素を除去する技術を前提としています。

オーバーシュートしない1.5度排出経路(with no or limited overshoot)においては、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、2050年には電力の70~85%を占め、ほとんどの排出経路で原発とCCS付き化石燃料の使用は増加します。どの排出経路にも共通しているのは、電力における石炭の使用は急激に減少し、2050年にはほぼ0%になることです。

報告書には、パリ協定に提出されている2030年までの現状の各国の国別目標では、3度程度の上昇をもたらすことが明記されています。 1.5度達成経路に必要な削減量は、2030年に2010年比で40~50%と示され、対策が遅れれば、より達成が困難になることも指摘されています。 そしてその対策の実現には、自治体や企業、学術機関、NGOなど、非国家アクターと政府のパートナーシップや、国際協力の強化が重要であると示されています。

この報告書は世界195か国の政府に承認されたうえで発表!

このIPCCによる科学の報告書の重要性は、その内容が、国連の気候変動会議での議論の「基礎」となることにあります。 そのために、こうした報告書の発表にあたっては、それぞれ「政策決定者のための要約」が作成されます。

この要約の作成は、国連における気候変動交渉を進めてゆくため、各国政府に内容をよく理解してもらい、納得して交渉を進めてもらうために行なわれるプロセスです。 そのため本報告書の内容を要約した文書が、「一文ずつ」各国政府によって承認されていく会議が開催されるのです。

国の政策にかかわるこの作業には、これまで各国の利害の思惑が反映され、なかなか思うように承認が進みませんでした。科学的な報告といっても、それをどんな言葉で表現するかによって、およぶ影響の範囲が変わります。自国の経済に不利になるような表現は、なるべく入れまいと、各国が躍起になって、一文一文について、意見を言いあうためです。

今回の1.5度報告書の「政策決定者のための要約」は33ページ。それが195の政府によって承認されるまでの間にも、実際、政府間の激しい応酬があり、5日間の日程のうち最後の2日間はほぼ徹夜となって、翌日までずれ込みました。 しかし、最終的には各国政府の合意の下で、科学的に厳格な報告書がまとまりました!

1.5度報告書の内容を真摯に検討しよう!

1.5度上昇した場合にすでにあらゆる面でかなりの悪影響が予測されることを初めて示したこの1.5度報告書は、この夏に猛暑や洪水などの極端な現象を経験した日本にとって、貴重な知見を提供しています。 もはや他人ごとではない以上、これは政府だけではなく、企業から個人にいたるまで、国内の人々がより広く認知し、知るべき内容といえるでしょう。

そして今まで日本ではほとんど議論の遡上にも上がらなかった1.5度を達成する排出経路が、実現可能性が未知数のジオエンジニアリングなどの技術を使わないでも達成できる道があることが示されました。 「1.5度の実現は不可能」と決めつけるのではなく、検討の材料として真摯にこの報告書の内容を検討することが、日本にも強く求められます。

対策が遅れれば遅れるほど、実現がより困難となることが改めて示された今、できる限り早急な行動が求められています。日本は早期にカーボンプライシングなどの効果的な削減政策を導入して削減を進め、再生可能な自然エネルギーへのシフト、石炭利用の縮小・停止に向けた決定など、今できることを直ちに進めていくべきです。

2018年12月に開催される国連の気候変動会議(COP24)において、重要なテーマの一つである「タラノア対話」の重要な要素となるこの1.5度報告書は、2020年のパリ協定の実効力のあるスタートに向けた議論の科学的根拠となります。 2019年G20のホスト国として日本にはこの1.5度報告書を議論に取り入れることをリードすることが求められます。

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