インドネシア、マレーシア、シンガポールなどの国々で広がっている煙害(ヘイズ)の問題。その原因である野焼きや泥炭火災は、人間の生活や健康、社会経済に深刻な被害を及ぼしているだけでなく、多くの野生動物にも影響を与えています。その具体的な一例として、2015年11月、WWFインドネシアはボルネオ島に生息するボルネオオランウータンの行動が、煙害によって変化していることを指摘しました。
オランウータンの行動が変化
スマトラ島とボルネオ島の熱帯林に分布する大型類人猿オランウータン。
その生息域が広がる両島では今、野焼きや泥炭地の火災によって生じる煙害(ヘイズ)の被害が深刻化しています。
2015年11月4日、WWFインドネシアはこの煙害がボルネオオランウータンの行動に影響を及ぼし、行動を変化させていることを指摘しました。
これは、WWFインドネシアでオランウータンなどの象徴種を保全するプロジェクトのリーダーを務めるハイルル・サレハが、ボルネオ島セバンガウ国立公園での観察結果に基づき報告したものです。
それによれば、通常、夕方5時頃に寝床となる「ネスト(巣)」を樹上に作り、朝の4時半から5時ころ目を覚まして活動するボルネオオランウータンたちが、現在は午後の2時半から3時に寝床に入り、朝6時になるまで活動しないというのです。
また、樹上に作られるネストの高さも、以前より木の低い場所に移ったり、食物としている植物が変化する、といった状況も確認されています。
サレハはこれらの変化を、午後から早朝にかけて、森の上層部(林冠付近)で強まる煙害の影響を避けるための反応ではないか、と指摘しています。
人間と同様、オランウータンも煙害による健康被害を受けるとされていることから、こうした悪影響を避けるための行動だと考えられます。
煙害の原因と防火の取り組み
ボルネオオランウータンの推定個体数は4万5,000~6万9,000頭。過去60年間で、その生息頭数は半減し、今も深刻な絶滅の危機にさらされています。
その原因となっている森林減少や分断化、密猟などに加え、この煙害(ヘイズ)による打撃が、オランウータンにとってさらなる脅威となる可能性は、十分にあるといえるでしょう。
また火災で森から焼け出されたオランウータンが、人の生活圏で保護されるといったことも報告されており、こうしたことは人間との衝突を招くことにもつながります。
煙害の主因の一つは、自然林を伐採した後に、紙やパーム油製品の原材料となるアカシアやアブラヤシを植林した「プランテーション(農園)」の開発にあります。
植林のために開発された泥炭地は、乾燥して燃えやすくなっており、こうした場所が火災の発生地となっているのです。
インドネシア政府は、軍までも出動させ、各地で消火活動に力を入れていますが、こうした対処療法は根本的な解決にはなりません。
あくまで、煙害の原因となっている野焼きや泥炭地の開発を止めることが、本来もっとも重要な対策です。
日本でも、多くの消費者が毎日、紙製品やパーム油が含まれる石けん、食品を消費していますが、そうした製品の中には、インドネシアでの火災の原因となっているものが含まれているかもしれません。
煙害の被害と影響には、消費国としての日本にも責任があるということです。
WWFジャパンも、これ以上の森林破壊や煙害、温室効果ガス排出等を引き起こさないために、環境に配慮した木材や紙製品、パーム油の生産と利用を進め、そうした原料や製品の購入企業に対しても働きかけに取り組んでいます。
人間だけでなく、動物にも大きな影響を与えた2015年のヘイズは、現在終息の方向に向かっています。
しかし、ヘイズの原因となる火災は、報道されることが無くても、毎年乾季に生じているものです。
これが繰り返されないように、対策と森林の保全を推進してゆかねばなりません。