宝石サンゴの持続的な利用に向けた取り組み強化を 報告書発表

歴史を振り返ると、地中海などさまざまな地域で宝石サンゴは乱獲によって資源が枯渇してきました。

2018年9月21日、WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFICは、宝石サンゴの東アジアでの取引実態を分析した結果を報告書として発表しました。調査結果からは、日本が主な輸出国であること、制度に不十分な点があるため、日本の宝石サンゴの漁獲量、輸出量が不明であることが明らかになりました。日本政府及び漁業、取引関係者には、持続的な利用に向けたさらなる対策が求められます。

宝石サンゴの取引の実態を探るための分析を実施

2018年9月21日、WWFジャパンの野生生物取引監視部門であるTRAFFIC(トラフィック)は、宝石サンゴの東アジアでの取引の実態に関する分析、市場調査の結果をまとめた報告書を公開しました。

報告書のタイトルは、『SEEING RED 東アジアにおける宝石サンゴの取引』。 ここでいう宝石サンゴとは、宝飾品として世界中で古くから珍重されてきた、花虫綱八方サンゴ亜綱ヤギ目サンゴ科に属するサンゴです。 このサンゴは、主に深海に生息しており、沿岸部などの浅い海域にサンゴ礁を形成する造礁サンゴとは大きく異なる生物です。

これらの宝石サンゴは成長速度が遅く、その生態もまだ多くが謎に包まれているため、採りすぎには細心の注意が求められます。 しかし、歴史を振り返ると、地中海などさまざまな地域で宝石サンゴは乱獲によって資源が枯渇してきました。

2008年以降、アカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴ、ミッドサンゴの4種の宝石サンゴは、ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)の附属書Ⅲに掲載され、国際的な取引が規制されています。 さらに、2017年以降、日本の環境省もレッドリストに準絶滅危惧 (NT)として掲載しています。

中国漁船による密漁、価格高騰、その背景は

この宝石サンゴが大きく話題になったのは、2014年に日本の近海で中国漁船による密漁が行なわれた時でした。 こうした違法漁獲は東アジアだけの問題ではなく、地中海でも問題となっていますが、最近は、中国での宝石サンゴの需要が価格高騰を引き起こしているとも言われています。

このような状況の中、2016年に開催されたワシントン条約第17回締約国会議では、宝石サンゴの生物学的状態や管理、漁獲や取引の状況を明らかにし、保全や持続的な利用のために必要な取り組みを検討することが決まりました。

今回の報告書では、ワシントン条約に報告された取引データと日本、台湾の税関統計を分析し、どのような実態になっているのかを分析を実施。さらに、2017年に日本、中国、香港、台湾で実施した宝石サンゴの販売に関する調査結果をまとめています。

中国は宝石サンゴの輸入国?

ワシントン条約に関するデータによると、附属書IIIに掲載されている宝石サンゴの未加工の状態での2011年から2015年の世界の取引量は、210トンと約8万個に上りました。 その取引量は、重量・個数ともに、2011年~2012年に比べ、2013年~2015年は減少傾向にあります。

また、宝石サンゴの中でも、特に取引量が多いのはアカサンゴで、重量では約6割、個数では4割弱を占めていることがわかりました。 なお、主な輸出国は日本、主な輸入国は台湾。一方、中国は2008年から2015年の間、約40kgと約230個しか公式な輸入の記録がありませんでした。

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輸入量が少ない理由はいくつか考えられますが、中には、中国―香港間、中国―台湾間のワシントン条約附属書掲載種の取引データが、ワシントン条約のデータベースに入っていないため、実態を反映していない可能性があります。

これは、中国政府が、国内取引と認識している中国―香港間、中国―台湾間の取引については、ワシントン条約事務局に報告していないということが背景にあります。

さらに、宝石サンゴは、日本、台湾など海外旅行先で購入し、持ち帰るケースが多いとみられますが、こうした国境を越えた持ち運びは、どのくらいの量にのぼるのかが統計に残らないため、現状を把握するのは困難です。

加えて、ワシントン条約の掲載種の国際取引については、輸出国と輸入国双方で記録がなされるため、双方のデータを突き合わせることで、齟齬を確認することができるはずですが、日本では、附属書Ⅲ掲載種の輸出に必要な原産地証明書の発行を担っている商工会議所から、その発行状況が政府に報告されていないこともわかりました。 こうした取引の実情は、もちろんワシントン条約事務局に報告もされておらず、輸出元である日本の状況についても、確認ができない状況です。

日本政府、漁業・取引関係者はさらなる対策を

日本は宝石サンゴの資源を持ち、現在も漁獲を続け、世界に宝石サンゴを供給している国の一つです。日本では、サンゴ漁業は、国ではなく、都道府県管理となっており、高知、沖縄、小笠原(東京)等いくつかの都県で宝石サンゴ漁が行なわれています。

このため、日本では、漁獲量を国に報告する仕組みがないため、全国的な宝石サンゴの漁獲量すら十分に把握されていないのが現状です。 さらに、違法漁業・取引由来の宝石サンゴを流通させないためには、製品のトレーサビリティを強化するとともに、取引のモニタリングを行うことが重要です。

宝石サンゴの場合には、生木(せいき)と呼ばれる生きた状態で漁獲するのか、枯れ木(かれき)と呼ばれる成長が止まった状態で漁獲するのかによって資源への負荷は異なるため、種ごと、正木・枯木を分けて記録をすることも重要です。

そして国としては、取引の現状を把握するために、現在、状況が明らかになっていない原産地証明書について、国で取りまとめを行い、ワシントン条約事務局に報告することが欠かせません。

他にも、現状の日本の制度的な課題としては、税関統計では、宝石サンゴがほかのサンゴと同じ品目で取引されており、取引実態の把握を困難にしていることがあります。 日本にとって金額的、商業的に重要な品目である宝石サンゴについては、別な品目コードを設け、取引状況の把握に役立てることが求められます。

深海の自然に生きる宝石サンゴを守りながら、その持続可能な利用を実現するためには、国際間の協力はもちろん、政府、地方自治体、漁業・取引関係者、研究者、NGO、小売店などによるさらなる取り組みが必要だとWWFジャパンは考えます。

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