2016年12月、WWFインドネシアは製紙メーカーエイプリル社(APRIL)に関するアドバイザリー(勧告)を発表し、同社の「ステークホルダー諮問委員会」への参加を停止することを表明しました。長年指摘されてきたスマトラやボルネオなどでの植林地開発が招いた自然林の破壊や、地域社会への悪影響が、依然解消されない一方で、同社が公表している持続可能な森林管理のための誓約が、高い透明性のもと確実に実施されているとは言えない現状があるためです。WWFは、購入企業および投資家に対し、同社との取引には慎重であるべきという見解を公式に示しました。
誓約と違反 繰り返しの歴史
インドネシアのスマトラ島を中心に自然の熱帯森を破壊し植林地を拡大してきた、ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループの製紙メーカーエイプリル社(APRIL)。
同社が生産したコピー用紙などの紙製品は、世界中に輸出され、日本でもホームセンターや小売店などで販売されています。
1980年代からはじまったエイプリル社や同じく製紙メーカーのAPP社などによる、この地域での自然林の大規模な破壊は、スマトラトラやスマトラゾウ、オランウータンなどの貴重な野生生物の生息地を奪い、生態系の損失をもたらしただけでなく、地域住民との社会紛争や泥炭湿地の開発による温室効果ガスの排出、泥炭火災などさまざまな負の影響を引き起こしてきました。
2013年には、自然環境や地域社会に配慮した森林管理のための世界的な森林認証制度で知られるFSC®(Forest Stewardship Council)®が、「アソシエーションポリシー」を適用し、製紙メーカーのエイプリル社と関連企業に対して関係を断絶することを発表。
これにより同社とその関連企業は、一切のFSC認証取得および普及等を目的として使用する場合に取得するライセンスが許可されないことになりました。
この「アソシエーションポリシー」は、企業やグループ単位で評価すれば、破壊的な森林利用や社会紛争などの問題に関わる事業者に対し、認証を許可しない、あるいは取り消す制度です。
この「アソシエーションポリシー」は、企業やグループ単位で評価すれば、破壊的な森林利用や社会紛争などの問題に関わる事業者に対し、認証を許可しない、あるいは取り消す制度です。
例えば、一部の森林区画や工場などでFSC認証を取得することで、その企業やグループの操業全体が環境や社会に配慮しているかのような誤解を生むのを防ぎ、すでに多くの企業に「信頼の証」として採用されるFSCの価値を守るためのものでもあります。
長年指摘され続けてきた抗議に対し、エイプリル社は、2014年に「持続可能な森林管理方針」を発表。サプライヤーの一部において、保護価値の高さを測るアセスメント(評価)の実施や、所有する植林地と同等の面積の森林を回復・保全するなどの誓約を公式に掲げました。
しかしその後も、WWFインドネシアも参加する、スマトラ島やカリマンタン島で森林の状況や企業の操業を現地NGOとの協働でモニタリングするプロジェクト、アイズ・オン・ザ・フォレストが、エイプリル社に原料を供給するサプライヤーによって、保全対象であるはずの自然林の皆伐を継続していることを指摘。自らが掲げた方針の徹底を求めました。
これ受け、エイプリル社は2015年には「持続可能な森林管理方針」を改訂した「持続可能な森林管理方針(SFMP 2.0)」を発表。
ところがその直後にも、エイプリル社のサプライヤーが自然林の皆伐を続けていることが再び報告され、またも方針が書面上のものにとどまっていることが懸念されました。
WWFを含多くのNGOは、エイプリル社に対して、誓約だけはない「確実な実施」と「完全に独立した第三者による検証」の必要性を示してきました。
課題山積 WWFは「慎重であるべき」
2014年1月、エイプリル社は「持続可能な森林管理方針(SFMP)」の1.0および2.0の実施を監視するため、「ステークホルダー諮問委員会」を設置し、WWFや同じく同社に対し問題を指摘してきた環境NGOのグリーンピースもこの諮問委員会に参加してきました。
しかし2016年12月、WWFは以下の理由で「ステークホルダー諮問委員会」への正式な委員としての参加を停止することを発表。これと同時にグリーンピースも参加を停止しています。
1.エイプリル社とロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループによる「持続可能な森林管理方針(SFMP2.0)」と「林業、木質繊維、紙パルプの持続可能性枠組み」の実施に関して進捗が見られないこと。
2.泥炭湿地の保護・回復に向けた政府の新たな政策に対し、違反があったこと。
3.透明性の欠如、及び「従来通り」の操業を隠蔽するためにエイプリル社が誤解を招くような情報を提供してきたこと。
発表されたアドバイザリー(勧告)のなかで、引き続きWWFは、ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループおよびエイプリル社とその関連企業からの調達やこれらの企業への投資には、慎重であるべきと考えること、またこれらの企業が自ら掲げた誓約が確実に実施され、進捗があるかどうかは、真に独立した第三者によって検証される必要があるとしています。