観光で来ていたのに急に具合が悪くなって日本の医療機関にかからざるを得なくなったという外国人も存在する。もちろんこのほかに日本に住んでいる外国人が医療機関にかからざるを得なくなるというケースもある。
Newborn baby immediately after the birth being presented to the mother in the maternity ward of hospital.
Newborn baby immediately after the birth being presented to the mother in the maternity ward of hospital.
Ippei Naoi via Getty Images

先日、観光立国調査会で「医療ツーリズムと訪日外国人の緊急時医療をめぐる問題」をテーマにした議論が行われた。

医療ツーリズムと言うのはいわば、高度な医療を受けることを目的として来日する人たちに対して医療サービスを提供すること。

要するにわざわざ治療を受けるために日本に来るということだ。日本の医療サービスの積極的利用者とでも言うべきものだろう。

一方でわざわざ治療を受けるために来たのではないが、例えば観光で来ていたのに急に具合が悪くなって日本の医療機関にかからざるを得なくなったという外国人も存在する。もちろんこのほかに日本に住んでいる外国人が医療機関にかからざるを得なくなるというケースもある。この方たちはいわば日本の医療サービスの消極的利用者と言えるかもしれない。この稿のメインテーマはこちらの方だ。というのも旅行者に対する医療サービス提供はしないわけにはいかないからだ。

しかしながらこれについて残念なことにわが国はあまり自慢できる水準には今はないようだ。

世界を旅するときの有名なガイドブック『Lonely Planet』の日本編(p831)には、「Japanese doctors and hospitals are sometimes reluctant to treat foreigners.」とあるらしい。

「日本の医者や病院は時として外国人を扱うのをいやがる。」

という意味だ。

(当日の講師 国際医療福祉大学大学院岡村世里奈先生のご指摘)

『Lonely Planet』はこう続ける。

「嫌がられても食い下がれ」

僕は、ただでさえ日本人の患者を見るのに手一杯の日本の医療機関に、現時点で積極的に外国人の患者を運んでくる必要はないと思うが、在留外国人や観光・出張等の訪日外国人への対応としては必要な医療サービスが受けられるようにしておく必要があると思う。

佐賀県では既に年中無休24時間対応の多言語コールセンターをスタートさせているがその利用の一定部分は医療機関におけるものだ。佐賀県に観光に来られた外国人の方が急に具合が悪くなられ医療機関に行ったときにこのコールセンターを通して医療スタッフとのコミニュケーションを成立させるというやり方だ。

「おかげさまで助かりました」というありがたい声をいただいているのも事実だが、一方で何かあった場合の責任をどこが取るのかということについてはさらなる検討が必要になると思う。国においても医療通訳の育成に力を入れているがまだまだ十分ではないし一部の地域や病院に限られている。しかも外国人を診察する場合、日本人と違って支払いができるのかどうか確認をしなければならないなどという別の問題もある。

こうした課題について改善させていかなければならないということを強く認識した。

ところで、この勉強会のとき、講師の先生が興味深い事例を紹介された。

日本で産気づいた中国人の患者さんが日本の医療機関で出産されたというケースだった。

出産した後にへその緒が欲しいとその母親の方から申し出があったらしい。

へその緒は母と子の絆の象徴としてわが国でも大事にされてきた。その病院は感染防止などの一定の処理をしてから渡そうと思ったのか「いまはまだへその緒はわたせません」と説明したのだが、母親は「納得できない」と大騒ぎになったらしい。

あとでわかったことだが、中国にはへその緒をスープにして飲むと言う習慣があるらしく、その中国人の母親は、病院のスタッフたちが自分の子のへその緒を食べてしまうのではないかと思ったらしいのだった。

ほとほとさようにカルチャーの問題は難しい、と言われていたのが印象的だった。

2020年までと言わずできるだけ早く外国人患者に対応できる体制をつくりあげて、『Lonely Planet』からreluctantの文字を消さないといけない。

少なくとも観光立国をめざすならば。

(2015年3月17日「週刊yasushi」より転載)

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