「井川さんのことを心カラ理解シテクレル友人」って、何人くらいおられるんですかぁ?」
何かの集まりで、若い女の子たちを前に話をしたあと、彼女たちがボクの元に集まりたずねてきました。
「あっ、女友達でも、男友達でも、どっちでもいいですよ、フフフ」。
彼女たちの言いぶりだと、ボクのように単なる思いつきで行動する人間には、
それを心カラ理解シテクレル友人たちの温情があってのことなはずだ、と。
だから質問を向けた女性は、ハウメニー?と聞いている。
ボクはしばらく黙っていました。期待に添える言葉が、うまく継げなかったから。
「心カラ理解シテクレル友人だって?そんなもんがひょいひょいといるもんか。そうだね、いまはうん、0名」
そんなことを言ってみたところでどうだろうか。
若い彼女たちを失望させるか、冷笑されてしまうか。2、3名かなと答えました。
彼女たちは「少ないなぁ、もっといるはずです」と言いました。
ふと、「彼」のことを、思い出した。
「心カラ理解シテクレル友人」だった唯一の「彼」を。
カフェを始めて5年目、ボクラは出会い、そしてある日、突然、「彼は」いなくなってしまった。
ボクより少し若かったその青年を、いまとなっては、どうやって知り合いになったのか、
そしてどうして別れてしまったのか、記憶は定かではない。
あの当時、店はなにをやっても、ひっちゃかめっちゃかで、
やりたいことはいっぱいあるのに、金もない、時間もない。
スタッフ連中の鈍感な美意識、遅々と進まない凡庸な改善案、自己中心的な客の要望。
ボクはいつもなにかに苛立っていた。
時折、誰もいなくなった店で、ガラス瓶を床にたたきつけた。
砕けたガラス片を一人で片づけながら、自分のことを責めていた。
そんなとき、「彼」が客として現れた。
静かな口ぶりだったけど、核心を突く指摘、ボクがやろうとしていることを誰よりも理解してくれ、
ボクはあっという間に「彼」に夢中になった。ボクらはウマが合った。
「心カラ理解シテクレル友人」というのは、こんなにも辛い現実を忘れさせ、
暗い未来を明るく期待させることができるのものなのかと驚いた。
ある日彼は、こんなことを話した。
勤務先が混乱していて、続けていくのは困難かもしれないと。
ボクはチャンスだと思った。糸に蝶がかかったような気がした。
彼が会社を辞め、ボクと一緒に事業をやりたい、そう言いだしてくれれば、
自分一人では持ちきれないこの莫大な荷物の半分を、彼に背負わせることができる。
「心カラ理解シテクレル友人」を、ボクはポーターとして利用したかった。
彼がボクの下心を悟り、体液を吸われる前に、蜘蛛の糸から逃げ出したのか。
ある日、彼は、何も言わずに、ボクのもとからいなくなった。
本当に突然に。
ボクは自分本位な幻想を抱いていたことを情けなく思い、
そして「心カラ理解シテクレル友人」のことを忘れることにした。
悲しむ余裕など無論なかったし、世の中なんてそんなものだと思うことでボクを守った。
ボクの下へメールが届いた。その彼から。それもまた突然のこととして。
メールを読み終えて、ボクは愕然としました。
そして悲しくて、悲しくて、本当に突然、虹が消えるように失くしてしまった
「心カラ理解シテクレル友人」のことが、哀しくなりました。
井川さん、お久しぶりです。長い間連絡せず、また突然連絡したりしてすいません。
井川さんのところによくお邪魔していた頃、井川さんも少し記憶にあるかと思いますが、
会社が突然バタバタしました。
そのちょっと後ぐらいに僕は顔に病気を患いました。
親からも、面影ないわね、と言われるぐらい顔が変わってしまいました。
そして、知り合いと会うのを避けていました。
その後、父が以前勤めていた会社に転職、治療に努め、
4年ぐらいかかって最近やっと元の顔に戻ってきました。
Webサイトを通じてですが、井川さんのご活躍を拝見させてもらい、
当時、二人で話していたことを次々と実現していて、さすがだなあと尊敬しています。
久しぶりに井川さんのカフェの噂を知人から聞き、懐かしくなり、久しぶりにメールした次第です。
本人はまだまだだと思っていますが、他人からは顔のことを何も言われなくなったので、
精神的にはだいぶ落ち着いて、希望が持てるようになりました。
良い人生勉強になりました。(笑)
お話させていただいたのは短い時間でしたが、僕も井川さんのことが大好きだったので、
なんでこのタイミングに病気になったんだろうと、ずっと残念に思ってました。
こうしてメールすることさえ、重い階段を登る感じです。
書き始めてから今日送るまで、このメールはずっと「下書き」で保存状態にありました。
今後も陰ながら応援させていただきます。
どんなに時代が変わろうと、別れや出会いを、ボクらは支配することはできないのです。
どんなに用心深く注意を払っても、結局のところ、やむにやまれぬ事情に支配されながら、
ボクらは生きていかなければいけないのです。
「心カラ理解シテクレル友人」の数など、実にどうだっていいことだとボクは思います。
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カフエ マメヒコ渋谷・宇田川町店にて、「マメとクルミの朝」、実施中。
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