今年の税制改正でも、法人税率の引き下げが行われることになった。
企業の競争力強化のためには引下げが不可欠だとの論理に基づくものだ。
しかし、はっきり言おう。
法人税減税の効果は限定的だ。
二つ理由がある。
まず、企業全体に対する課税総額が変わらないからだ。
法人税率は下げても、赤字企業も含めて課せられる外形標準課税は強化される。
また、繰越欠損金の処理も課税強化の方向で見直される。
結果、法人課税としてはレベニュー・ニュートラル(税収中立)であって純減税にはなっていない。
当然、効果は限定的になる。
一方、赤字企業には増税でも、既に「稼いでいる」企業、特に海外で稼いでいる企業には明らかに減税になるので、日本企業の競争力強化になるではないかとの反論もある。
しかし、この効果も限定的である。
理由は簡単だ。
こうしたグローバル企業の実質の法人税率は、すでに低いからだ。
2009年に導入された「外国子会社配当益金不算入制度」である。
この制度を利用すれば、国内企業が海外の子会社から受け取る配当等については、その95%を利益計上しなくていい。
この制度を最大限活用して、大企業は、海外での現地生産、現地販売を強化してきた。
トヨタの豊田社長は、2014年5月の決算発表の場で、トヨタは2008年から5年間、法人税を1円も払っていなかったことを明らかにしたが、この間、同社は2兆円を超える税引き前利益を計上している。
国内での業績が不振であって海外の稼ぎが中心となる場合、法人税の支払いを免れることができるのだ。
こうした理由から、日本国内における法人実効税率を下げたとしても、それが国内の設備投資増や雇用増につながるインセンティブにはなりにくい。
ちなみに、シリコンバレーのあるカルフォルニア州の法人実効税率は40.75%で、地方税を含めた日本の実効税率とそんなに変わらない。
それでも世界的な企業が生まれ立地している。
私は心配するのは、今回、法人税減税の財源として外形標準課税が強化されることで、雇用にはマイナスに働くおそれがあることだ。
というのも、税額計算の基準となる「付加価値割」には報酬給与額が含まれており、人をたくさん雇って給与総額が増えると、税金が増える仕組みになっているからだ。
さらに、今、地方の中小企業では、人材の確保ができずに撤退や移転を検討しているところが急増している。
優秀な人材を確保できないことが成長の最大の制約要因となってきているのだ。
こうした問題を踏まえれば、最新技術に対応した、より実学重視の高校教育、専門学校教育への見直しや、人口減少に対応した、外国人労働力の適正な受け入れ議論を加速する必要がある。
大企業の話だけでなく、中小企業の現実問題に向き合う政策を提案していきたい。
(参考)2015年12月4日 クレディスイス証券「日本市場戦略」