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2018年11月21日 13時18分 JST | 更新 2018年11月21日 13時19分 JST

介護現場における音楽療法の現状とは?

音楽療法には時間とエネルギーが必要。介護職と音楽療法士の両立はとても難しいのです。

Artyom Geodakyan via Getty Images

国内で活動する音楽療法士の多くが高齢者とのセッションを行っています。その中には、高齢者施設で介護と音楽療法の両方を担当しているという人が沢山います。でも、介護現場で人手不足が問題になっている今、仕事の両立にはさまざまな問題が浮かび上がってきています。

先日、下記の投稿をしたところ沢山のコメントやメッセージが届きました。

こちらは、音楽療法士のAさんからのコメントです。

以前、介護職として非常勤で週2回出勤し、8時間勤務のうち2時間を音楽療法士として仕事をしていました。 残りの時間は、館内の大変な部署に行き、入浴に排泄介助や食事介助などの介護をしていました。

国の決めた基準の人員配置では、入居者への十分な介護はできないと思います。でも現場は回さなきゃならない。営業さんが上手いこと言って入居させて、満床になったら戦場です。

入職した時は「音楽の時間の担当」ということでしたので、1日2時間は音楽療法士として仕事させてもらえましたが、だからといって時給が変わるわけではなく、あくまで介護職の枠での勤務でした。

その後私は体調を崩し、退職しました。今は音楽療法士としてあちこちの施設にて音楽療法士として報酬を得ています。収入面では少し減りましたが、気持ちが充実しています。

また、「認知症オンライン」などで記事を書かれている音楽療法士の小森亜希子さんは、次のように語ります。

両立はかなり厳しいかと思います。私も入職当初は兼務で入職しました。たまたま介護福祉士を持っていましたので。両方の業務ができるように時間配分をしてくださった良い現場でしたが、業務量の多さに参ってしまいました。

音楽療法は、現在の日本の介護福祉制度の中では加算の対象ではないですし、周囲の音楽療法への認識や理解も不足している傾向にあります。そのため、業務量を改善するとなると一番に指摘されるのは音楽療法の記録を書く時間や評価を記録する時間のことでした。

介護職としての業務をすることでクライエントの日常での過ごし方や人となり、どんな介入が必要なのか、どんな援助を求めているのか等々を知ることはできます。ですが介護職は、チームで動いていることが多いので音楽療法のために介護職としての業務を抜けることは、他の職員にも負担がいきますし、円滑な人間関係が壊れていく可能性もかなり強いです。

また、両立させようとすることで音楽療法の専門職としてのアプローチが低下したり、必要なことが疎かになったり、仕事に対するストレスや疲労感が高まってしまっては意味がないかと思います。

結果的に私は、施設から音楽療法のニーズがかなり強いという見解を得ることができ、部署異動をすることができました。業務量も適正になり音楽療法によりエネルギーを向けることができるようになったと感じています。

まだまだ常勤としての受け入れが不足している職種ですが、介護職と兼務という形ではなく必要だ...という考えが広まれば良いな...と感じています。

小森さんは現在は音楽療法を8割、2割はリハビリ助手的な業務を行っているそうです。主にスケジュール管理や書類作成、整理など。介護職員とは違って、自分のペースで仕事を進めることができるため、音楽療法を優先に働くことができているとのこと。

おふたりの経験からも、介護職と音楽療法士の両立がいかに難しいかがわかると思います...。

実は私は最初この現状を知ったとき、驚きました。アメリカでは音楽療法士が介護職と兼務しているという話は聞いたことがないためです。

欧米では音楽療法士という職業が専門職として確立しているから、という背景もありますが、理由は他にもたくさんあります。そのひとつは、医療・介護従事者が 「Scope of practice(訓練の範囲)」内で活動することは、倫理的に重要だと考えられているためです。患者さんに良いケアを提供するためには、自分にできること(トレーニングを受けていること)とそうでないことをしっかりと認識することが大切です。

例えば、音楽療法士の私がホスピスの患者さんに薬を処方したり、投与した場合、"Scope of practice(スコープ・オブ・プラクティス)" 外のことをしていることになります。介護の場合も同様に、それを行うためのトレーニングが必要です。小森さんは介護福祉士の資格を持っていますが、他の方の場合はどうでしょうか? Aさんは職場でトレーニングを受けたそうですが、職場によって方針はかなり違う印象を受けます。

また、ふたりが指摘したように、音楽療法を行うためには時間とエネルギーが必要だということも兼務における大きな問題のひとつです。音楽療法士はセッションの時間以外にも仕事をしています。セッションのプランを考えたり、新しい曲を探したりする必要があります。また、セッション後は記録をつけなければいけません。

以前一緒に働いていたマッサージセラピストが、「マッサージは自転車に乗るようなもので、一度学んだら忘れない」と言っていましたが、音楽の場合は違います。一度弾けた楽器もしばらく弾かなければ弾けなくなるのです。そのため、常に練習する時間も必要です。

音楽療法には簡単に説明すると、8のステップがあります。

  1. Referral and Acceptance (委託と受諾)
  2. Assessment (アセスメント)
  3. Treatment Planning (治療プラン)
  4. Implementation (実施)
  5. Documentation (記録)
  6. Termination of Services (サービスの終了)
  7. Continuing Education (継続教育)
  8. Supervision (スーパービジョン)

実際のセッションは4の「実施」の部分。周りに見えているのはおそらくその部分だけだと思いますが、それ以外の部分にとても時間がかかるのです。

このように考えた時、なぜ介護職と音楽療法士の両立が難しいのかがわかると思います。皆さんはこの現状についてどう思いますか? ぜひご意見をお聞かせください。

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(2018年11月19日「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)

佐藤由美子(さとう・ゆみこ)

ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院を卒業後、アメリカと日本のホスピスで音楽療法を実践。著書に『ラスト・ソング』『死に逝く人は何を想うのか』。