過去と今をつなぐ、ネイティブ・アメリカンの音楽

音楽によって人と人がつながり、過去と今がつながる。

先日、ネイティブアメリカン(アメリカン・インディアン)のパウワウに行ってきました。パウワウとはネイティブ・アメリカンのお祭りのようなもの。

このパウワウは、オマハ族やポンカ族など、ネブラスカ在住のさまざまなネイティブ・アメリカンが集まる "インタートライバル・パウワウ" と呼ばれるもので、歌、踊り、セレモニーなどが1日中行われました。

伝統的な民族衣装を着たネイティブ・アメリカンの男の子

一口にネイティブ・アメリカンと言っても色々な部族がいて、地域によって文化はかなり異なります。ネブラスカ州に住んでいるネイティブ・アメリカンは、"プレーンズ・インディアン "と呼ばれ、昔は大草原に住み、バッファローと共に生活していた人たちです。

プレーンズ・インディアンたちは、ネイティブアメリカンの中でも西洋文化への対応が最も難しかった人たちと言われています。その理由のひとつは、彼らの思想や生き方が西洋人と全く異なるものだったこと。

例えば、彼らには「土地を所有する」という考えがありませんでした。風や空気を買うことができないように、土地を買うこともできない。このような広い大地に住んでいると、彼らがなぜそう考えたのかわかる気がします。

ネブラスカ州のオマハ族は、1854年に保留地(Reservation)へ強制移住させられ、現在にいたります。土地を所有するという考えすら持っていなかった人たちが、住む場所を追われたのです。

ネブラスカ州の風景

オマハは「風に立ち向かう者たち」という意味。オマハ族の保留地にて。

彼らは長い迫害の歴史の中で、土地、生活様式、言語などあらゆるものを失いました。今日彼らの保留地に行っても、歴史を物語るものはほとんどありません。ただ草原が広がり、働く所もあまりなく、多くの人たちが貧困に苦しんでいます。

日本の子どもたちは、博物館に行ったり、本を読んだりして自国の歴史や文化を知ることができますが、ネイティブ・アメリカンの子どもたちには、そういうものがないのです。彼らの文化は口頭伝承なので、言葉を失った時点で文化も失った、と言っても過言ではないでしょう。

でも、音楽や踊りは残っています。彼らは音楽を通じて、歴史や信仰などを語り継ぐという文化を持っており、音楽はヒーリング(癒し)や儀式においても重要な役割があります。

ネイティブ・アメリカン音楽で使われる主な楽器は、フルート、ドラム、ヴォーカル。パウワウでは、歌とドラムが1日中鳴り響いていました。「先祖の歌」、「戦死した人の歌」など、さまざまな歌を聴きました。

日本のお祭りを思い出させるようなドラムの音。特徴は、円(circle)になってドラムを叩くことです。ネイティブ・アメリカンにとって、「円」は「調和」の象徴で、円の中では上も下もなく、皆平等だと考えられています。

音楽によって人と人がつながり、過去と今がつながる。多くを失った彼らにとって、音楽がいかに大切なものなのかを実感した1日でした。

百年が過ぎた。

でも私には、父親のドラムの鼓動が遠くに聞こえる。

彼のドラムが土地のいたるところで聞こえるのだ。

心の中で、私は彼の鼓動を感じる。

ドラムは打つ。

だから心臓は鼓動する。

そして私は10万年生きるだろう。

~ハートビート・ドラム・ソング

A hundred years have passed

Yet I hear the distant beat of my father's drums.

I hear his drums throughout the land.

His beat I feel within my heart.

The drum shall beat

so my heart shall beat.

And I shall live a hundred thousand years.

~Mahk Jchi (Heartbeat Drum Song)

(2017年10月24日「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)

佐藤由美子(さとう・ゆみこ)

ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院を卒業後、アメリカと日本のホスピスで音楽療法を実践。著書に『ラスト・ソング』『死に逝く人は何を想うのか』。