大きな事業や偉大な発明の影には多くの偉人たちの話がある。
だが、「偉人たち」は決して恵まれた境遇の人たちだけではなかった。
いや、むしろ恵まれすぎていることは偉業の妨げとなることすらある。
サミュエル・ラングレーという人物を知っているだろうか。殆どの人はこの名前の人物について知らないだろう。
では、ライト兄弟はご存知だろうか。この2人の名前は知っている人が多いだろう。人類初の、動力飛行機械の発明に成功した人物たちだ。
この2者は、競争関係にあった。共に、「人類初」の飛行機の発明を目指していた。
しかし、その状況は2者で大きく異なっていた。
サミュエル・ラングレーの場合、
・陸軍省から、5万ドルという大金を資金として受け取っていた
・ハーバード大に在籍
・スミソニアン博物館で働き、当時の最高の頭脳たちとの人脈を有する
・ニューヨーク・タイムズが彼らの動向を逐一報道
ライト兄弟の場合
・資金は常に不足。自分たちで経営していた自転車店から、資金を持ちだして飛行機をつくる
・学歴なし
・人脈なし
・初飛行の見物人はたった5名
この状況で、誰がライト兄弟に軍配が上がると予想しただろう?
結果は、ライト兄弟は初飛行を成し遂げ、ラングレーはライト兄弟の成功を見て、開発途上の飛行機の完成を「あきらめた」のだ。
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なぜ、このようなことになったのか。
TEDにおける講演の一つに、これを取り上げた人物がいる。サイモン・シネックという人物だ。彼の講演は、ライト兄弟の偉業について、その原因を述べている。
もちろん、いろいろな理由があるが、大きかったのは、
ライト兄弟は大義のため
ラングレーは、名声と富のため
に飛行機を作ろうとしていたことだ。
ライト兄弟は、「人類は飛行機の発明により新たな世界への第一歩を踏み出せる」と信じていた。
一方、ラングレーはライト兄弟の成功を見て、「もっとうまくやれる、今度は我々がもっと素晴らしい物を作ろう」と言えたはずなのに、追加の飛行実験を中止したばかりか、姑息にも後にグレン・カーチスと組んで、ライト兄弟の偉業を貶しめんと画策している。
さらに、スミソニアン博物館はロンドンの科学博物館がライト兄弟の偉業を認めるまで、初の動力飛行を成し遂げた機体である「ライト・フライヤー」を展示しなかった。
ラングレーらは、「富と名声」しか、欲しくなかったのである。
綿密に飛行機の実験を何度も行ない、エンジンすら自作したライト兄弟と比して、その飛行機がお粗末な出来となったのは、偶然ではない。
「恵まれていること」は、さして重要ではない。「ひたすら目標に向かって頑張り続けること」が偉業を成し遂げる唯一の条件だ。
人を動かすのは、決して富や名声ではない。人はそのためだけに頑張ることはできない。
報われないかもしれない努力を続けるには、「大義」が必要だ。
「大義」こそが人を動かし、偉業を成し遂げさせる。
(2013年10月8日 Books&Apps に加筆・修正)