米国のデジタル雑誌、立ち上がり鈍いが300万部誇る先鋭も

米国と日本では雑誌環境があまりにも違う。米国の雑誌は宅配の定期購読(たとえば年間購読)が中心で、その定期購読料が安価で、販売部数が100万部を超える大部数雑誌が多いことが特徴である。その結果として広告売上高も日本の雑誌と比べると桁違いに大きい。米国の大部数雑誌を日本のそれと大雑把に比較すると、販売部数が数倍、定期購読料が数分の1、広告売上高が約10倍といったところか。

米国のタブレット向けデジタル雑誌がロケット発射しているに違いない・・・・。タブレット端末利用者数が今春時点でも、1年間で84%も増えていただけに、デジタル雑誌への期待は膨らんでいた。ところが出版社の思惑通りには急上昇しなかったようだ。

米AAM(Alliance for Audited Media)が公表したデジタル版雑誌の購読者数ランキング(トップ25雑誌)は次のようになった。コンシューマ雑誌(プリント版)のデジタルレプリカの販売部数である。米国の主要な390誌を対象にした調査結果である。

2013年上半期において、デジタル版の総販売部数は平均して1020万部となった。1年前の540万部から倍近くに増えているし、デジタル版だけで10万部を超えた雑誌が10数タイトルも現れ、順調に思える。だが、コンシューマー雑誌の総販売部数のうちデジタル版の占める割合はわずか3.3%に過ぎないのだ。総販売部数が同じ期間に1%ダウンしているだけに、出版社がもっとデジタル版の急成長に期待を寄せるのは当然である。さらに、ニューススタンドなどにおける一部売りの販売部数が最近、急激に落ちてきているだけになおさらである。

参考までに、いくつかの主要雑誌について、総販売部数と一部売り販売部数を掲げておく。

*総販売部数

*一部売り販売部数

米国と日本では雑誌環境があまりにも違う。米国の雑誌は宅配の定期購読(たとえば年間購読)が中心で、その定期購読料が安価で、販売部数が100万部を超える大部数雑誌が多いことが特徴である。その結果として広告売上高も日本の雑誌と比べると桁違いに大きい。米国の大部数雑誌を日本のそれと大雑把に比較すると、販売部数が数倍、定期購読料が数分の1、広告売上高が約10倍といったところか。それに米国の雑誌は定期購読が中心のため、一部売りが少ないのも特徴である。ほとんどの雑誌では、一部売り販売部数が総販売部数の10%にも満たない。

でも一方で、女性誌を中心にいくつかの雑誌では、その一部売り販売を増やして総販売部数の底上げに努めてきた。主に若い読者が、ニューススタンドで気に入った特集号の雑誌を購入してくれていたのだろう。ところが最近になって、上の表(3番目の表)のように、有力雑誌でも一部売りの販売部数を年間で10%~20%も急に減らし始めているのだ。その結果として総販売部数がマイナス成長に陥った雑誌も増えてきている。この流れを阻止するためにも、デジタル版の販売部数を増やすことが急務となっている。

そこで、デジタル版販売で際立った動きを示す事例を2つ紹介する。

まず、デジタル版の購読者数ランキング(トップ25)でトップを独走する「Game Informer」を見ておこう。ビデオゲーム誌であるが、そのデジタル版の販売部数が約300万部と、2位と10倍以上の差をつけてダントツのトップを走っている。さらに驚くべきことに、この1年間でデジタル版の販売部数を175万部も一気に積み上げたのだ。

Game Informerはビデオゲームのレビューなどをカバーする雑誌で、総販売部数が約800万部の人気ゲームユーザー誌となっている。この雑誌のオーナーは、ビデオゲーム関連商品を販売しているGameStopである。そこでGameStopは、雑誌の年間購読と特典カード( PowerUp Rewards Pro Card)をバンドルした形のサービスを提供している。年間14.99ドルを支払ったユーザーは、デジタル版かプリント版のどちらかのGame Informerを年間購読できるとともに、特典カードでGameStopが販売する商品を割引きで購入できたり、ボーナスポイントや特別サービスを受けられる。GameStopとしては特典カード保有者を多く確保することが重要で、雑誌はデジタル版でもプリント版でもどっちでも構わない。ただプリント版はコストが余分にかかるので、デジタル版にシフトさせたいだろう。ユーザーも若年層が多いし、新作ゲームのレビューを早く読めるデジタル版を選ぶ人が多くなっている。その雑誌の選択では(プリント版+デジタル版)購読を用意しないで、どちらか一方だけを選ばさせている。この1年間でデジタル版読者が175万人増えたのも当然で、プリント版からデジタル版に移った読者が数多く含まれているはずだ。

大手出版社のコンデナスト(Condé Nast)がアマゾンと手を組んで、デジタル版を含む雑誌の定期購読サービスを一括してアマゾンサイトで始めており、これも見逃せない動きである。アマゾンがプリント版とデジタル版をまとめて管理できたのも、プリント版雑誌を販売している実績が効いたのだろう。まずコンデナストの主要雑誌7誌(Vanity Fair, Vogue, Wired, Lucky, Glamour, Golf Digest , Bon Appetit)を対象にしており、それらの定期購読サービスの新規申し込みや更改を、読者はアマゾンサイトだけで行える。すでに同サイトでは、各7誌の新規定期購読の割引キャンペーンを実施中である。

例えばVogueは、初回の新規購読者に対してAll Access(プリント版+デジタル版)の半年間定期購読サービスを6ドルで提供している。プリント版あるいはデジタル版の年間定期購読料が19.99ドルなので、かなりの割引キャンペーンである。

ところで、米国の伝統雑誌は、まだまだプリント版の広告売上に頼っている。頭打ち傾向を示しているが、米国の新聞や日本の雑誌のプリント広告売上のようには急落していない。コンデナストのいくつかの雑誌の今年9月号の広告ページ数と前年同月比を見ても、

・ Vogue: 665 pages, up 1 percent

・ Vanity Fair: 234 pages, up 5 percent

・ Glamour: 224 pages, up 18 percent 

となっており、踏ん張っている。

踏ん張れているのも、定期購読者数を減らさないで済んでいるためだ。Vogueと Vanity Fairはそれぞれ、97万7025部と96万4788部と、ともに前年比2%も増やしている。ところが先に述べたように、ニューススタンドなどでの一部売りは大きく減り始めており、落とし穴になりつつある。ニューススタンド売り部数が比較的多いVogue 、 Vanity FairそれにGlamourの一部売り部数が、それぞれ前年に比べてそれぞれ10.4%、11%、28.8%も減らしている。そこでコンデナストとしては、集客力と販売力を誇るアマゾンと組んで、定期購読者数を確保していきたい。ニューススタンドで時々購入していた若い読者を定期購読者に向かせるためにも、またプリント版との組み合わせで割安感を与えるためにも、デジタル版の役割が大きい。今後アマゾンサイトでは、更改時割引や複数雑誌の定期購読割引などのキャンペーンを仕掛けてきそうだ。

◇参考

The Top 25 U.S. Consumer Magazines for June 2013(Alliance for Audited Media)

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