公設民営学校は、なぜ国家戦略特区に盛り込まれたのか【争点:アベノミクス】

政府は「国家戦略特区」における規制緩和の一つに、公立学校運営の民間委託を認める「公設民営学校の設置」を検討することを正式に決定した。「公設民営学校の設置」とは何か。なぜ「公設民営学校の設置」が国家戦略特区に盛り込まれるのか。

政府は10月18日の日本経済再生本部会合において、「国家戦略特区」における規制緩和の一つに、公立学校運営の民間委託を認める「公設民営学校の設置」を検討することを正式に決定した。「公設民営学校の設置」とは何か。なぜ「公設民営学校の設置」が国家戦略特区に盛り込まれるのか。

■国家戦略特区における「インターナショナル・スクール」の設置要件緩和

国家戦略特区は、大胆な規制緩和を行うことが認められる限定区域のこと。安倍首相が打ち出した成長戦略の目玉の一つで、「世界で一番ビジネスのしやすい環境をつくる」という“立地競争力の強化”を目的として創設される。政府は今年4月から、この特区で認める規制緩和の内容について議論を行ってきた。その最たる議論の一つは、外国企業をどのように日本に誘致するのか、というものである。

国家戦略特区に外国企業を呼び込むためには、企業に務める外国人やその家族にとっても住みやすい環境を整備する必要がある。教育環境の整備もその一つである。

現在、外国人の方々が通う学校として「インターナショナル・スクール」があるが、これには2つの課題がある。一つは費用が高いという点。もう一つが、立地だ。

日本におけるインターナショナル・スクールは、年間200万ぐらいの学費がかかる。従業員の家族が通うインターナショナル・スクールの授業料を、肩代わりしている企業も多く存在するため、日本に拠点を置く海外企業からは授業料が安くなればという思いがある。

授業料が安くならないのは、インターナショナル・スクールが私立学校とは違い「各種学校」という位置づけでもあるからだ。インターナショナル・スクールでは、必ずしも日本の学習指導要領に沿った教育を行っているわけではないため、私学助成金が無い。そのため、必然と生徒が支払う授業料は、日本の公立学校や私立学校に比べて高くなってしまう。

また、各種学校の設置には、施設を学校が所有しなくてはならないという規則がある都道府県も存在する。レンタルなどで施設を借りることは認められていないのだ。都心では学校の設備維持に費用もかかることもあって、収容人数が少ないインターナショナル・スクールが多い。本格的なインターナショナル・スクールは調布にあるが、遠いという指摘もある。

■「インターナショナル・スクール」に日本人も通い、グローバルな人材育成を目指す

インターナショナル・スクールの設置を、外国人が利用するだけのものと捉えず、日本人のための教育機関としても使おうとするのが、安倍政権の狙いだ。安倍首相が打ち出した成長戦略では、「世界に勝つ」グローバルな人材を育てるという目標も入っており、そのための教育施設としてインターナショナル・スクール的な要素を含む学校の構想が膨らんだ。

安倍首相は教育再生の目標として、初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育を行うとし、2018年までに国際バカロレア認定校を200校に増加させるとしている。国際バカロレアとは、国際的に認められる大学入学資格を与えるもので、授業を英語で行うなど、世界標準のカリキュラムが組まれる。日本で国際バカロレア認定校となっている学校のうち、玉川学園などの私立高校は、国際バカロレア機構が定める教育課程と、日本の学習指導要綱両方を取り入れているため、卒業時には日本の高校卒業資格を持つことができるのだ。

しかし、これらのグローバルな教育を行うための教員人材を確保することは現在の公立学校では難しい。そのため、民間に学校運営を委託したいというのが、公立学校を運営する各都道府県や市町村などの希望のようだ。

大阪市は国際バカロレア認定校設置のために、国家戦略特区で公立学校の民間への開放する案を政府に提出している。

竹中平蔵慶応大学教授は、公設民営化で、グローバル教育に特化する学校を作ることができると話す。

学校の公設民営ができれば面白いと思いますよ。たとえば、「港区のこの学校は徹底したグローバル教育をやる」ということも可能になります。グローバル教育において、日本は韓国に徹底して差を開けられています。韓国には、英語だけで授業をして、毎年アメリカのアイビーリーグに数十人も送り出す高校もあります。今の日本ではそんなことは考えられないですよ。

( 東洋経済オンライン「竹中平蔵「アベノミクスは100%正しい」」より。 2013/07/20)

モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社チーフエコノミストのロバート・フェルドマン氏は、学生の留学について次のように語る。

数カ月前に自治大学で講演をした際、鳥取県からの方がやってきた。その方の名刺にスイカが書いてあった。鳥取でつくっているスイカを国内で売ると3,000円だが、ドバイで売ると3万円になると教えてもらった。

何で鳥取県全体が1つのスイカ畑になっていないのかと思う。なぜこれまでやっていないのか。これは結局JA制度が障壁だと思うが、加えて言葉と心の壁もある。海外での販売をJAの方だってやろうと思ったらできるのだが、言葉と心の壁があるからやらない。

「私が売ってきます」と言う若者がいれば絶対売れる。だからそういう若者を海外に送ることが言葉と心の壁を低くすると思う。トップダウンからこれだけはやるべきだとすれば、私はやはり教育だと思う。

(「国家戦略特区ワーキンググループ有識者等からの「集中ヒアリング」」より。2013/07/08)

留学も効果的な方法だが、国内に国際バカロレアのような教育環境があることも、日本がクールジャパンを海外に発信する為の人材育成につながると考えられる。

また、2020年に東京で開催されるオリンピックに対する取り組みとしても公設民営化の仕組みが利用できる。例えば、スポーツに特化した教育だ。18日に記者会見した下村博文・文部科学相は公立学校運営の民間開放について、東京オリンピックの開催も追い風に、グローバル人材の育成や、スポーツ・体育の充実などに係る必要性が増していると述べた。人気の高いスポーツ指導者が学校で指導を行うことが、アスリートの育成にもつながる。教育課程の一部を民間企業へ委託するという考え方もできる。

■公設学校は法制的に困難?

しかし、公設民営学校の設置は、法制的に困難だとする意見もある。文部科学相は公設民営学校の設置について、次のような見解を出している。

公立学校教育は公権力の行使等にあたるため「当然の法理」(公務員が行わなければならない)との整理が必要。

(「国家戦略特区WG 規制改革提案に関する現時点での検討状況 」より。 2013/09/20)

これに対し、大森不二雄・首都大学東京大学教育センター教授は、私立学校の職員が良くて公設民営学校がダメなのはおかしいと反論している。

公立学校の職員がやれば公権力の行使で、私立学校の職員がやれば公権力の行使ではないというのは完全な同語反復、トートロジーにすぎないわけであり、文科省の立論については根本的な疑問がある。

(「国家戦略特区ワーキンググループ有識者等からの「集中ヒアリング」」より。 2013/07/08)

公設民営学校の設置について、あなたはどう考えますか。ご意見をお寄せください。

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