アメリカのオレゴン州に住む母親のジュリー・キースさんは2012年10月、近所のスーパー「Kmart」で買ったハロウィンの飾り付けの箱を開けた。中身は安っぽいデザインの飾り付けだったが、その中国製の飾り付けのすき間に手紙が押し込まれているのをキースさんは見つけた。その内容は、キースさんが29ドルで買った「血まみれの墓石」を模した飾り付けよりも、はるかに心をかき乱されるものだった。
「お客様へ。もしこの製品を買われたなら、どうかこの手紙を世界人権機関にお送りください。中国共産党政府の迫害を受けている数千人の人々があなたに感謝し、あなたのことを一生忘れないでしょう」
罫線入りの紙に片言の英語で書かれたこの手紙は、助けを求める悲痛な嘆願で、中国北東部にある強制労働収容所内からこっそり送られたものだった。
キースさんはこの手紙をFacebookで公開し、地元新聞が取り上げるなどして話題になった。そして1年以上経った今、この手紙を書いた本人だと言う男性の匿名インタビューを、CNNが掲載した。
Zhangという苗字で呼ばれるこの47歳の男性は、2008年に開催された北京五輪の数カ月前、中国が活動を禁止している気功集団「法輪功」のメンバーとして警察に拘束され、禁錮2年半の判決を受けた。そして、遼寧省の省都、瀋陽市ちかくにある馬三家労働教養所(Masanjia Labor Camp)に収容されたという。
Zhang氏は、2年間半にのぼる服役中に、SOSの手紙を20通書いた。同氏は、書いた手紙を英語のラベルが貼られた商品の箱の中にしのばせたが、これは、その商品が海外の店舗で売られることを期待してのことだったという。
「手紙のいくつかが海外で発見されることを期待していたが、そのうちあきらめて、手紙のことは忘れてしまっていた」と、Zhang氏は『ニューヨーク・タイムズ』紙に語っている。
Zhang氏は、知り合いになった人に頼んで、ボールペンを入手したという。また、守衛が見ていない間に、収容者を再教育するための帳面のページを破って便箋代わりにした。
「私は、ベッドサイドテーブルのすき間にボールペンを隠した。手紙を書く時間が取れたのは、他の囚人がみな寝静まった夜遅くだけだった」とZhang氏はCNNに語っている。「収容所の照明はいつも点灯しており、すべての部屋に当番の守衛がいてわれわれを見張っていた」
オレゴン州のテレビ局KATUが、Kmartの親会社であるSears Holdings社に取材したところ、以下の書面が寄せられたという。
問題のハロウィン用飾り付けを製造している工場に対して最近行った監査では、労働収容所が製造の下請けを行っていたという証拠は見つからなかったが、われわれは引き続き調査を行っている。
「わたしは、商品のラベルをよく見て、必要のないものは買わないようになった。特に中国製造の品物については」と、キースさんは語っている。
労働教養は、中国の各地方政府の労働教養管理委員会が、「社会秩序を乱した」といった理由で、裁判抜きで人民を勾留・強制労働させることができる制度。中国司法省によると、2012年末現在、全国351の労働教養施設に約5万人が収容されている。米国政府と中国政府はともに、「労働改造製品」を米国へ輸出することは違法としている(1994年に共同声明を公布)が、実際には国際市場に出回っているのが現状となっている。
[MEREDITH BENNETT-SMITH(English) 日本語版:佐藤卓、合原弘子/ガリレオ]
ハフィントンポスト日本版はFacebook ページでも情報発信しています。
関連記事