「パンツ一丁」の男性像が女子大に出現 現代アート作品を「気持ち悪い」と撤去できる?

うつろな表情で、雪の中にたたずむ「パンツ一丁」の男性。その写真が「キモい」「こわい」と、ネット上で評判になっている。ぱっと見は本物の人間に思えるが、実は現代アートの像で、アメリカの名門ウェルズリー女子大がキャンパスの敷地内に設置したものだという。
WELLESLEY - FEBRUARY 6: The sculpture entitled 'Sleepwalker' stands on the campus of Wellesley College February 6, 2014 in Wellesley, Massachusetts. The statue is part of an exhibit by artist Tony Matelli at the college's Davis Museum, and has prompted an online student petition to have it removed due to its edgy nature. (Photo by Darren McCollester/Getty Images)
WELLESLEY - FEBRUARY 6: The sculpture entitled 'Sleepwalker' stands on the campus of Wellesley College February 6, 2014 in Wellesley, Massachusetts. The statue is part of an exhibit by artist Tony Matelli at the college's Davis Museum, and has prompted an online student petition to have it removed due to its edgy nature. (Photo by Darren McCollester/Getty Images)
Darren McCollester via Getty Images

「パンツ一丁」の男性像が女子大に出現 「気持ち悪い芸術作品」は撤去を要求できるか

うつろな表情で、雪の中にたたずむ「パンツ一丁」の男性。その写真が「キモい」「こわい」と、ネット上で評判になっている。ぱっと見は本物の人間に思えるが、実は現代アートの像で、アメリカの名門ウェルズリー女子大がキャンパスの敷地内に設置したものだという。

この強烈なインパクトをもつ作品を展示することについて、現地では賛否両論が巻き起こっているようだ。同女子大の一部の学生らは、「不適切」「潜在的に有害」などとして、男性像の移転を求める署名活動をネット上で始めている。

ところで、アート作品の屋外展示は日本でもよくある光景だ。もし、公共の場に「気持ち悪いアート作品」が展示されていたら、何らかの法的権利にもどづいて、作品の撤去を要求できるのだろうか。齋藤裕弁護士に聞いた。

●表現活動は憲法で保障されている

「道路や公園など、公共の場にアート作品を展示したいという場合、通常は、道路や公園管理者の利用許可を受ける必要があります。

今回の場面に当てはめて考えると、いったん出された利用・展示許可を、『その作品が気持ち悪い』という理由で撤回し、作品を撤去させることができるか、という問題となりそうです」

このように齋藤弁護士は述べる。具体的には、どんな決まりがあるのだろうか?

「どのような場合に許可を取り消すことができるかは、利用許可の根拠となる条例等によって異なります。

たとえば、『千葉県立都市公園条例』では、、公衆の公園の利用に著しい支障が生じた場合に許可の取り消しをすることができるとしています」

●「気持ち悪い」というだけでは撤去は難しい

そうなると、たとえば利用者が「気持ち悪いアート作品があるから、公園を利用したくなくなる」と主張して、「支障が生じたから許可を取り消せ」と要求できるのだろうか?

「難しいでしょうね。たとえ『気持ち悪いアート作品』であっても、表現活動は憲法21条(表現の自由)により保障されています。したがって、いったん許可が出された以上、そう簡単に利用許可を取り消し、作品を撤去することはできないでしょう。

この条例の規定に基づいて撤去できるのは、たとえば展示物がひどい異臭を放つとか、大騒音を生じさせるといった、現実的な被害がある場合に限られると思います。

なお、名古屋地裁が1975年2月24日に出した判決は、県美術館が異臭を理由として、ゴミを含む展示物の撤去を指示した事例について、『表現の自由を侵害するものではない』との判断を示しています」

今回、具体的に検討してもらったのは千葉県の条例だが、「アート作品の展示許可を取り消せ」という要求には、どの場面でも同じようなハードルがあると言えそうだ。

齋藤弁護士は「結局、展示されたアート作品が単に『気持ち悪い』だけでは、その場所の管理者も、市民も、法律に基づいた権利として撤去を求めることはできないと思います」と話していた。

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【取材協力弁護士】

刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。サラ金・クレジット、個人情報保護・情報公開に強く、武富士役員損害賠償訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブルハンドブック』(新日本法規)など。

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