中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が5日、開幕した。李克強首相は政府活動報告の中で、今年の国内総生産(GDP)伸び率目標を前年と同じ7.5%とした。目標の据え置きは、政府が改革と経済のリバランスを引き続き重視することを示唆したものと受け止められている。
首相は、経済成長を注視する一方、改革の実現が最優先だと指摘。稼働していない工場を閉鎖するほか、環境に配慮し、投資よりも消費にけん引された均衡のとれた経済をつくるため、新たな環境保護税に関する作業を加速するとした。
首相は約3000人の全人代代表を前に「改革は今年の政府の最優先項目だ」と表明。「われわれは全面的な改革を深化させるために戦い、精神的な足かせを打ち壊す気概を持たなくてはならない」と述べた。
こうした改革を後押しするため、国家発展改革委員会(NDRC)は全人代報告の中で、2014年の固定資産投資の伸び率目標を17.5%にすると表明。これは少なくともここ10年間で最も低い水準となる。
13年の中国GDP伸び率(実績)は7.7%。最大のけん引役となったのが投資で、固定資産投資の伸び率は19.6%となり、目標の18%を上回った。
アナリストらは投資の伸び率の減速を歓迎しているが、環境関連政策が雇用や所得に及ぼす影響を懸念。東亜銀行(香港)のエコノミスト、ポール・タン氏は「これまでに環境保護関連で多くの措置が打ち出されたものの、国民生活や経済にはマイナスの影響が幾分出始めており、対策が必要だ」と述べた。
李首相は、非化石燃料による発電を促すためのエネルギー価格設定の改革や、鉄鋼やセメントといった汚染の発生源となる業界での生産能力削減を通じ、汚染問題との戦いを遂行すると述べた。
ただ、今年削減するとしている鉄鋼分野の旧式生産設備は能力換算で2700万トンで、生産能力全体の2.5%にも満たない。また、現在建設中の新設備は環境性能は優れているものの、能力換算で旧式設備の削減分を上回る見込みだ。
セメント分野の生産設備削減目標は能力換算で4200万トンと、昨年の生産総量の2%に満たない。
また、多くの鉄鋼・セメント工場が経済的な理由で閉鎖している。アナリストらは、雇用喪失の拡大や社会の不安定化を回避するため、政府のスリム化や過剰設備を抱えるセクターの工場閉鎖といった、いくつかの項目は二の次にされるとみており、汚染問題に対する政府の姿勢はその本気度を問われることになりそうだ。
<環境問題は「自然の警告」>
中国は昨年11月の共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で、投資・輸出主導の経済成長から、減速しつつも均衡のとれた持続的な成長への転換を示唆する野心的な改革計画を公表した。
今回の全人代政府活動報告では、こうした路線を維持しつつも、慎重に物事を進める姿勢が示された。
初の経済学博士号を持つ中国首相である李首相は、今年の消費者物価指数(CPI)伸び率目標を3.5%前後に設定。マネーサプライ(M2)伸び率目標は13%で、市場予想にほぼ沿った内容となった。
首相は、預金保険制度を確立すると表明。これは銀行預金金利の自由化に向けたステップだとみられていた。
また、人民元改革を進めると指摘。資本勘定における人民元の交換性向上を図るとした。
財政省によると、2014年政府予算案は15兆3000億元(2兆5000億ドル)で、財政赤字は対GDP比約2.1%となる。2013年の実際の赤字比率と変わらない水準に設定された。
30年間に及ぶ2桁の経済成長によって数億人の中国人が貧困から抜け出したが、大気・水質汚染により中国の自然環境は悪化した。中国政府がこうした路線を転換したいのは間違いない。
首相は「スモッグは中国の大部分に影響を及ぼしており、環境汚染は主要な問題となっている。これは非効率でやみくもな発展モデルに対する自然の警告だ」と指摘した。
一方で中国政府は、景気が急激に減速すれば改革が頓挫することも認識しており、漸進的なペースで改革を進める考えだ。
全人代開催期間中には、主要省庁や中国人民銀行(中央銀行)がそれぞれ会見を開く予定となっている。
李首相は、全人代閉幕日の今月13日に記者会見を開く予定。
[北京 5日 ロイター]
関連記事