岩手県紫波町「オガールプロジェクト」 補助金に頼らない新しい公民連携の未来予想図

従来型の公共事業のあり方が問われる今、補助金に頼らない公民連携で地域活性化を進め、全国から注目を集める町がある。人口3万3800人の岩手県紫波町(しわちょう)だ。この夏、紫波町を訪ねてみた。
猪谷千香

少子高齢化による人口減少、国からの地方交付税や補助金の削減。厳しい財政状況の中で地域活性化に悩む地方自治体は少なくない。従来型の公共事業のあり方が問われる今、補助金に頼らない公民連携で地域活性化を進め、全国から注目を集める町がある。人口3万3800人の岩手県紫波町(しわちょう)。「オガールプロジェクト」と呼ばれる計画で、駅前の町有地10.7ヘクタールを中心に、ホテルやバレーボール専用体育館、図書館、カフェ、産直マルシェなどが入居する施設を相次いでオープン。年間80万人が訪れるようになっている。紫波町はどのような未来予想図を描き、走り始めたのか。この夏、紫波町を訪れてみた。

■図書館や産直マルシェが入る「オガールプラザ」

盛岡駅から東北本線に乗り換え、20分ほど揺られると、紫波中央駅に到着する。駅前に広がるのは新しい街並みだ。芝生のグリーンが映える広場には白いテントが張られ、ビールや食べ物を楽しむ大勢の人たちでにぎわっていた。ここは「オガール広場」。紫波町が現在、取り組んでいる「オガールプロジェクト」のシンボルともいえる場所だ。

紫波町を訪れた8月2日、オガール広場に面した官民複合施設「オガールプラザ」の開業2周年と、オガール広場を挟んで真向かいに位置する新たな施設「オガールベース」のオープンを記念したイベント「オガール祭り」が開かれていた。まず、2012年6月に開業したというオガールプラザから見てみよう。

オガールプラザは、延べ面積5800平方メートルの2階建て建築。紫波町産の木材がふんだんに使われたという建物に親しみやすさを感じる。1階中央には、中核施設となる紫波町図書館がある。紫波町はフルーツやもち米の生産地として知られ、農業が基幹産業だ。そのため図書館では、さまざまな農業支援を展開している。農業に関する書籍をそろえるほか、農業専門データベース「ルーラル電子図書館」の利用促進、農業にまつわるトークイベントなどを実施。住民や農家の新たなコミュニティの場として、機能し始めている。

図書館に隣接するのは、「紫波マルシェ」。ここは、その日の朝に採られた新鮮な野菜をはじめ、ソーセージやベーコンといった畜産加工品、三陸産の魚介類、スイーツなどが並ぶ市場だ。図書館も販売に協力しているところがユニーク。食材に図書館おすすめの料理本の紹介POPを設置している。

紫波マルシェに設置された紫波町図書館のPOP

図書館とマルシェのほか、1階にはカフェなどの飲食店、眼科、歯科といった民間テナントが入居する。2階を上がると、メインは音楽スタジオやアトリエスタジオ、市民ギャラリーが併設されている町の「交流館」。隣接して、紫波町の子育て応援センター「しわっせ」が入っている。民間の学習塾も同じフロアだ。

■日本初バレーボール専用体育館を備えた「オガールベース」

2年前にオープンした時から、オガールプラザの入居率は100%。しかも、民間テナントはほぼ県内事業者が占めている。そのオープンに先がけて、2011年4月には岩手県サッカー協会が運営する「岩手県フットボールセンター」が盛岡市からオガールプラザ近くに移転。オガールプラザと合わせて、2012年は目標30万人の2倍以上にあたる70万人が訪れ、黒字を達成した。70万人のうち町外の訪問客も多かったという。2013年も80万人とさらに集客力を高めている。

そして、7月31日。オガールプラザと対となる新しい施設「オガールベース」がいよいよオープンした。オガールベースの特長は、日本初というバレーボール専用体育館「オガールアリーナ」だ。オリンピックやワールドカップといった世界的な大会で採用されている床材を用いたトレーニング施設で、オープンを記念して8月3日には、Vリーグのチームが記念試合を披露した。アリーナには、宿泊施設である「オガールイン」が隣接している。ビジネスや観光の拠点として宿泊できるホテルだが、合宿用のドミトリーも用意。さらなる集客を目指している。

7月にオープンしたオガールベース

■オガールプラザと従来の公共事業との違いとは

オガールプラザとオガールベースを両輪に、順調な滑り出しをみせる公民連携による「オガールプロジェクト」。「オガール」とは、フランス語で「駅」を意味する「Gare」(ガール)と紫波の方言で「成長」を意味する「おがる」を合わせて名付けられた。このプロジェクトは、紫波町が2009年に策定した「紫波町公民連携基本計画」に基づいて進められている。

基本計画によると、紫波町が抱える課題として、若い世代の人口流出や商店街地区の活性化、子育てしやすい環境、雇用の確保などが指摘され、解決策として新たな町づくりが提言された。そして、計画を実施する上で導入されたのが、「公民連携手法」だった。「VFM(Value for Money)の最大化」「民間事業者の採算性・安定性の確保」「町と民間事業者との適切なリスク分担」が留意されている。

例えば、補助金を10億円確保できたら、10億円をフルに使い、その後のランニンコストを考えず、稼働率の見積もりも甘いまま、空きテナントが目立つ立派な施設を建設するのがこれまで多くみられた公共事業の失敗だった。

しかし、オガールプラザはスタートから違っていた。まずテナントを固めてから、建物の規模や建設費用を算出した。建設費用のコストカットのため、特別目的会社がオガールプラザを約11億円で建設。その後、公共施設部分を紫波町に売却した。売却した費用以外は、東北銀行の融資や町と政府系金融機関の出資で賄った。補助金に頼らない町づくりが、こうして始まった。

■オガールプロジェクトを支える民間ブレーン

「補助金やめますか? それとも人間やめますか?」

有名な覚せい剤追放キャンペーンのパロディで、地域活性化事業の補助金依存体質に警鐘を鳴らすのは、エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉さんだ。全国各地で地域の再生を手がけ、公共事業の現場で実践してきた立場から、「補助金がないから事業をやらないとか、補助金があるから事業をやってみるとか、本来補助金とは事業者を補助する目的のはずが、いつの間にか補助金が先頭を走っている事業が数多く存在しています。そして、そのような事業は例外なく失敗しています」と指摘する。

木下さんは、「オガールプロジェクト」も影で支えてきた一人だ。実は、このプロジェクトには木下さんを始め、民間の立役者が存在する。まず、中心となっているのが、オガールプラザやオガールベースを設立、運営をしている会社(施設名と同名)の代表取締役、岡崎正信さん。東京の大学を卒業後、国交省などを経て、家業を継ぐために紫波町に戻った。

そんな岡崎さんを支えているのが、「オガールプロジェクト」のファイナンシャルアドバイザーで、経済金融評論家の山口正洋さんや、同じくプロジェクトアドバイザーで、全国で地域再生のプロデュースを行っているアフタヌーンソサエティ代表取締役の清水義次さん。そして、「オガールプロジェクト」のマスタープランを担当した建築家、松永安光さんだ。

オガールプラザでは8月2日、木下さんをコーディネーターに、「稼ぐインフラ」をテーマにしたシンポジウムが開催され、岡崎さんや山口さん、清水さん、松永さんが登壇。紫波町のオガールプロジェクトとこれまでの公共事業がどう違うのかが話し合われた。その議論に耳を傾けてみよう。

紫波中央駅駅前の町有地に広がるオガールプラザとオガールベース

■「補助金やめますか? それとも人間やめますか?」

まず、「成功と言われる再開発・区画整理などの過去の地域活性化手法は、現在の社会環境には通用せず、9割9分は失敗しています」と厳しく批判したのは、木下さんだ。自治体が大型の公共事業で立派な施設を建築したものの集客に失敗、赤字となっている全国の事例を紹介しながら、問題点を指摘した。

「成長時代には、税金をぶちこんで施設開発などを行えば、それで『成功』とされてきた。しかし、今ではこれはだめです。社会が縮小して需要全体が縮んでいく中で単に公共が投資したからといって、民間がついていくわけではありません。公共は作ることが目的で、民間は儲けることが目的ですから、儲かりもしない事業を公共が率先してやって誰もこない、施設経営として損をしている状況をみた瞬間に、民間はその地域ではやはり儲けられないとわかり、民間投資は別の場所にシフトします。今後は公共は民間より先んじて、しっかりと稼げる投資をしなければ、少なくとも地域活性化には寄与しません」

補助金に依存して失敗する公共開発事業は、自治体財政を長期にわたり蝕むという。

「建物のライフサイクルコストは大体、総工費の4〜5倍かかるといわれています。300億円かけたら、そのうち半分を国が出してくれたとしても、維持し続けるためには、1500億円分を地元が払わないといけない。これは自治体の負担になります。全国でこういう事例を増やしたら、本当に公共がやらなければならない福祉などサービスにお金がまわらなくなる。これがまさに、『補助金やめますか、人間やめますか』ということです」

通用しない活性化事業の制度を活用するのではなく、しっかり採算をとらなければ、活性化どころか、地域の衰退を加速することになると警告する。

■公共事業が誘い水となって民間を呼びこむ

公共事業における建築費用の問題点を指摘するのは、清水さんだ。

「どの町に行っても、税金を投入して作ったものが上手に使われているケースを見たことがない。特に、公共事業では工事費の問題が大きいです。民間で同じものを作ろうとすると、大体7割の工事費で作れます。このオガールプラザは、民間工事発注でコストを切り詰めて、民間で建てたものを図書館など公共施設部分を区分所有で町が買うという形で、コストの適正化をはかっている。これで、2、3億円は浮いています。貴重な税金がまともに使われている珍しい事例です。これを他の自治体に説明すると、『民間発注すれば安くなるのはわかっています。でも、それを議会でどう説明したらいいのかわかりません。面倒くさいです』と役所の幹部職員が言うんです」

さらに清水さんは、2000年代になってから日本の局面は変わったと述べた。

「だけど、いまだに今まで通りの成長を前提とした補助金の投資の仕組みが変わっていない。しかし、どんなふうに使っているのかということに主眼が置かれるようになると、もう少し本質に目を向けられやすくなるんじゃないかなと僕は思っています。この地域、この都市の経営課題はなんなのかということを、行政だけでなく、市民も考えることはすごく必要だと思います」

欧米の事例に詳しい松永さんは、「PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)とかPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)などの公民連携は、アメリカで始まった考え方ですが、民間が基本的に主体となって町づくりをやるような流れになりつつあります。イギリスもアメリカとは違って、国の手当が厚い国であったわけですが、公共事業が誘い水になって、役所がやるなら民間の我々もやろうという世界になっている。EUも基本的にそういうスタンスです」と説明。公民連携事業の新しい潮流を示した。

■「公共より民間の方が高くつく」は本当か?

「民間事業のほうが、公共事業より高くつくのでは?」というイメージがあるが、果たして本当なのだろうか。ここで、岡崎さんはオガールベースと盛岡市の施設「つなぎスポーツ研修センター」を比較してみせた。

「つなぎスポーツ研修センターは、岩手県から盛岡市が土地を無償で借りています。資金原資は税金と補助金です。建物も無償で借りています。建物改修原資は税金です。これに対し、オガールベースは土地の賃料として年間300万円を紫波町に払っています。資金原資は民間の資金です。建物の原資は東北銀行から借りました。その結果、どうなるか? 高校生の合宿だったら、1泊2食で1600円もオガールベースの方が安くなります」

「オガールプロジェクト」をファイナンス面でアドバイスしてきた山口さんもこう語る。

「結局、公共事業と称して金は使えるだけ使うということ。補助金がこれだけ取れたからというところからスタートするケースが多い。10億円もらえたから、10億円使ってしまおうと。7億円で終わったので、3億円はお返ししますって話は聞いたことがない。無理やり10億円を使います。では、民間だとなぜいろいろな無駄がはぶけるかというと、東北銀行といううるさい存在がいるからです。銀行がだめだ、金は貸さないといえば、無駄をカットできます。僕は『リフレッシュ』と呼んでいますが、こういう事業をやる時の民間金融機関の役割はすごく重要で、紫波町にとっても一番、節約になる。この手法を使わない手はないと思います」

木下さんも「秋田の施設では、総事業費の8割が税金。中には数千万円のグランドピアノを買っていて、市民に1時間単位で安価に貸してくれます。けどそれって公共性があるのでしょうか。ましてはこんな事業では銀行もお金は貸してくれない。結局公共性も疑わしく、かといって事業性もない。半沢直樹だったら倍返しどころの騒ぎじゃありません」と笑う。「盛岡のスポーツセンターも、目に見えないコストが使用料にはねかえってきている。公民連携というやり方だったら、これは許されません。維持管理費から逆算して事業をやらなければなりません」

■小さな市場「バレーボール専用体育館」の勝算

成功したオガールプラザに続いてオープンしたオガールベースの中核は、バレーボール専用体育館だ。ここに勝算はあるのだろうか?

「大きなマーケットと小さいマーケットがあれば、みんな大きなマーケットを目指します。スポーツでいえば、野球やサッカーボールが大きなマーケット。市営野球場を作っても、誰も文句を言いませんが、町営バレーボールコートを作ったら文句が来ます。でもそんな小さなバレーボールという市場でも、そこに特化してみたら何が起きたか。今月、全日本ユースの合宿が来ます。来月は全日本中学選抜の合宿。東京オリンピック組織委員会からは、出場国のナショナルチームの直前合宿場にエントリーしていいかと問い合わせがありました。明日はV・プレミアムリーグのチームが来て試合をしてくれます」

オガールベースの中核施設、バレーボール専用体育館

小さなマーケットであるがゆえに、ライバルが少ないのがポイントなのだという。

「バレーボール専用体育館ではありますが、他の用途に使ってもいいわけです。そこをバレーボール専用体育館としたほうが、人は確実に来ます。紫波町内に普通の体育館は20カ所あります。町内でさえも競争です。ですから、今回のプロジェクトは、針の穴マーケットを目指しています。そこに東北銀行はお金を貸してくれました」

さらに山口さんは今回の戦略をこう解説する。

「大体、日本のスポーツマーケットはあまり大きくなくて、年間2兆5000億円といわれている。1兆8000億円はサッカー野球。残り7000億円をバレーやバスケ、柔道その他で占めているわけです。誰でも、1兆8000億円取りに行けという話になってしまう。でも、アメリカではこういうモデルを『レゲエモデル』と言っています。レゲエはすごく特殊な音楽で、一部の人しか聞かないけど、マニアックなファンが多いので、どんなに景気が良かろうが悪かろうが、音楽産業の3%というシェアは絶対に落ちない。オガールベースもそこを突いています」

「最初、『バレーボール? ふざけるな。7000億円のその他大勢の市場だろ』と最初に言われました。でも、逆に考えれば、7000億円も市場がある。紫波町が食べていくには十分な規模です。我々の規模からすれば十分食べていけるマーケットという発想が、これからは必要。高度経済成長の時は需要のピークがすごく大きくて、そこにミートできる企業は限られていた。でも、今、大企業どうなってますか? つまり、需要のピークに合わせるような大型産業はやっぱりだめなんですよ。まわりがサッカーワールドカップと騒ごうが、俺はバレーボールがいいという人は必ずいる。そこを取ればいい。それが、これから一番必要なビジネスのあり方だと思っています」

■地域に潜在化する資源をコンテンツとして投資に結びつける

これから、地方における公共事業や紫波町はどこへ向かうのだろうか。

清水さんは、「地方には空間資源があり余っています。そこに、どんなコンテンツを持ってくるのかが勝負になります。紫波町に置き換えると、スポーツがけっこう盛んで地域資源なんです。もうひとつは、食糧生産。これだけいい食材が作られている町はめったにないです。果物、穀物、野菜、肉、全部そろってます。そこで食文化も育てて、産業レベルにしていけます。こうした地域に潜在化している資源をどう見つけ出して、コンテンツとしてこういう町中の投資に結びつけていくかということが、今後は一番のポイントではないかと思います」とアドバイスした。

オガールプラザや広場のプランは、スペイン・バルセロナのランブラス通りがモデルになっているという。松永さんは、最後にこう語った。

「ランブラス通りを真似して大成功したショッピングアーケードがフロリダにあります。長い道を作って、それに面してアーケードにあるショッピングモールを作ったら、年間800万人が来るモールになりました。ぜひ一度、日本でも実現したいと思っていた時に、紫波町の話が飛んで火にいる夏の虫でやってきた。大成功します。ランブラス通りは今や、世界中から観光客が来ています。やがて、紫波町にも世界中から人が来る時代になります。楽しみにしていてください」

■紫波町が描いた未来予想図が現実に

シンポジウムを聞き終えてから、紫波町の人がボランティアで観光案内をしてくれるツアーに参加してみた。オガールプラザ、オガールベースを見学、近接する地区に2015年5月の開庁を目指して建設中の町役場があった。また、「オガールタウン」という住宅が並ぶ地区の整備も進んでいた。モデルハウスを見学すると、住宅も紫波町色を全面に出していた。「紫波型エコハウス基準」を設け、住宅の分譲をしているのだ。

「紫波型エコハウス」は、紫波町産木材を80%以上使用していることや、暖房エネルギーの消費量の抑制などが特長だ。紫波町では、木質バイオマスボイラーを熱源として熱供給を行う「エネルギーステーション」を設置。町役場やオガールタウンへの冷暖房・給湯用の熱を供給している。木材が豊富な紫波町ならではの「エコタウン」が出現しようとしている。

紫波型エコハウス

ここで、オガールプロジェクトの礎となっている「紫波町公民連携基本計画」をひもといてみよう。

「魅力的なブールバール(現オガール広場)のある街の朝は、一番乗りの店主が店を開けた瞬間から賑わいを見せる。足早に行き交う出勤途中の人々の中に、役場庁舎に向かう職員の姿がある。高齢者は早朝講座のために情報交流プラザ(現情報交流館)に集まって来ている。統一されたデザインの2列の事業棟の間に位置するブールバールを紫波中央駅前大通りに向かって歩いて行くと、住宅地の住民が通勤電車に乗る前に、駅前でカプチーノを買っている。通りの北側を見ると、高校生が始業に間に合うように学校へ急いでいる」

冒頭に描かれていたのは、紫波町の人たちが描いた「未来予想図」だ。その絵は着々と、現実となりつつある。

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