「そうりゅう型」潜水艦を日本から輸入する構想 オーストラリアで反発強まる

オーストラリアの次世代潜水艦の建造計画をめぐり、日本から完成品を輸入することを検討しているアボット豪首相に対し、入札実施を求める声が州政府や労働組合、与党内部から強まっている。 ロイターは9月、オーストラリアが最大12隻の潜水艦を日本から購入する方向に傾いていると報じた。
海上自衛隊

[シドニー 7日 ロイター] - オーストラリアの次世代潜水艦の建造計画をめぐり、日本から完成品を輸入することを検討しているアボット豪首相に対し、入札実施を求める声が州政府や労働組合、与党内部から強まっている。

ロイターは9月、オーストラリアが最大12隻の潜水艦を日本から購入する方向に傾いていると報じた。米国も3カ国の海軍の連携が強化されるとして、オーストラリアが日本から輸入することを支持している。

しかし、欧州メーカーが強い関心を示しているオーストラリアでの建造案は、豪国内の産業支援につながる上、労働組合からの批判もかわせる選択肢であることから、海外から購入する案を厳しい立場に追い込もうとしている。

南オーストラリア州のマーク・ハミルトン・スミス防衛産業相は、日本からの潜水艦購入計画は、アボット首相が次の選挙で権力を維持することを難しくする可能性もある、と指摘する。同州では造船関連の3000人を含む2万7000人が防衛産業で働いている。

今年アボット首相の自由党から離脱し無所属となった同相は「18カ月以内に選挙があるのに、こうした多くの雇用を生み出すであろうプロジェクトを海外に発注するとは何と勇敢な政府だろう」と述べている。

日豪の交渉過程を知る匿名の2人の関係筋は、潜水艦を割安で建造する戦いに巻き込まれるなら、日本は入札には参加しないだろうとみる。日本のディーゼルエンジン型潜水艦は、唯一オーストラリアのニーズに沿った規模のもので、オーストラリアが望めば、日本側は協力の用意が整っているという。別の関係筋は、オーストラリアが入札を実施するなら、どのような潜水艦が求められているかを見た上で入札に参加するかどうか決めるだろうという。

関係筋によると、オーストラリアは老朽化したコリンズ級潜水艦6隻の代替として、川崎重工業

日本は4月に武器の禁輸政策を見直し、一定の条件を満たせば輸出や他国との共同開発を認める防衛移転三原則を導入した。日本の武器輸出は部品にとどまっていたが、日本が潜水艦をオーストラリアに輸出することになれば、完成品を海外に売却する初のケースとなる。

アボット首相にとっては、自前でゼロから開発するリスクやコストを避けることにつながる。オーストラリア製のコリンズ級潜水艦が、音が大きく容易に探知されてしまうと酷評されたという事情もある。

<欧州勢も関心>

潜水艦を自国あるいは海外で建造することも含め、オーストラリアでは幾つかの選択肢が検討されている。防衛上の観点から検証を重ねた上で、最終決定は来年の初めと予想されている。

オーストラリアのジョンストン国防相は先月、入札を実施する時間的な余裕はなく、早急に新たな潜水艦を導入できなければ「防衛能力の空白期間」ができてしまうと述べている。

アボット首相はかつて、潜水艦は失業率の比較的高い南オーストラリア州で建造されると述べていたが、7月に方針を変えたようで、コストとスケジュールが最優先だと示唆し始めた。

この変化は日本との閣僚レベルの度重なる意見交換や、日豪経済連携協定(EPA)合意や防衛装備品および技術の移転に関する協定に調印した時期と一致する。

ドイツ、スウェーデン、フランスなどはまだそうりゅうクラスの大きさの潜水艦を建造した経験はないが、多大な関心を示している。

ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズは先月、キャンベラに代表団を派遣したが、広報担当者によれば、HDWクラス216潜水艦を基にした潜水艦をオーストラリアで建造することを希望している。また、入札があれば参加の意思を示している。

スウェーデンの防衛企業Saab

フランス国営の造船会社DCNSは、バラクーダ級原子力潜水艦を基にした潜水艦をオーストラリアで建造したい意向を確認した。広報担当者は「ブラジルやインドで実施済みだ」と話す。

匿名のオーストラリア海軍関係者は、政府はあらゆる選択肢を検討するよう非常な圧力を受けていると指摘し、「すべての選択肢が非常に綿密に検討されている」と述べている。

<与党内からも異論>

オーストラリアの製造業は、フォード

オーストラリア製造業労働者組合の幹部は、「英BAEシステムズ

アボット首相の与党自由党に所属する南オーストラリア州の3人の上院議員も、先月入札の実施を求め、党内から異論が出始めた。

2議員がシドニー・モーニング・ヘラルド紙に反対意見を表明し、もう1人の議員は上院で発言した。

南オーストラリア州のニック・セノフォン議員(無所属)は、こうした反対意見はアボット氏へのさらなる圧力になっているという。

同議員は「潜水艦の建造は産業政策ではないと政府は何度も言ってきた。その通りだと思う。しかし、国益に基づくべきであり、国益には戦略的な利点や経済的な利益も含まれる」とロイターに述べた。

<米国は日本支持>

米海軍の高官は、オーストラリアがそうりゅう型潜水艦を日本から購入することに支持を表明する。米国は日本とオーストラリアとそれぞれ安全保障条約を結んでいる。

米海軍のロバート・トーマス第7艦隊司令官は10月24日に東京で記者団に対し、そうりゅう型潜水艦はディーゼルエンジン型としては世界で最も優れていると説明し、オーストラリア軍にとっても非常に快適だろうと述べた。

「同盟国、パートナーや友人の間で共通の装備を持てば、いちいち修正を加えたりする必要がなく、連携は極めて容易になる」と指摘した。

しかし、前出のセノフォン議員は、軍事技術なども絡むため、日本との協力で合意すれば、オーストラリアの最大の貿易相手国である中国を刺激する可能性があるとみている。同議員は「日米豪という同盟上の理由から決定が下されようとしているようにみえる。それは狭い視点だし、オーストラリアの国益には合致しないだろう」と指摘した。

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