【ロボット革命】韓国や中国に猛追される日本 今後のカギを握るのは...

「ロボット大国」日本。米国やドイツ、韓国や中国などに猛追され、その牙城が脅かされつつあることに関係者は危機感を強めている。
Reuters

世界屈指の「ロボット大国」日本。ロボットは日本の技術的優位性がまだ残されている分野の1つでもある。しかし今、米国やドイツ、韓国や中国などに猛追され、その牙城が脅かされつつあることに関係者は危機感を強めている。

信州大学医学部付属病院の脳神経外科医、後藤哲哉氏はかつて、7年越しで進めていた手術支援ロボットの試験を始めた矢先に、政府がロボットの規制強化に向かっていることを知った。

それから十数年、後藤氏は国産ロボットが試作機さえ日の目を見ることができないなか、ライバルである米国製の手術支援ロボット「ダヴィンチ」が米規制当局に承認され、商業的成功を収めているのを悔しい思いで見てきた。

ロボットの活躍の場が工場から一般家庭、病院や店舗、紛争地帯に広がる中、日本の当局者らは現在、研究者からイノベーションの阻害要因だと批判される各種規制を改めることで、新たな「ロボット革命」を後押ししようとしている。

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ロボット・機械システム部の主任研究員、真野敦史氏は「日本の競争力の源泉をロボットが担えると思っている」と語る。

NEDOは、川崎重工業

国際ロボット連盟によると、急成長している産業用ロボットシステムの市場規模は、世界で年間290億ドル(約3兆4500億円)だという。

安倍晋三首相は新成長戦略を発表した今年6月、規制緩和などで日本のロボット市場は2020年までに3倍に拡大し、2.4兆円に達する見通しだと語った。

医療用ロボットは市場規模こそまだ小さいが、大きな可能性を秘めており、日本では10年以内に産業用ロボットを上回るとみられている。

新たな手術支援ロボットの開発は、後藤氏が規制の壁にぶつかった当時と比べれば、障害は少ないはずだ。

「当局は(2005年施行の)薬事法改正が医療機器参入の障害になったとは言わないが、われわれのような研究者や企業は、これにより日本の研究がストップしたと捉えている」と後藤氏は語った。

安倍首相は規制緩和と構造改革を約束しているが、過去2年にわたる政策は行き詰まりを見せており、来月にはアベノミクスが最大の争点になりそうな総選挙が行われる。

<日本のライバル>

日本が規制緩和に動く大きな引き金となったのは、今から1年前、元東京大学助教2人が中心となって立ち上げたベンチャー企業「SCHAFT(シャフト)」を米グーグル

早稲田大学の藤江正克教授は「二足歩行ロボットと言えば日本だと誰もが思っているなか、それも持って行かれたという衝撃があった」と語る。

米国のロボット産業の主なけん引役は軍であり、無人機や災害救助ロボットなどに資金を提供して実地試験も行っている。その一方で、シリコンバレーはグーグルの自動運転車にみられるような人工知能や自律システムの開発を進めている。

経済産業省の元産業機械課長で、日本のロボット戦略に関わった須藤治氏は「正直、米国の計画も気になる」と話す。

米国以外も、ロボットを産業政策の最前線に押し出している。中国は過去10年でロボットの売り上げが32倍に急増。2013年には世界最大のロボット市場となり、日本を上回った。

韓国はロボット産業に年間5億ドルを投じる5カ年計画を打ち出し、欧州連合(EU)も研究開発・イノベーション枠組みプログラムに年間1億ユーロを投じている。

追いつかれたくない日本は来年度予算の概算要求で、ロボット関連の要求総額が約160億円となっている。

しかし、ロボット工学が専門の早稲田大学の高西淳夫教授は、日本が成功するか否かは、絶対的な安全を義務付けることで乗り越えられない壁ともなる規制プロセスを変えられるかにかかっていると指摘する。

経済産業省は、医療機器の認可手続きを緩和し、試験的に介護施設へロボットを導入できるよう厚生労働省に働きかけてきた。

経産省はまた、パナソニックのベッド型介護ロボットが2月に認証を取得した生活支援ロボットの国際安全規格を主導している。

経産省の現産業機械課長である佐脇紀代志氏は、規制緩和がロボット産業を成功に導く機会を十分につくりだしていると自信を見せる。「医療機器に関する医薬品法上の手続きは緩和されている」とし、「当時のような言い訳を企業は使えなくなってきている」と語った。[東京 20日 ロイター]

(Sophie Knight記者、金子かおり記者、笠井哲平記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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