衆院選だけじゃない 同時に行われる「最高裁判所裁判官国民審査」とは

総選挙が行われる12月14日まで、あと2日となった。今回の選挙では、衆議院選挙と同時に「最高裁判所裁判官国民審査」が行われる。日本最高の司法機関である最高裁判所の裁判官にふさわしい人物か、有権者ひとりひとりが審査する。何を考え、どのように投票すればいいのか。政治メディア「ポリタス」に掲載された記事をご紹介する。

総選挙が行われる12月14日まで、あと2日となった。今回の選挙では、衆議院選挙と同時に「最高裁判所裁判官国民審査」が行われる。

日本最高の司法機関である最高裁判所の裁判官にふさわしい人物か、有権者ひとりひとりが審査する。何を考え、どのように投票すればいいのか。政治メディア「ポリタス」に掲載された記事をクリエイティブ・コモンズライセンスにもとづき、転載する。

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最高裁判所裁判官国民審査公報は⇒こちら

(各裁判官の略歴や最高裁判所において関与した主要な裁判でどのような意見を述べたのかが掲載されています)

12月14日(日)に投票が行われる今回の第47回衆議院選挙は、既に期日前投票が開始されています。一方、今回の衆議院選挙と同時に実施される「最高裁判所裁判官国民審査」の期日前投票は、投票日の7日前——今回の衆議院選挙であれば12月7日(日)になるまでできません。本日6日(土)までは期日前投票や不在者投票ができるのは衆議院選挙だけなので、国民審査も期日前に一緒に済ませたい方は注意が必要です。

■どんな審査なの?

日本最高の司法機関である最高裁判所の裁判官にふさわしい人物かどうか、国民が直接審査します。審査が行われるのは、最高裁判所裁判官に任命された後はじめて行われる衆議院議員選挙のとき、その後は10年経過するごとに衆議院選挙と合わせて行われます。

■どうして重要なの?

最高裁判所の裁判官は、長官と判事合わせてたった15名しかいません。その15名のうち少なくとも10名は、10年以上の裁判官経験または20年以上の法律専門家経験が必要になります。日本の最高裁判所は、法律などが憲法に反していないかどうかの判断を下す権利があります。また、最高裁判所の判例は、その後の法律運用の基準となるきわめて重要なものです。過去、最高裁判所で誤った判決が下された例もあり、またそれらの裁判官がいまも現役であったりもします。

■どうやって投票するの?

国民審査のやり方は簡単で、辞めさせたいと思う裁判官に「×」印を書き、有効投票の過半数が「×」だった裁判官は辞めさせられます。何も記入しないと辞めさせないという意思表示とみなされ、「×」以外の記入はすべて無効となります。そして、(ほかではあまり書かれていませんが)国民投票は「棄権」することができます。その場合は投票用紙を受け取らないもしくは返却し、何も投じません。

■なにを基準に判断すればいいの?

審査する裁判官の情報は、各家庭に配られる『最高裁判所裁判官国民審査公報』または最高裁判所のサイトに掲載されています。お手元に届く公報にはその裁判官が過去に関わった事件と、その際どういう判決を下したかが書かれています。しかし、書かれている内容が専門的で難しいこと、一人あたり1000字以内という制限があることから、なかなかこれだけでは判断できない方が大半だと思われます。

以下、簡単に今回の審査の対象になる5名についてまとめました。信任するかどうかの判断材料にお使いください(敬称略)。

鬼丸かおる(おにまる・かおる)

生年月日:1949年2月7日(65歳)

任命された年月日:2013年2月6日

東京都生まれ。東京大学法学部卒業。史上5人目の女性の最高裁判所判事(鬼丸氏就任により、15名のうち3名が女性となる)。

●主に関わった裁判:

  • 東京「君が代」裁判第二次訴訟最高裁判決文東京都が教職員に卒業式で君が代の斉唱を義務づけていることが憲法に違反するかどうかが争われた裁判で最高裁が「憲法に違反しない」という判決を出した際、職務命令による斉唱義務付けは「個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となり得る」とし、命令不服従に対する不利益処分は慎重で衡量的な配慮が求められるべきという補足意見を付した。
  • 昨年の衆院選は「違憲状態」 最高裁大法廷2012年12月の衆院選小選挙区選出議員の選挙は違憲状態の選挙区割りで行われたが、是正のための合理的期間は徒過していないので区割規定は合憲であるとした多数意見について「憲法は国民の投票価値をできる限り1対1に近い平等を保障している」とした上で「区割りはこれに反するが投票価値の平等を保障する選挙制度の構築には時間を要する」との理由から前述の合理的期間は徒過していないとの意見を付加した。
  • 2013年参院選の「一票の格差」をめぐる最高裁判決2013年参院選の1票の格差をめぐる最高裁判決で「憲法は国民の投票価値をできる限り1対1に近い平等を保障している」とした上で、「選挙制度の見直しを求めた2009年最高裁判決からの約3年9カ月間で、投票価値の平等を基本とする公職選挙法改正は実現できたはずだ」と述べ、同選挙の時点で既に国会の裁量権の限界を超えて違憲であると判断、「同選挙は違法であると宣言すべきである」との意見を付した。

●インタビュー記事:

木内道祥(きうち・みちよし)

生年月日:1948年1月2日(66歳)

任命された年月日:2013年4月25日

徳島県生まれ。東京大学法学部卒業。倒産事件と家事事件のエキスパートで、阪神・淡路大震災後被災者救済に尽力。

●主に関わった裁判:

  • 12年衆院選は違憲状態、最高裁判決 1票の格差2.43倍2012年12月の衆院選小選挙区選出議員の選挙は違憲状態の選挙区割りで行われたが、是正のための合理的期間は徒過していないので区割規定は合憲であるとした多数意見について「投票価値の較差は違憲状態であり、かつ、それが合理的期間内に是正されておらず違憲であるが無効とはしないものの、今後裁判所の裁量により一部選挙区の選挙を無効とすることがありうる」との反対意見を述べた。
  • 「性同一性障害訴訟」決定要旨性同一性障害特例法により男性への性別変更を受けた者の妻が婚姻中に第三者との人工授精でもうけた子の嫡出子認定をした判決で「高度化する生殖補助医療など民法の立法当時に想定しない事態が生じている。最善の工夫を盛り込むことが可能なのは立法による解決だが、現状では特例法、民法で解釈上可能な限り、そのような事象も現行の法制度の枠組みに組み込み妥当な解決を図るべきだ」との補足意見を述べた。
  • 法律上の「父」、認知無効の請求は可能 最高裁が初判断血縁関係のない子を認知した法律上の父親が、自ら認知無効を請求できるかどうか争われた訴訟の判決で「認知者は、自らした認知の無効を民法786条により主張することができ、これは血縁上の父子関係がないことを知って認知した場合においても異ならない」との補足意見を述べた。
  • ねずみ講、管財人に請求権 最高裁が初判断不法な無限連鎖講(ねずみ講)を営んでいた会社の破産管財人が、損失を受けた被害者に弁済するため、上位会員にもうけた利益の返還を請求できるかが争われた訴訟の判決で、裁判長としてねずみ講の上位会員が請求を拒むことは「信義則上許されない」との補足意見を述べた。
  • 2013年参院選の「一票の格差」をめぐる最高裁判決2013年参院選の1票の格差をめぐる最高裁判決で参議院議員通常選挙の定数配分規定について「投票価値の較差は違憲状態であり、かつ、それが同選挙までに是正されなかったことが国会の裁量権の限界を超えていて違憲であり、議員一人当たりの選挙人数の少ない順に裁判所の選定した数の選挙区の選挙を無効としうるが、今回は無効とはしない」との反対意見を述べた。

●インタビュー記事:

池上政幸(いけがみ・まさゆき)

生年月日:1951年8月29日(63歳)

任命された年月日:2014年10月2日

宮城県生まれ。東北大学法学部卒業。検察官出身で、法務省大臣官房長、大阪高等検察庁検事長等を歴任。

●主に関わった裁判:

  • 保釈許可決定に対する抗告の決定に対する特別抗告事件地裁が下した保釈の許可を検察官が抗告し、高裁で保釈が取り消された際に最高裁に特別抗告した事件で最高裁は「保釈の判断は被告人の審理を担当している裁判所の裁量に委ねられており、抗告された場合にそれを覆す場合、その判断が裁量の範囲を逸脱していて不合理であることを具体的に示さなければ覆せない」とし、これを具体的に示さず保釈を許さないとした抗告審の決定を取り消し、改めて被告人の保釈を全員一致で許した。
  • 2013年参院選の「一票の格差」をめぐる最高裁判決2013年参院選の1票の格差をめぐる最高裁判決で「参議院議員通常選挙の定数配分規定について違憲状態にあったが、国会の較差是正の実現に向けた取組が国会の裁量権行使の在り方として相当なものでなかったということはできず、憲法違反ではない」という多数意見を述べた。

●主に関わった裁判(最高裁判事就任前、検事時代):

  • 「破棄しないと著しく正義に反する」 最高裁にそうまでいわれた「ある犯罪」催涙スプレーを携帯していた会社員男性が軽犯罪法違反で在宅起訴された裁判の上告審を検事として担当。最高裁判事は全員一致で1審、2審判決を「軽犯罪法1条2号の解釈適用を誤った違法」「破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる」として逆転無罪判決を下した。この判決を受け、最高検公判部長として「判決文をよく精査し、今後の執務の参考としたい」とのコメントを出した。
  • 最高裁、痴漢事件で逆転無罪判決 慎重審理求める初判断大学教授が2006年の小田急線車内で女子高生に痴漢をしたとして強制わいせつの罪に問われていた裁判を検事として担当。1、2審を破棄し逆転無罪判決を出し、最高裁として初めて痴漢事件に関する審理の在り方が示された。この判決を受け、最高検公判部長として「被害者供述の信用性が否定されたのは遺憾だが、最高裁の判断なので真摯に受け止めたい」とのコメントを出した。
  • 職権乱用罪の適用には否定的見解示す、最高検2010年に大阪地検特捜部の検事が証拠のフロッピーディスクのデータを改ざんして隠蔽した事件について最高検刑事部長として「刑法には公務員職権乱用罪と特別公務員職権乱用罪の規定があるが、(罪の)構成要件は厳格。公判を請求しただけや、判断ミスによるものだけでは罪にならない」と記者団の質問に答え、同罪の適用には否定的な姿勢を示した。

●インタビュー記事:

山本庸幸(やまもと・つねゆき)

生年月日:1949年9月26日(65歳)

任命された年月日:2013年8月20日

福井県生まれ。京都大学法学部卒業。通商産業省、在マレーシア日本国大使館書記官、内閣法制局長官等を歴任。

●主に関わった裁判:

  • 2013年参院選の「一票の格差」をめぐる最高裁判決2013年参院選の1票の格差をめぐる最高裁判決で「国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず憲法に違反するものではない」とする多数意見に対し、「一票の価値の平等は唯一かつ絶対的な基準であるべき」との観点から反対意見を述べた。同時に「違憲と判断した以上は選挙自体を無効にすべきとの観点から投票の価値が全国平均の8割に満たない選挙区についてのみ無効とし、残る議員で院を構成して一票の価値を平等とする選挙法の制定を促すべき」という反対意見を述べた。

●インタビュー記事など:

  • 山本新判事、解釈変更「難しい」 集団的自衛権行使で内閣法制局長官から最高裁判事に就任した際の記者会見で安倍政権が進める憲法解釈による集団的自衛権容認について「現行の憲法で約半世紀維持されてきた解釈を変えるのは、なかなか難しいと考えている」とし、「集団的自衛権を実現するには憲法改正をした方が適切」との見解を表明した。

山﨑敏充(やまさき・としみつ)

生年月日:1949年8月31日(65歳)

任命された年月日:2014年4月1日

大阪府生まれ。東京大学法学部卒業。最高裁判所事務総長、名古屋高等裁判所長官、東京高等裁判所長官を歴任。

●主に関わった裁判:

  • 2013年参院選の「一票の格差」をめぐる最高裁判決2013年参院選の1票の格差をめぐる最高裁判決で「参議院議員通常選挙の定数配分規定について違憲状態にあったが、国会の較差是正の実現に向けた取組が国会の裁量権行使の在り方として相当なものでなかったということはできず、憲法違反ではない」という多数意見に対し、「参議院議員の選挙制度における投票価値の平等の要請は国政の運営における参議院の役割等に照らせば、できるだけ速やかに、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる前期の不平等状態が解消される必要があるというべきである」との補足意見を付加した。

●インタビュー記事:

最高裁判所裁判官国民審査公報は⇒こちら

(各裁判官の略歴や最高裁判所において関与した主要な裁判でどのような意見を述べたのかが掲載されています)

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