フィンランド発プログラミング女子「レイルズガールズ」 世界で拡散中 ネット業界にもダイバーシティ

女子だってプログラミング! フィンランドで始まった、女性を対象としたプログラミングのワークショップ「レイルズガールズ」が世界中で広がっている。これまでに227都市で開催、1万人以上の女性が参加。日本でも2012年から7都市で開かれている。なぜ女性たちは今、「プログラミング女子」を目指すのか?
猪谷千香

女子だってプログラミング! フィンランドで始まった、女性を対象としたプログラミングのワークショップ「レイルズガールズ」が世界中で広がっている。これまでに227都市で開催、1万人以上の女性が参加。日本でも2012年から7都市で開かれている。なぜ女性たちは今、「プログラミング女子」を目指すのか。この活動を立ち上げたフィンランドのリンダ・リウカスさん(28)が来日、フィンランド大使館で会見した。

■プログラミングの世界にもダイバーシティを

リンダさんはプログラマーであり、イラストレーター、作家としても活躍している。13歳の時、当時のアメリカの副大統領アル・ゴア氏に夢中になり、フィンランド語のファンサイトを作ったことがプログラミングの世界に入るきっかけだったという。

その後、大学でビジネスとデザイン、アメリカのスタンフォード大学でプロダクト・エンジニアリングを学んだリンダさん。自身の経験から、「男の子だけではなく、もっと普通の女の子にもプログラミングに親しんでほしい」と、2010年に「レイルズガールズ」を立ち上げた。

「レイルズガールズ」では、初心者でもプログラミングを理解し、簡単にアプリがつくることができる無料のワークショップを開催。運営はボランティアで行われ、現在では世界の各都市で開かれるようになっている。「ヘルシンキでは『訪れるべき観光地』を紹介するアプリ、シンガポールではお気に入りのハイヒールを並べられるアプリをつくりました」と話す。

「私はプログラミングや数学をとてもつまらないものと思うような女の子でした。でも、プログラミングを知り、世界を変える一番の良い方法だと思うようになりました」とリンダさん。「レイルズガールズ」は「ダイバーシティ(多様性)をプログラミングの世界に呼びこむための活動」と語る。リンダさんによると、世界的に男女平等が進んでいるとされるフィンランドでも、プログラミングを専門に学んでいる女子学生は3割に過ぎないからだ。

■小さい女の子がプログラミングを学ぶ絵本に支援38万ドル

リンダさんは「レイルズガールズ」以外にも、女の子が幼い頃からプログラミングに触れられるべきだとして、絵本「Hello Ruby」をつくるプロジェクトを立ち上げている。2014年1月にはクラウドファンディングのサイトで支援を募ったところ、たった3時間半で目標の1万ドルを突破、最終的に38万ドルの資金を調達。この秋にはアメリカで「Hello Ruby」が出版される予定だ。

絵本「Hello Ruby」のイメージ

「この絵本は、小さな女の子、ルビーが主人公です。もし6歳の子供だったら、コンピューターの概念をどういうふうに理解して、カラフルに楽しく学べるか、工夫しています。たとえば、プログラミングのアルゴリズムと聞けば、ちょっと怖いと思うかもしれませんが、今まで料理をしたことのある人は、実は誰でもアルゴリズムに触れているのです。

カップケーキのレシピで、たくさんの材料を用意すれば、たくさんのカップケーキをつくるこができます。プログラマーはこうしたレシピを作るのが仕事です。それから、シークエンス(手順)という考え方があります。ルビーは学校に行くとき、パジャマを脱いで服を着なければなりませんが、パジャマを脱ぐことを教えなければ、服をパジャマの上に着てしまいます。同じように、コンピューターも正しい順序を教えないと、動いてくれません。

パジャマの上から服を着てしまうルビー

他にも、ルビーにおもちゃを片付けるように言った時は、ペンと鉛筆が床に置きっぱなしなってしまいました。なぜなら、ペンや鉛筆はおもちゃじゃなかったからです。コンピューターの世界では、こうした名前付けがとても大事です。また、ルビーにはたくさんのルールがあって、月曜日には赤とグレーの色の服を着ます。金曜日には黒くない服を着るようにしています。こうやって問題をわけることによって、子供たちはルールを学びます。

やがてルビーは大きな問題は小さな問題がからまってできていることに気づきます。これはプログラマも一緒で、たとえばFacebookをどうつくるかという大きな問題を小さな問題に分割して解決していくのです」

■フィンランドで2016年からプログラミングが必修に

なぜ、女の子もプログラミングを学んでもらう必要があるのか、リンダさんは重ねて説明する。

「生物学者が実験でピペットを使うのと同じように、正しいプログラミングは世界のすべての人が使う道具だということです。そして、すべての会社が近い将来、ソフトウェアの会社になります。フィンランドでも、林業はソフトウェアに関係しないという人がいます。しかし、林業でも木を伐採する機械はソフトウェアで動き、市場価格からどの木を切るかという判断は、ソフトウェアを使って計算しています。ですから、これから私たちの社会は、もっとたくさんのプログラマーが必要ですし、同じアイデアを共有してくれる人材が必要になります。そして、最も大切なのは想像力です」

リンダさんは笑う。「プログラミングは、たとえばフィンランド語や日本語など普通の言語と同じように文法を教える必要があります。そして、文法を教えるだけではなく、読んで書くことを教える必要もあります。世界でこれから重要となる言語は、英語、中国語、それからJavaScriptだという人がいるぐらいです」

フィンランドでは、2016年からアートや言語などの授業の中でプログラミングを学ぶことが必修になるという。

「すばらしいことが始まろうとしています。7歳以上の子供はすべての学年でプログラミングを学ぶことが必修になります。もちろん、女の子も教えてもらいます。その年代の子供たちは、女の子はプログラミングをしてはいけないという刷り込みがないので、熱中してくれます。彼女たちはプログラミングで自分の考え方を表現できるのです」

■日本でも「レイルズガールズ」が広がっている背景

リンダさんの活動は今や全世界に広がっているが、日本でも「レイルズガールズ」は開かれている。2012年9月に初のワークショップが東京で開かれ、2014年までに7都市で開催、延べ230人が参加してきた。3月には塩尻、4月には京都でそれぞれ予定されている。参加者は、20代から30代が中心の女性たちだ。

日本でも拡散している「レイルズガールズ」。その背景には、ソフトウェア業界の男女比率のアンバランスがある。2013年3月に東京で開催された2回目の「レイルズガールズ」を企画するなど、この活動に携わってきた株式会社万葉の鳥井雪さんはこう説明する。

「日本のソフトウェア業の就業者男女比は、男性が81%、女性が19%です(2010年国勢調査より)。アンバランスっであることで、男女双方が居心地の悪い思いをしてます。これを私たちと暮らしている世界と同じぐらい、多様性が保たれる業界になってほしいと思っています。そのためには、女性にまず技術に触れてもらい、自分たちでも技術は扱えるんだということを知ってもらうために、レイルズガールズを開いています」

日本で開かれている「レイルズガールズ」に携わっている鳥井雪さん

「レイルズガールズは、逆差別じゃないのか、女性だけずるいという話も聞きますが、アマーマティブアクション(差別是正措置)として考えています。90年代初めまで、中学高校では男子が技術の授業を受けている時間帯に、女子は家庭科の授業を受けていました。つまり、今の30代以上の女性は、義務教育で技術にふれる機会を奪われてきたわけです。技術が男女ともに必修になったのは1994年です。ですから、女性だけを支援するのではなく、機会が与えられなかった人たちを支援するということだと思います」

「レイルズガールズ」の参加者たちはその後、勉強会を定期的に開くようになったり、エンジニアとして就職した人もいる。中には、長年、家庭科の教師をしてきたという50代の女性が「これからの時代はプログラミングが必要」と参加したこともあったという。

これからは世界中で「プログラミング女子」が今後、増えるかもしれない?

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