「たくさんの業務を与えておいて、残業するなと言う上司(32歳/男性)」、「上司の話を聞くだけのビジネス飲み会なんて…!(27歳/女性)」、「部下を叱っただけなのに、パワハラ呼ばわりされる恐怖(49歳/男性)」。
どうにも生きづらい世の中だ……。
日夜仕事をこなすビジネスマンは皆、少なからずストレスを抱えている。働く環境や人間関係、成果を求められることへのプレッシャーなど、その理由はさまざま。ストレス社会は、今に始まったことではない。しかし近年、生活習慣やストレスが、三大疾患(がん、急性心筋梗塞、脳卒中)の要因のひとつになっているとも言われている。
厚生労働省は、労働者の心の健康状態を把握するため、「ストレスチェック」の実施を義務づけた。従業員数50人以上の企業で、2015年から実施されることになる。国がこの制度を導入することからも、ストレスは現代社会において深刻な問題であるということがわかる。労働者のストレスによるパフォーマンスの低下は、経済悪化を不安視する向きもあるのだ。
ストレス社会で戦うビジネスマンが、心身ともに健康で、いかにパフォーマンスを発揮できるか。この問題に、独自の視点で向き合う飲料メーカーがある。
ストレス社会で戦う人々をサポートする「菌」とは?
ヤクルト本社は、ストレス社会で働くビジネスマンに向けた商品「BF-1」を2008年から販売している。「BF-1」はビフィズス菌B.ビフィダム Y株を使用した乳酸菌飲料。実際、人を対象にB.ビフィダム Y株を含む飲料を、1カ月間飲用する試験を行ったところ、ストレスにより上昇することが知られている唾液中のコルチゾール濃度が減少したのだ。
一般的に乳酸菌やビフィズス菌といえば、整腸作用があることは広く知られているが、このビフィズス菌には他にも可能性が秘められているようだ。「BF-1」に含まれるB.ビフィダム Y株には一体どのような特徴があるのだろう?
「BF-1」の開発担当である増田智之氏によると、「ビフィズス菌は酸素に弱い性質があるため、胃の中に存在する酸素に触れると死んでしまう。そこで、菌を強化培養することで、酸素に負けない強い菌を作っている」という。「BF-1」に含まれるビフィズス菌B.ビフィダム Y株は強化培養された菌ということのようだ。
ところで強化培養とは、一体どういうことだろう?
「分かりやすくいえば、菌のスパルタ教育ですね。ライオンが子供を谷に落とすような(笑)。酸素に触れても死なない強い菌だけを残す作業を繰り返すことで、酸素に強い菌に育てています」。
ヤクルト本社開発部 増田智之氏
空気に触れても死なずに、生きたまま胃や腸に届く、というのは、菌を強く育てるという同社の技術によって叶えられているのだ。
「自分が美味しく飲みたかったから」味へのこだわりとは?
2008年に販売を開始した「BF-1」だが、今回、風味とパッケージデザインを一新して、2015年3月23日にリニューアル発売されることになった。これまで「BF-1」の味わいは、まろやかなミルク味としていたが、ヨーグルト風味に変えたという。競合商品を含め、ヨーグルトドリンク市場が伸びていることが背景のようだ。飲料メーカーとして、味を変えることに迷いはなかったのだろうか?
増田氏はこう説明してくれた。「開発メンバーで議論し、多くの人に受け入れられやすいヨーグルト味になりました。ただ既存のお客様にも飲んでいただけるよう、酸っぱくないまろやかなヨーグルト味です。実は、私は牛乳が苦手でして……。自分も美味しく飲みたかったんです(笑)。結果的に、牛乳が苦手な方にも美味しく飲んでいただけるものになったと思います」。
ヤクルト本社開発部 野中千秋氏(左)増田智之氏(右)
味の好みは人それぞれであるため、「この味!」と決定づけるのは難しい。ヤクルト本社では、開発段階で味の嗜好調査を行っている。開発部の野中千秋氏によると、嗜好調査とは「さまざまな年齢の男女に、美味しさの評価だけではなく、1〜2週間飲み続けてもらい、飽きられないかどうかの継続性について確認する」のだという。
「BF-1は、ストレス社会で生きる人々に向けた飲み物として提供しています。お客様に毎日続けていただける商品作りをしていますし、飲むこと自体がストレスになってしまわないよう、美味しさにはこだわっています。自信を持って送り出せる商品に仕上がりました」と、増田氏は胸を張る。
「可愛がって育てた商品、美味しく飲んでほしい」開発者の思い
これまで数々の商品開発に携わってきた2人は、開発者としての思いを語ってくれた。「我が子のように可愛がって作ったものが、世に出て、お客さまに喜んでいただけると、開発者としては何よりうれしい」(野中氏)。「たまにダメなときもありますけどね。時々思い出したりますよ。あんなにイイ子だったのになぁって(笑)」(増田氏)。
乳酸菌を手軽においしく摂取できる「ヤクルト」は、誕生から80年が経った。今でも、変わらない味で多くの人に親しまれ、愛飲されている。ヤクルト誕生には、どのようなストーリーがあったのだろう。
今の商品開発につながる、ヤクルトの誕生秘話
医学博士・代田 稔(しろたみのる)は、長野県飯田市の山々に囲まれた地域で育った。1900年代初期の日本では、衛生環境の悪さや栄養不足で、子供たちが疫病にかかり、命を落とすことも少なくなかったという。「疫病は細菌からきている。かかってからでは治らない。病気にかからないための予防が大切」と悟った代田 稔は、人の腸の中にいる体に良い菌に着目した。
京都帝国大学に入学した代田 稔は、「菌」の研究に没頭した。よい菌だけを取り出し、もっと丈夫な菌に育てるという研究を重ね、ついに、世界初となる乳酸菌の強化培養に成功したのだった。代田 稔の名前から“乳酸菌 シロタ株”と名付けられ、これが乳酸菌飲料「ヤクルト」誕生の原点となる。
菌と科学の力で、世界中の人々に健康を
以来、製造元のヤクルト本社では、“人々に健康を届ける”という方針のもと、「菌」の研究・開発を強みとした商品を数多く手がけている。現在は33の国と地域でヤクルトが愛飲されているのだ。海外進出のきっかけは、かつての日本のように健康課題を抱えた国々から「ヤクルトを販売してほしい」といった声があがったからだ。現在もなお、飲んだ人のクチコミで各国へ広がり、グローバル展開が進んでいるという。
ヤクルトの世界進出は1964年、台湾を皮切りに、ブラジル(1968年)、香港(1969年)と続き、今では33の国と地域に広がった
現代の日本では、食料不足といった問題も少なく、豊かな暮らしができるようになってきた。一方でストレス問題など、「心の不健康」が叫ばれる世の中。「BF-1」には、そうしたストレス社会を生き抜く人々や、ビジネスマンの健康を願う、開発者の思いが込められている。